第60話 降臨
耳鳴りがする。何か息苦しい。
次の瞬間、目の前に物凄く大きな人物が現れた。
普通の人間の二倍くらいあるように見える。遠近感がおかしくなる。何かよくわからない圧迫感を感じる。それも精神的なものではなく、物理的な力、体が押しつぶされそう。
「ごめん、ごめん」
そう言うと、その人物は少し縮んだ。
それでもまだ大きいし、遠近感がおかしい。でも、圧迫感も耳鳴りも、息苦しさもスーッと消えてなくなった。
「…何をしているんですか?こんな所で…」
ジョシュアさんが物凄く怪訝な表情で唸るような低い声で、その人物に尋ねた。
「彼に頼まれて、ユーリーの様子を見に来た。今は不在のようだね。」
「彼?」
「こちらが?」
そう言うと、大男がこちらを見た。
ジョシュアさんが私を隠すように、その男と私の間に立ちはだかった。
「彼女は関係ないでしょう。」
「そんなに警戒する必要はないだろう。仲間なのだから。」
そう言うと、その男はまた縮んだ。それでもジョシュアさんより背が高い。
「仲間ではないでしょう。」
そう言うと、ジョシュアさんは少しだけ警戒を解いたように見えた。
「私にもお茶を入れてくれないか?」
そう言うと、その人は私の隣の席に座り、こちらに向かって微笑みかけた。
見たこともないような綺麗な人、綺麗とか通り越している…映画に出て来るエルフ何てもんじゃない。透き通る様な白い肌でシミひとつない。深くて鮮やかな青い瞳をしていて、輝くような金色の髪が膝くらいまで伸びている。服装は真っ白でアオザイに似ている。もしや、これが最盛期の神使ってやつなのか?銀ちゃんの同僚とか?先輩とか?どちらかというと先輩っぽい風格を感じる。銀ちゃんもエデンにいるときはこのくらい輝いているのだろうか?うう、眩い。
「君が馬場 明?」
そう尋ねて来た。どうして私の名前を知っているんだろう?そう思いつつも、
「はい、馬場 明です。初めまして。」
「私は、イムナ。初めまして明。」
ジョシュアさんが彼の前にティーカップを静かに置いた。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
そう言って、イムナさんは優雅にカップを持ち、ゆっくりと口元に運んだ。
その動きにうっとりと見とれていると、お茶を一口飲み終えた彼が、再びこちらを見てニッコリと微笑んだ。
やばい、見とれてしまう。
「ヒオスが淹れたお茶は美味しいね。」
ジョシュアさんの方を見て彼がそう言うと、ジョシュアさんは少し嫌味っぽく答えた。
「お茶の味なんて分かるんですか?」
何だかいつもの飄々としたジョシュアさんとは違う…この人の事があまり好きじゃないのかな?優しそうな人なのに。
「わかるよ。美しい澄んだ味がする。」
そう言ってイムナさんはジョシュアさんに微笑みかけたが、ジョシュアさんはその言葉を無視して、
「ユーリーの様子を見に来たのであれば、彼がいる時に来ればいいじゃないですか?それに、普通、来ないでしょう。用事があるならば呼んで下さい。いつでも伺いますから。」
「私はそう言う立場じゃないからね。忙しい君を、私用で呼びつけるなんて、何だか申し訳なくて。」
そう言って、また一口お茶を飲んだ。
「忙しくなんてありませんよ。」
「そう?エシャは元気?」
「ええ、元気です。不躾な物言いで申し訳ありませんが、彼女のことはお構いなく。」
「困った時はお互い様だろう。」
イムナさんは微笑んだままだが、ジョシュアさんは苦虫をかみつぶしたような表情をしている。こんな悔しそうな顔することあるんだ…人間なんだ、この人…って初めて思った。
「折角だから、私のことを明に紹介してくれないか?」
「何故です?ご自分でなされれば宜しいのでは?」
「ヒオスが私のことをどう紹介するのか聞いてみたくて。お願いできないかな?」
ほんのつかの間考えて、ジョシュアさんはこう言った。
「彼の名はイムナ、六番目の神」
「…」
え?どういう事?何も言葉が出てこない…かみ?カミ?
もう一度、イムナさんに目をやると、にこやかに微笑み返してくれた。これが神?六番目とな…もし…
「ありがとう、でもちょっと違うね。今は神じゃない。もう離脱したよ。」
「え?」
何かそんな神がいるとかいう話を聞いたことがあるような…離脱した神が一人、消滅した神が一人、そして八人いた神が、今は六人になっているとな…もし…
「離脱したと言っても、本質は何も変わっていないでしょう。ただエデンを出たと言うだけで。」
そう言うと、ジョシュアさんは自分も一口お茶を飲んだ。
「私たちは、いつもはもっと仲が良いのだけれどね。急に訪問したから機嫌が悪いのかな?」
そう言って、六番目の神はクスクスと笑った。
へー、神様ってこんな風に笑うんだ。などと漠然と思った。
「ユーリーはまだ帰ってこないと思いますが、他にご用は?」
ジョシュアさんは、ちょっと気を取り直したのか、いつもに近い口調で神様に尋ねた。
「君やエシャの様子も見たかったし、明とも話をしてみたかったんだ。」
「…私とですか?」
神様と話をするって、何を話せばいいんだろう?お願いごと?懺悔?はたまた、面接みたいな感じ?
「そう。君は地球上で唯一のユーリーの友人だから。普段は彼とどんな話をしてるんだい?」
「どんなって…こないだ銀ちゃんと、あ、私、ユーリー君のことを銀ちゃんって呼んでるんです。それで、一緒にドライブに行ったんですけど、あ、ドライブって分かります?」
どこまで嚙み砕いて話せばいいんだ?
「気を使ってくれてありがとう。大丈夫、意味は解るよ。」
これまた、にこやかにそう答えてくれた。なかなか話やすい神様なのかもしれない。もしかしたら、日頃から人々のお願いを聞きなれているのかな?
「そこで、大昔、地球上には恐竜って言う大きな爬虫類がいたって話をしたんです。そしたら銀ちゃん、いやユーリー君が、恐竜を見てみたかったなって、だから、生きた恐竜は見ること出来ないけど、恐竜の化石ならばあるから、一緒に見に行こうって話をしました…」
あれ?神様はこんな話を聞きたいのか?
「二人は仲が良いんだね。恐竜の化石はどこで見ることが出来るの?」
「結構沢山ありますけど、有名なのは福井県の恐竜博物館ですね。私も行ったことないんですけど、いつか行ってみたいなと思っています。」
そんな話を暫くしていた。神様というより、何だか大学の先生とか先輩と話をしているような感じ…
「ありがとう。これからも銀ちゃんを宜しく頼むよ。もう暫くは、ここにいることになると思うからね。」
そう言って、またニッコリと微笑んだ。
暫く…ずっとじゃないんだ…
何となく、漠然とそんな気はしていたけど、ちょっと胸が痛くなった。こんなこと聞くなんて失礼かなって思ったけど、気が付くと口から言葉がこぼれ落ちていた。
「暫く…ですか…銀ちゃんは、後、どのくらい地球にいられるんですか?」
「そうだね、彼の処遇が決まるまでかな。」
神様は目を伏せながらそう言った。凄く長いまつ毛…伏せた目のままこちらを見た。目が合った。
「…処遇…」
「心配はいらないよ、まだ時間がかかると思うし、悪いようにはしないから。」
神様の言葉を聞きながら、自分の意識が遠のいて行くのがわかった。
来るーきっと来るー!ってことで、今回のお話はいかがでしたでしょうか?
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