第59話 化石にまつわるエトセトラ④
忘れた頃にやって来る注意書き:
★ギンちゃん→猫(ヘーゼルの瞳の白い長毛たれ耳のスコティッシュフォールド)
★銀ちゃん→神使い(銀髪でいつも白いジャージを着ている。現在はエデンから絶賛追放中)
銀ちゃんは八幡宮の敷地外では猫のギンちゃんの体を借りて生きています。
「話からすると別の人っぽいね…実はさあ、私も黒い服の女性を見た気がするんだけど、おばあちゃんって程の年齢じゃなかったから、その時は何とも思わなかったんだよね。」
「え?中島さんが見たって女性はどんな人なんですか?」
庭の梅の実の収穫をしながら話をした。梅の実は丸くて青々している。まだ梅干しづくりには早いらしく、中島さんはこれらで梅シロップと自分様に梅酒を作るらしい。
「白髪っていうよりは、グレーヘアーっていうのかな?きれいに全体を銀色に整えてる感じで、明ちゃんが言うようにショートボブだったかな…それで、黒い服を着ていたと思う。年齢は、私よりは少し上かな位に思ったから五十代後半とか?」
「黒い服ですか?」
「うん、濃いカーキのワンピースの女性は見なかったな…でも、あれだけお客さん少なくて、見掛けなかったのも不思議だなあ。」
ギンちゃんが足元にやって来て、落ちている梅の実を触ろうとした。
「ギンちゃんは来ちゃ駄目だよ、梅の実には毒があるからねえ。」
そう言って、中島さんはギンちゃんを抱き上げた。
「ギンちゃんの瞳は不思議だね、こうやって暗い所で見ると深い茶色に見えるけど、明るい所で見ると金色に緑が入って見えるねえ。」
そんなことを言いながら、ギンちゃんを縁側に連れて行こうとして、急にこちらを振り返った。
「あれだよ!黒と青のドレス」
「え?何ですかそれ?」
「ああ、結構前にそんな写真がSNSで話題になりましたね…えーと、これとか?」
ジョシュアさんがノートパソコンの画面をこちらに向けた。
画面を覗き込むと、『2015年に世界中を騒がせた青黒?白金?ドレス論争』と銘打たれたネット記事
イギリスのとあるブランドのドレスが、本当は青と黒のドレスなのに、その写真を見る人によって何故か白と金色のドレスに見えてしまうと言う話で、何でも、人間の脳には「色の恒常性」という機能が備わっていて、周りの照明や色や明るさにかかわらず、本来の色を推測しようとして脳が自動補正をするようになっていて、その補正機能には個人差があって、周囲の明るさや色味によってはドレスの色を脳が勝手に白と金色に補正してしまう場合があるそうだ。黒いレースの部分が人によっては金色に見えると言って、光の強さや色味を変えて加工された写真を見ると、確かにそう見える。
「じゃあ、私が見た濃いカーキのワンピースは実は黒だったってことですか?」
「はっきりとは言い切れないけど、可能性はあるよね。あの建物の中はちょっと薄暗くて、でも場所によっては外の光がガンガン入って来てたし、それに、何故か黄色の蛍光灯使ってた場所もあった。複雑な照明環境だったかも。」
「それで、たまたま私が見た時はそう見えたと…確かに、髪もグレーヘアーと言うよりはクリーム色っぽいきれいな色だなって思ったし…でも、やっぱりおばあちゃんではなかったですね。私が見た人もうちの母よりは上そうだけど、おばあちゃんって感じではありませんでした。」
「来海のおばあちゃんは確か、まだ五十代だったと思うよ。」
「そうか、来海ちゃんからしたら、髪の毛が真っ白ってだけでも、もうおばあちゃんって思っちゃうのかもしれないですね…しかも自分のおばあちゃんと同じくらいの歳の人ならば、それは…」
「じゃあ、やっぱり、来海ちゃん、明ちゃん、そして私が見た女性は同じ人かもしれないね。」
すっきりはしたけれど、だからと言ってその人がどこの誰かが分かったわけではない。でも、まあ、モヤモヤが減って良かった。
「そう言えば、大町市の明ちゃんが通っている大学の近くだったと思うんだけど、ちょっと変わったアクセサリーを扱っているお店があって、割と手ごろなお値段で、ちょっと変わったお洒落なものが見つかるから、何度かそこで購入したことがあったの。ちゃんとは覚えてないけどアンモナイトみたいなものも置いてあったような気がする。」
「大学の近くですか?お店の名前とか住所とかわかります?」
「確か…」
そう言って、花沢さんはスマホでお店を検索してくれた。
お店の名前は『Moonglow』
パワーストーン、伝統工芸、化石などのアクセサリーを主に扱っているお店のようで、通信販売もしている。
「わー、可愛い。」
「でしょう、若い人でも似いそうなものもあったわよ。それでね、ここのオーナーが私と同じか、少し若いくらいの女性でね。もしかしたらって思ったの。」
花沢さんの話を聞いた数日後、学校帰りに夏子と一緒にそのお店に行ってみた。
国道沿いのマンションの一階に入っている小さなお店で、隣は美容院、その隣はパン屋さんになっている。このパン屋さんには来たことがあった。
ここの煮卵明太チーズパンが美味しくて、三回ほど買いに来たことがあった。丸いパンの上に煮卵がドカンと一つ乗っていて、その周りにほぐした明太子とチーズが掛っている。一つでお昼ご飯にも十分なボリューム。
パンのことはさて置き、こんな所にアクセサリーショップがあったなんて、全く気が付かなかった。
「ちょっと気になってたんだよね。」
夏子がお店の前で嬉しそうに言った。
「夏子、この店、知ってたの?」
「こないだパンを買いに来た時に、気づいて、気になってたんだ。」
そう言って、意気揚々とお店の扉を開けた。
小さいお店の中には、所狭しと数々のアクセサリーが並んでいる。
ガラス、陶器、木製のちょっと変わったものから、パワーストーンや真珠などのお洒落なもの、奥の方にはアンモナイトや琥珀などを使ったアクセサリーが置いてあった。他にも、あの時気になった螺鈿のネックレスやブローチなども置いてあった。
夏子はステンドグラスの技法で作られたと言うピアスを見ていた。
「これから夏に向けて良いよね。」
そんなことを話ながらピアスを見ていると、奥から女性が出て来て声を掛けた。
「いらっしゃいませ。何か気になるものあった?どうぞ、ゆっくり見て行って下さいね。」
そちらに目を向けると、ショートボブのきれいなグレーヘアーの女性がニッコリと笑ってカウンターに立っていた。年齢は確かに花沢さんくらい、もしくはもう少し若いくらいだ。花沢さんも品が良くって、綺麗だなって思うけど、この人も綺麗だな、こんな風に年を取れたらいいなと思った。
「あの…先日、北市の化石園にいらっしゃいませんでしたか?」
こういう事は単刀直入に聞くのが一番だ。
「え?北市の化石園?確かに先週の日曜日に行ったけど…あなたもそこにいたの?」
「はい。その時、女の子にアンモライトのペンダントを渡しませんでしたか?」
「…渡したけど、どうしてそんなことを知っているの?」
「私もその女の子と一緒に化石園に行ったんです。」
「…もしかして、あなた、白い猫を連れていた?」
「そうです。」
「猫を抱えて熱心にお話ししていたから、Youtuberの方かと思ってたわ。それに、てっきり一緒にいた男性の方がエヴァンスさんかと思ってたけど、あなたが?」
「いえ、Youtuberでも、エバンスでもありません。馬場と言います…」
そんな会話の後、あのペンダントが小学生の女の子には高価なものなんじゃないかってことで、本当にこのまま貰ってしまって良いのかどうか、ちょっとだけ困っている事を説明したら、その女性はちょっと申し訳なさそうに
「何だか申し訳ない事しちゃったかな?」
「いえ、女の子は喜んでいましたよ。ただ、保護者が、本当に貰っちゃっていいのかなって、彼女の親御さんにも説明しなくちゃならないしって、ちょっとだけ困ってました。」
「エヴァンスさんが?お手紙だけじゃ納得してもらえなかったのね。まあ、差出人も分からない手紙だったし、余計に怪しかったか!」
そう言うと、女性はちょっとだけ悪戯っぽく笑った。
「でも、どうして差出人も書かずに手紙を送ったんですか?電話とかメールじゃなくて?」
「化石園の職員さんから電話を貰って、その女の子が私のことを白髪のおばあちゃんだったって言っていたって話を聞いて、ちょっと悪戯心が芽生えちゃったのよね。おばあちゃんの振りをして古風な手紙を送ってみようかなって。あの文面はAIに作ってもらったのよ。もしかして騙されてくれた~?」
まあ、何かその気持ち、わからなくもないなあ…悪戯心と言うか…何と言うか。でもAIって若いな…
「でも、あの子、喜んでくれてるんだ。嬉しいな。」
「はい、きれいだ~って言ってますよ。それに、次のお出掛けには付けて行くって言ってました。」
「私にも孫がいてね、でも息子がアメリカに行っちゃってて、なかなか会えないのよね。それに、私は化石とか虫とか好きなんだけど、うちの孫はそう言うのが苦手で、気持ち悪いって言われちゃって…だから、あの女の子が目をキラキラさせながら化石を見ている姿を見て、つい、貰って欲しくなっちゃったのよね。ちゃんと保護者の方にも了解を取ってから渡せば良かったわね。」
次の週末、ギンちゃんと一緒にエバンス邸に行くと、ジョシュアさんが一人で出迎えてくれた。
「今日は、来海ちゃんは来ないんですか?」
「今日はお父さんとお買い物に行くんだって。あのペンダント付けて行くってはしゃいでたよ。明はお茶でも飲んでいく?」
まあ、いつもながら何も予定はないし、銀ちゃんのことも相談したいし…でもギンちゃんも一緒だと、銀ちゃんのことは相談できないなあ。
私がお茶とお菓子をつまんでいる間に、ギンちゃんは散歩に出かけて行った。
ここ数日、雨が降っていたので、こういう晴れた日には自分の縄張りのパトロールがしたいのだろう。
「そういえば、こないだ銀ちゃんが、エデンでは命が終わることは無いけど、突然消えてしまうことがあるって言ってたんです。どういう意味か解ります?」
「え?銀ちゃんがそんなこと言ったの?」
意外にも真剣な表情で聞き返してきた…何かまずい事でも聞いてしまったのだろうか?
「はい、その後、ちょっと思いつめたような表情してたから、ちょっと気になって…」
「ふーん、正直、エデンのことはよく知らないんだ。」
ジョシュアさんはこの話題に触れたくないのかな?って気がしたので、この話はこれ以上しないことにした。
その時、何かがやって来た。
ドアホンが鳴った訳でも、誰かの声が聞こえた訳でも、車の音が聞こえた訳でもない、でも何かがやって来た事はひしひしと分かった。
不安になってジョシュアさんの方を見ると、彼は、今まで見たこともないような焦りと驚きの表情をしていた。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
感想などいただけると励みになります。
毎週水曜、日曜の14:30更新予定です。




