第46話 (番外編)重い初恋③
「重い初恋」シリーズの3話目です
12年前のエシャ(松本 仁香)とヒオス(ジョシュア・エバンズ)の出会いと、ジョシュア・エバンズがバイオリニストになって、やめるまでのお話です。
このシリーズだけ読んでも楽しめる内容になってると思います。
初めて立ち寄っていただいた方にも、読んでいただけると嬉しいです!!
前提として、松本 仁香とジョシュア・エバンズは前世では夫婦、仁香には前世の記憶があるけど、ジョシュアはまだその記憶を取り戻してない。ここだけ抑えていただければ、これまでの話を読んでいなくても大丈夫!!
「家に来れば?」
さっきの話では、彼の両親は今朝からトルコへ旅行に出かけていて、二週間くらい帰ってこないらしい。今日にでもここを離れようかと思っていたけど、特段急ぐ理由はない、仕事も融通が利くはず。
ここは思い切って、二週間のバケーションと行こう。
「怖くないの?知らない人を家に連れて行くんだよ。」
「そう言えばそうだね。今日、会ったばっかりだ。でも、不思議と怖くない。なんでだろう。」
楽しそうに彼が答えた。
「だったら、いいけど。じゃあ、行くよ。本当に行っても良いなら。」
「勿論だよ!」
彼が嬉しそうに答える、私だって嬉しい。
これから二週間、一緒にいられるんだもん、私だって嬉しいよ。涙が出そうになるのを堪えた。私、残りの人生、この二週間の思い出を糧にやって行ける気がする。グス…ああ、泣きそうになったからかな、鼻水が出る。
この二週間は誰にも遠慮せず楽しむんだ!そしたら、今世ではもう彼とは会わない。そう心に決めた。
宿に戻り荷物をまとめて車に積み込んだ。
宿から見える海も綺麗だと思っていたけど、こうやって改めて眺めると本当に綺麗。気にも留めてなかったけど、庭先に咲く黄色い花もとっても可愛い。
何だか、全てが美しく見える。世界が一皮むけた感じ。この表現は変かな…全てが鮮やかに私に微笑みかけて来るようだ…まあ、いいや表現はどうでも。
「この花、何て名前?」
「これ?ゴースだったと思うけど。」
「可愛い花」
「可愛いよね、僕も好き。母さんが描いた絵が家に飾ってあるよ。母さんの絵はよくわかんないけど、その絵は好きなんだ。」
「お母さん、画家なの?」
「うーん、自称ね。」
車に乗り込んで、彼の家に向かった。小高い丘の上に、他の家よりも一際白く、大きな家が建っている。
「もしかして、家は金持ち?」
大体、彼は裕福な家に生まれて来る、っていうか、実行者が生まれ変わって来る家はそれなりに裕福で、普通より良い暮らしが出来る傾向にある。
何故か私だけ、稀に物凄いハズレを引くことがある。金髪家族に一人だけ黒髪の子が生まれて、不貞の子や忌子扱いされ、虐げられたり、捨てられたり。貧困地域に生まれ、売り飛ばされたこともあったっけ。
多分、黒い翼を持つ種族の唯一の生き残りってことで、何かそういう輪廻的なものがおかしくなってるんじゃないかって説と、その黒い翼の種族を嫌っていた某神が何かしてるんじゃないかって説があるが、理由は不明。ただ、そんなこともあって、ヒオスは自分の記憶が戻ると直ぐに私を探し出そうとする。
「父親がいろいろと事業をやっていて、多分、そこそこ金持ちだと思う。」
家に入ると、正面に大きな絵が飾ってある。家族の肖像画のように見えるけど、やけに明るい色使いで、多分これは抽象画。
「この絵はお母さんが描いたの?」
「そうだよ、家族の絵なんだから普通に描けばいいのに。誰が誰かわかんないよね。客間は二階だよ。」
そう言いながら、彼は荷物を持って階段を上がって行った。私も彼に続いて二階に上がった。
オーシャンビューの白を基調にした広めの部屋で、大きなベッドが一つ、掃き出し窓の手前にはソファー。いいホテルの一部屋って感じ。奥にはこの部屋専用のバスルームも付いている。
「素敵な部屋ね。」
よそ様の家にお邪魔するとなるとやっぱり緊張する。しかも、こんなにいい部屋使わせてもらって良いのかな?寝るのは居間のソファーでも良いんだけどなんてことを考えていると。
「この部屋から見える夕日がきれいだよ、後で一緒に眺めよう。それまで家の中を案内するよ。」
二人で夕日を眺めるのかぁ…既に彼の頭の中にはこの後のプランが出来上がってるのかもしれない、そう言うの考えるの好きなだもんな。しかし、私の方が倍以上年上なのだから、今回は私がイニシアティブを取らねば!まだ何も知らない(であろうと推測)彼を翻弄するまたとないチャンス!
一通り家の中を案内してもらい、母親の好みだろうけど、お洒落な家に住んでるな…しかもこれが別宅だもんね、本宅は別にあるんだもんねなどと考えていると、水色の扉の前で立ち止まり、
「ここが僕の部屋。」
少し恥ずかしそうに彼が言った。
「へえ。」
へえ、そうなんだくらいの軽い気持ちで答えた。
「散らかってるから、恥ずかしいんだけど、見せたいものがあるから」
そう言って、彼は水色の扉を開けた。
全然、散らかってない。ベッドは朝起きたままになっているけど、これは散らかっている内には入らない。ベッドの横に大きなスーツケースが置いてある。ああ、自分も旅行に行くつもりで準備してたのか。
「嫌じゃなかったらベッドに座ってて、確か、ここに入ってたと思う。」
そう言って、彼はノートパソコンを開いて、何かを探し始めた。
「これが、奈良に住んでた時の写真。」
そう言いながら、私の横に座りPCの画面に映る写真を見せてくれた。そこには、ランドセルを背負った女の子にも見える可愛らしい男の子が映っている。
「これが、日本の小学校に通っていた時の写真で、こっちが長崎に旅行に行った時の写真。その後、東京にも少し住んでたんだ、その時に鎌倉とか江の島に行った時の写真がこれで…」
彼が日本に住んでいた時の写真を次々と見せながら、その時の話を楽しそうに語ってくれた。その時に買ったお土産とか記念品みたいなものも見せてくれた。
写真に写るこの女の子みたいに可愛い顔を、私は良く知っている。笑ったり、泣いたり、怒ったり、駄々こねたり、慰めてくれたり、手を引いたり、引かれたり、一緒に手を繋いで川に飛び込んだり、私が年上だったり、年下だったり、同い年だったり、様々な状況でこの顔を良く知っている。胸に熱いものが込み上げて来るのを感じた。少し目に涙が滲んだけど、どうにか誤魔化した。何だか今日は妙に感傷的だな…
「仁香の写真とかないの?見てみたいな。」
彼にそう尋ねられて、スマホを出して写真を確認してみた。
仕事で撮った物撮りとか、食べたものとか、見せられそうな写真がない。そう言えば、少し前に、友達が懐かしい写真があったよと、プリントされた写真をスマホで撮って送ってくれたのを思い出した。大学生の時の写真だ、女友達三人でバンクーバーに行った時の写真だったと思う。
「これが確か、二十歳の時で16年前になるのかな。」
そう言って、ちょっとぼやっとした写真を彼に見せた。
見せてから思った、どうしてこんなにも反応に困る写真を出しちゃったんだろう…こんなことなら、最近食べた美味しかったものの写真の方がまだ話のネタになったのに。
「へえ、仁香は36才なんだ…昔も美人だね。でも今の方が好きかも。」
そうだった、自分の年齢を言ってなかった…ここで一気に引かれたら切ない…
「バンクーバーも行ってみたいな、良い所だった?」
私の年齢に怯むことも、引くこともなく、いろいろ聞いてくれた。まあ、外見からかなり年上であることは予想はついていただろう。
その後は、お茶を飲みながらキッチンで話の続きをした。話をしていると時間が経つのがあっという間で、窓の外がオレンジ色に染まっていた。
「あ、日が沈んじゃう。二階に行こう。」
彼がそう言った。
二階の客間のソファーに座って、夕日が海に沈んで行くのを眺めた。彼の指先が一瞬だけ自分の手に触れたのを感じて、彼をみると、少し俯いて恥ずかしそうな顔をしている。手をつなぎたいのかな…
そうだった、今回はかな~り年上の私がリードするのだ!でも、焦って空回りしてはいけない。
ソファーの上に置かれた彼の右手の上に自分の左手をそっと重ねた。彼は右掌を上にして重ねた私の左手を優しく握った。そして、私の肩に頭を委ねた。お姉さんとして、何かもう一押ししなければと思ったけど、今はこのまま何もしないで夕日が沈むのを眺めようと言う気分になった。
日が沈んだ後の深い青と橙色のグラデーションを眺めながら彼が呟いた。
「キスしてもいい?」
ああ、先に言われてしまった…ちょっと悔しいから何も言わずに、こちらからキスしてやろう。彼のおでこに自分のおでこを付けて、彼の目を見た、恥じらう表情が可愛い過ぎると思いながら、彼の唇に自分の唇を重ねた。
ゆっくりと唇が離れて、再び彼の目を見る。恥ずかしそうに、嬉しそうにこちらを見つめて返して来る。そして、一言。
「仁香のこと、本気で好きになってもいいよね。」
ああぁぁ、はい、喜んで!浮足だつ気持ちを何かが邪魔する…そうだった、この恋は二週間って決めてたんだっけ…
「ありがとう、嬉しい。」
そんな返事しかできないことに少し心苦しさを感じた。でも彼はこれを肯定と取ったみたいだ。彼は私のことを強く抱きしめた。
彼の腕に抱きしめられて、心も体もほどけていくような安堵を感じた…
そして、突然、空腹が襲って来た。やばい、またお腹が鳴る、このままじゃ食いしん坊キャラになってしまう。と思ったら、やっぱり鳴った。
私はモテない…勝ち気で、気が利かなくて、自分の事ばかり考えている。そして、タイミングが絶妙に悪い。今世でも付き合った人はいたけど、長く続かなかった、相手が離れて行った。間の悪さも始めのうちは笑って面白がってくれたけど、段々そう言うのも嫌になって行くみたい。その点、ヒオスはモテない、面倒ごとを起こす女が変態級に好きなんだと思うことがある。そして、どんな時でも、絶妙に悪いタイミングを笑って面白がってくれる。
「今、お腹鳴った?本当に、絶妙だよね。」
彼が、そう言って笑った。
「いやはや…」
何を言ってるんだろう私。
「夕飯どうしようか。冷凍食品だったら、冷凍庫にパンパンに入ってたよ。万が一僕が家にいることも考えて用意してくれてたみたい。」
好きなものを好きなだけ、レンジで温めて食べた。こんな記念すべき夜に冷凍食品のバク食い…なんだか、私らしい気がした。
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毎週水、日14:30更新予定です。
宜しくお願いします。




