第57話 化石にまつわるエトセトラ②
今年もお読みいただき本当にありがとうございました。
今年最後の更新です!
広い駐車場に車が数台止まっている。
「空いてるね、これならギンちゃんも気兼ねなく入れるね。」
外を眺めながら中島さんがギンちゃんに声を掛けた。
ギンちゃんをキャリーから出してハーネスを付けた。いつもは自由気ままに散歩をしているギンちゃんだが、今日はお出掛けなのでハーネスとリードを付けた。
ブルーのハーネスがいつもより彼を高貴な猫に見せている。
「ギンちゃんは何を着ても似合うね~」
お洒落になったギンちゃんを抱えて、テンションが上がる。
ギンちゃんも嬉しいのか大人しく私の腕に抱えられている。
展示館は古びた建物で初デート向きの場所とは言えないけれど、ギンちゃんは目を細めて気持ちよさそうにしている。展示館の入口横にきれいに地層が見える場所があり、そこを何となく眺めていたら
「あ、あそこに、葉っぱがある」
地層から露出している木の葉の化石を指さして、来海ちゃんが嬉しそう叫んだ。
展示館のエントランスには一面に額縁に入った化石が並べられている。ギンちゃんはそれを見上げて目を細めている。
「お魚のレントゲンだ」
魚の化石を見つけて、来海ちゃんが目をキラキラさせた。
どうやらこの化石園は彼女のツボにはまったようだ。
流石は渋い物好きな小学生…来海ちゃんがここに来て「つまらない、帰る」などと言い出さないかと、内心不安だったので、正直言って、ホッとしている。
ただ、予想以上のはまりようで、額に書かれている化石の名前を大きな声で、嬉しそうに一つづつ読み上げている。
「うぐい、かえで、うこぎ、かげろう、くり、とんぼ…」
全く前に進まない。
その傍らで嬉しそうに微笑んでいるジョシュアさん…もはや、溺愛親子にしか見えない。まあ、何はともあれ幸せそうで何よりである。
「凄いね、来海はひらがなもカタカナも読めるんだね。」
「もっちろん、漢字も読めるよ」
「すっごいね~」
「かみきりむしのいち、かげろうの…むし」
「すごいよ~、これは『いち』だね。ちなみにこれは『いっしゅ』って読むんだよ。」
「いっしゅ…意味わかるよ! モモ太は犬の『いっしゅ』」
『一種』か…使い方が微妙な気もするが、意味は合っているなあ…ちなみに、『かげろうの…むし』は何だったんだろう…ちょっと気になる。
「じゃあ、この漢字は?」
「それは幼稚園の『よう』だよね。」
「おお、この漢字見たことある。じゃあ、これは『ようむし』だ」
あ、幼虫の事か…なんだかすっきりした。
熱心にひらがなとカタカナを読み上げている来海ちゃんに職員さんが声を掛けてくれて、昔々に火山の噴火でこの辺一帯が湖になったことや、その湖の中でどうやって葉っぱや虫たちが化石になったのかを詳しく説明してくれた。中島さん、ギンちゃんと私も横に並んで一緒に聞いていた。
その後、私は二億年前と九千万年前の世界地図が書かれているボードの前で、大陸がどのように移動したのかとか、九千万年前には恐竜という巨大な生き物が地球上にいたとか、という話をギンちゃんに説明した。また、恐竜の説明のために脊柱動物の進化についても軽く説明をしてみた。
魚類→両生類へと進化し、そこから二手に分かれて爬虫類と哺乳類へと進化する。ちなみに爬虫類→鳥類となる。
猫や人間は哺乳類で、恐竜は爬虫類だ!
ギンちゃんの大好物のサーモンは魚類で、クリームチーズは哺乳類の牛から取れる牛乳から作る。そんな説明をしていたら、ギンちゃんに牛を見せて上げたくなった。
ギンちゃんは目を細めてボードの地図を眺めて、真剣に私の話に耳を傾けてくれていた。
「結構、面白いね。こんな場所があるなんて知らなかったよ。」
中島さんも楽しそうに展示品を眺めていた。
ゆっくりとのんびりと展示品を観ていたら、あっという間にお昼になって、そろそろお腹が空いて来た。今日もお昼ご飯が楽しみだ。
「お昼過ぎちゃいましたね。どこかでお昼ご飯にしましょうか?」
そう言って展示館を出ようとしたところで、ジョシュアさんが来海ちゃんに声を掛けた。
「来海、それ何持ってるの?」
来海ちゃんの右手に虹色に光る何かが見えた。
「これ、さっきトイレに行った時、知らないおばあちゃんにもらったの」
そう言って、ペンダントをジョシュアさんに差し出した。
「もらったの?」
「うん、くれた」
「どうして?」
「わかんない」
「どのおばあちゃん?まだここにいる?」
そうジョシュアさんが尋ねると、来海ちゃんは周りをキョロキョロして
「いない。黒い服のおばあちゃん。頭は真っ白だった。」
「アンモライトのペンダントだね。」
中島さんがペンダントを見てそう言った。
虹色に輝く小さなアンモナイト型のペンダントヘッドに金色のチェーンが付いている。
「それって、高いんですか?」
「うーん、分からないけど、前にネットで見た時は何万円とかだったと思うよ。それに、これK18って書いてあるから、チェーンだけでも数万円じゃないの?」
ちょっと気軽に、理由も分からず『はいそうですか、ありがとうございます。』ともらえる物ではなさそうだ…
三人で悩んでいると、職員さんが声を掛けてくれた。
「どうかしましたか?落とし物ですか?」
「落とし物ではないんですけど…」
職員さんに事情を話すと、
「ああ、その女性ならば知っていますが、個人情報になるのでお名前や連絡先をお伝えすることはできないんですよ。」
「そうですよね…もし、職員さんの方でその方と連絡を取れるようであれば、こちらの連絡先を先方に伝えていただけませんか?事情も分からず、こんな貴重なものをいただく訳には行かないので、せめて理由だけでも教えて欲しいと。」
そう言って、ジョシュアさんは自分の名刺らしきカードを職員さんに手渡した。
「ジョシュア・エヴァンスさんですね。ちなみに、そのお嬢さんとはどういった関係なのでしょうか?差し支えなければ教えて頂けますか?」
職員さんが申し訳なさげに尋ねつつ、こちらの四人とギンちゃんの顔を代わる代わる見回した。
この二人は親子っぽいけど、どう見ても血のつながりは無さそうに見えるもんな。
「保護者です。」
ジョシュアさんは、朗らかにそう答えた。
「保護者…ですか…お父様ではないのですね?」
「はい、この子のお父さんが仕事で忙しい時なんかにお預かりしてるんです。」
そう言って、またニッコリと微笑んだ。
職員さんはそれ以上は何も聞いてこなかった。
「これ、もらっちゃ駄目だった?」
駐車場への帰り道で、来海ちゃんがジョシュアさんに尋ねた。
「そういう訳じゃないよ。どうして来海にくれたのか理由を知りたいだろう?」
「うん、そうだね。」
そう言って、来海ちゃんは虹色に光るアンモナイトを眺めてから、それを自分の斜め掛けポーチに仕舞った。
その後は、化石園から車で十分ほどの所に見晴らしが良い公園があったので、そこで車を停めた。丁度いいテーブルとベンチがあったのでそこでお昼ご飯を食べた。
肉団子も鯖の竜田揚げも冷めても激的に美味しい。
来海ちゃんの作った厚焼き玉子も甘めで私の好きな味。
ジョシュアさんの作ったサンドイッチもこれまた美味しかった。シャキシャキのレタスに、薄切りのハムが今日の地層の様に美しい層をなしていて、その歯触りがたまらなく美味しかった。
私の猫型おにぎりも味は好評だった。ただ、みんな半分は後で食べるねと言って、再びラップで巻きなおしてたけど。
食後のデザートにと中島さんが準備してくれたリンゴ、パイナップル、グレープフルーツが口直しに丁度良く、これでもかって程食べたのに、何だかまだまだ食べられそうな気分になった。
ギンちゃんもほぐした焼き鮭とクリームチーズをのせたフードを美味しそうにハムハムしていた。
帰りは牧場に寄って、ギンちゃんに牛や馬を見せて上げた。
大きな瞳をより大きくして、ちょっと驚いた表情で動物たちを眺めていた。
若しかしたら、銀ちゃんって牛とか馬を見た事なかったのかもしれないなと思った。
他にも、ダチョウ、クジャク、ミニブタなんかもいて、ギンちゃんはどの動物を見ても、大きな瞳の驚き顔で眺めていた。
牧場のソフトクリームが美味しくて、ギンちゃんにもミルクの部分をなめさせてあげた。
ギンちゃんは目を細めて、美味しそうにざらざらの舌でソフトクリームをペロペロと舐めた。同じデザートを分け合って食べるのは初めてだなって思ったら、本当にデートしているような気分で嬉しくなった。
あっという間に日が暮れて、帰りは暗くなってしまったので、途中で運転をジョシュアさんに代わってもらった。そして、私は後ろの席でギンちゃんを膝に乗せたまま、来海ちゃんと一緒に爆睡してしまった。
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