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第5話 節分を知らないロマンス詐欺師

お立ち寄りいただきありがとうございます。

 次の日、あかりは温かいお茶をポットに入れて、モモ太の散歩に出かけた。


 本当は、散歩を早めに済ませて、お茶を持って一人であの神社に向かいたかった。そうすれば、ゆっくり話が出来るかもしれない。

 でも、散歩で通りかかったと言う方が自然な流れだ。


 お茶もいつも持ち歩いているって言えば、変に怪しまれることもない。わざわざお茶を持参して、一緒に飲みながらゆっくり話をしようとしているのかなどと勘繰かんぐられるのは気恥ずかしい。



 ただ、そんなときに限って、モモ太が神社とは反対の方角に向かう。

 仕方がない、これはモモ太の散歩だ。モモ太にはある程度は満足してもらわねば。そう思いながらも、いつもよりモモ太を誘導しつつ、どうにか神社に向かわせた。



 神社の裏の大きな木々が見えてきた。何故か心臓がバクバクしている。

 この期に及んで怖気づく。帰ってしまおうか。素通りしようか。


 そんなことを考えていると、自分の視界に白い服の男性が入って来た。

 バクバクする心臓を横目に、胸が騒いだ。


 だが、その白い服の男性は、昨日会った青年とは似ても似つかない、チワワを連れたラムちゃんパパさんだ。時々、散歩の途中で会うおじさん。

 全身白のコーディネートとか紛らわしい、着るものはその人の自由だから文句は言えないけど。


 神社の境内を見まわしたが、他には誰もいない。


「そうだよね、毎日来るとは限らないもんね。」


 諦めて引き返そうと、うつむいたまま振り返った。

 すると、視界に白いスニーカーが見えた。


「おはよう。」


 頭上から声が聞こえたので、顔を上げた。


 そこには、白いジャージに銀髪、白まつ毛の昨日のあの青年が立っていた。服装も昨日と一緒だった。


「……お、おはようございます。」


 心の準備がないままの遭遇は、言葉に詰まる。


「今日も散歩? 偉いね。」


 満面の笑みで微笑みかけて来る。益々言葉が出ない。


「いや、そうかなあ。」


 何を話せばいいのか思い浮かばない。青年を見ることが出来ず、視線を社務所の方に向けると、節分イベントのポスターが目に入った。


「そろそろ節分ですね。豆まきとかするんですか?」


 ああ、何を聞いてるんだろう。


「せつぶん?」


 あれ?節分を知らないのか?もしや、日本人じゃないのか?


「節分ですよ、今年は二月三日らしいですよ。豆まきしたり、海苔巻き食べたりする伝統行事の……」


 なんで、節分の説明なんかしてるんだ私は。


「ふーん、そう言う行事があるんだ。」


「節分、知らないんですか?」


「知らない。」


「海外生活が長かったんですか?」


「え?ああ、そうだね、この辺に来たのは少し前のことだから。」


「へえ、どこの出身なんですか?」


 青年の表情がほんの少し固まった。少し考え込んでいるようだ。

 いきなり立ち入ったことを聞いてしまったかな?


「イギリス。」


 随分と漠然とした答えだなと思いつつ、これ以上は個人的な話に踏み込むのは止めて置くことにした。


「そうなんですか。」


 もしかすると、この銀髪は地毛なのかもしれない。そう思うと、何故か嬉しくなった。


「あ、もし良かったら、ベンチでお茶でも飲みませんか?」


 モモ太はつまらなそうに伏せをしている。


「お茶?いいけど。お茶なんて持ってないよ。」


「大丈夫です。私持ってます。」


 そう言って、バックから水筒を取り出した。


「それ、お茶なの?」


「はい、温かいですよ。」




 水筒は蓋がコップになるものを選んできた。そして、小さなプラスチックのコップをもう一つ持参している。

 大きい方のコップに温かいお茶を注いだ。


「ほうじ茶です。飲んだことあります?」


 そう尋ねながら、コップを手渡した。


「ほうじ茶はあるかも。」


 青年がコップを受け取り、中を覗いた。


 明は自分のコップにもお茶を注ぎ、フーフーして一口飲んだ。


「私、馬場ばば あかりです。お名前お聞きしてもいいですか?」

 先ずは、名前を知らなければ。


 青年はコップの中を凝視しながら答えた。


「ぎんちゃん って呼ばれている。」


 ……もしかして、名前を教えたくないのか?


「ぎんちゃん…なんだか、猫みたいですね。」


 ぎんちゃんがこちらを見た。


「猫みたいでしょう。」


 この人、ふざけてるのかもしれない。そう思ったら、ちょっと悲しくなった。


「漢字はどう書くんですか?」


「銀色の銀で、銀ちゃんだよ。」


 銀ちゃんの表情からは、馬鹿にしている感じは読み取れないが、心の奥では馬鹿にしてるのかもしれない。

 そう思ったら、顔を上げられなくなった。ほうじ茶の表面を見つめた。


「いろいろ事情があって、今は自分のことは話せない。でも、冗談や嘘を言っているつもりはないんだ。」


 落ち着いた声で銀ちゃんが言った。


 その言葉を聞いて、心が少しほどけるような気がして、銀ちゃんの方を見上げた。


 少し申し訳なさそうな表情をしている。



 その後は、節分の話を少しして帰った。



 帰り道は、これでもかってほど心が躍った。

 家に着くと、直ぐにモモ太にご飯を食べさせて、真っ先にスマホを手に取って、夏子に報告した。


 夏子からの返事は全く予想もしないものだった。


 [ロマンス詐欺! 本当に本当にほんとーに気を付けて]

 [株、FXの話が出たら、話にのる前に私に連絡して]


 その後、すぐに夏子から電話が掛かって来た。




是非、感想を聞かせてください。

毎週水曜、日曜 14:30更新予定です。


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