第45話 (番外編)重い初恋②
「重い初恋」シリーズの2話目です
12年前のエシャ(松本 仁香)とヒオス(ジョシュア・エバンズ)の出会いと、ジョシュア・エバンズがバイオリニストになって、やめるまでのお話です。
このシリーズだけ読んでも楽しめる内容になってると思います。
初めて立ち寄っていただいた方にも、読んでいただけると嬉しいです!!
前提として、松本 仁香とジョシュア・エバンズは前世では夫婦、仁香には前世の記憶があるけど、ジョシュアはまだその記憶を取り戻してない。ここだけ押さえいいただければ、これまでの話を読んでいなくても大丈夫!!
イイことしようと誘っておいて、いきなりお昼ご飯が食べたいって言っても、変じゃないよね?それに、あれはテンションが爆上がりしてノリで言っちゃっただけで、今そう言う事をしたい気分な訳ではない。しかも15才だって聞いちゃったら、正直、躊躇するわ~
運転しながら、どこに向かうのが正解なのか分からないまま、宿の方向に車を走らせた。
時間はお昼を過ぎたくらいだ。
私は食の好みは渋い方だが、奈良漬けは苦手だ。
だが、彼は奈良漬けが食べられたと言っている。意外だなって思った。もしかして、たまり漬けとかと勘違いしてないか?
これは、彼が奈良に二年間住んでいたって話から派生した話題である。私の浅い知識では奈良と言われて、鹿と奈良漬けしか浮かんでこなかった。
「いい所だったよ、機会があったら案内するよ。だいぶ変わっちゃったと思うけど。」
なんて言っているけど、私がその話を真に受けてぐいぐい行ったらどういう反応示すんだろう?
「じゃあ、今度、案内してよ。奈良で落ち合おうよ。」
「いいよ。仁香はどこに住んでるの?関西?」
「東京だよ。」
「東京のどこ?」
「墨田区。知らないよね?」
「知ってる。両国国技館があるところだよね。」
意外と東京の地理にも詳しいのか?
「へー、物知りだね。」
つい、子どもを褒めるような口調になってしまった。
「相撲を見に連れて行ってもらったことがあるんだ…ねえ、どこに向かってるの?」
そうだよね、それ気になるよね。
「ひとまず、私が泊ってる宿に向かってる。」
「あのさぁ…あれって、冗談?本気?」
あれって、あれだよね。
ここは二択かな。
冗談に決まってるじゃない!と言って誤魔化す。
冗談な訳ないでしょう、坊や。と言って、顎クイもしくは太ももに手を置く…坊やとか言いたくないな。
う~ん…う~ん…
ぎゅるるる ぎゅー ぎゅうー るぐぎゅー
悩んでいたら、私の腹の虫が鳴いた。
「お腹空いてるんじゃないの?」
そう聞かれて、なぜか小声で答えた。
「うん、先ずはお昼ご飯が食べたいな…この辺でご飯食べられる所、知ってる?」
「この先のホテルのレストランで食べられるよ。このまま車で数分くらい、左側にある白い建物。」
そんな話をしていると直ぐに、白い建物が見えた。Hotelと書いてある。
緩やかな坂を登りホテルのロータリーに入った。外からも食事をしている人が見えた。
レストランに入ると、奥からスタッフらしき女性が顔を出して声を掛けて来た。
「ジョシュア、いらっしゃい。今日は…そちらは御親戚の方?」
「この人は観光客、食事ができる場所を探してたから、ここに案内したんだ。」
「あら、それじゃあ、君に紹介料払わないとだね。」
そう言って、女性は私たちを海が見える窓側の席に案内した。
「どっちがいい?海が見える椅子と、海は見えないけどソファー席」
彼が尋ねた。こういう所に気を遣うんだよね…この人、なんて思いながらも、運転しながら海は散々見たので、ゆっくり座れるソファー側を選んだ。
思えば、ここ数日は慌ただしかった。
突然エデンに呼び出され、何か説教でもされるのかと思ったら、ただのいつもの指示出しで、急いで美容院で髪を切って、現地に向かって、神様のお使いを果たした帰り道に数十年ぶりの再会に劇的な演出を施し、そして、この海辺のレストランでこれから一方的に再会を祝ってランチをしようとしている。運転があるからお酒は飲めないけど、ソフトドリンクで乾杯しよう、一方的に。
「ここは何が美味しいの?」
「この辺は魚が美味しいから、魚介のものは何でも美味しいよ。これとか、これとか人気らしい。」
そう言って、人気メニューを教えてくれた。
魚介が美味しいと言っていたのに、彼はビーフのハンバーガーを注文した。
「ここではこれしか食べたことないと思うなあ。」
…そういう所あるよね、君。
食事をしながら、彼があの崖っぷちに立っていた経緯話を聞いた。
「本当に腹が立ったけど、こうやって仁香に会えたから、良かったのかも。」
サラッとこういうことを言ってくる。どこまで本気なのだろうか?
自分だって、こんな遠くまで来させられたことに恨み節を吐き散らしていたが、今思えば、もしかしたら彼がここにいることを知っていて、ここに私を来させたのかもしれない。神たちがどこまで何を把握しているのかは全くの謎である。
「そう言う事、誰にでも言う方なの?」
照れくさかったので、冗談っぽく返した。
「うん、割と言う方。でも、仁香に会えてよかったって本当に思ってる。」
ちょっとムッとしたような言い方。
折角、会えて良かったと言ったのに、嫌味な返しをされてそれは気分は良くないか…
「そう言う事を言ってくれる人がいなかったから、ちょっと照れくさくなっちゃった。ありがとう。」
今度は素直に言ってみた。
いや、素直ではないかも、私なんて嬉しさの余り訳の分からないこと大声で叫んだくらいだ。今の喜びを素直に言葉にしたら、記憶の戻っていない彼はドン引きするだろう。でもそのお陰でこうやって向き合ってご飯食べて、お喋りをしている。今日の私は上出来だ。
「いないの?本当に?…じゃあ、付き合ってる人とかいないの?」
ちょっと俯きながら、目線を逸らして聞いてきた。
「いないよ。」
「…じゃあ、結婚は?」
今度は、恥ずかしそうにこちらに目を向けた。口元にケチャップが付いている。ああ、身悶える可愛らしさ、ギルティ。
本気で心を落ち着けないと、今の自分は何をしでかすかわからない。ここは深呼吸して普通に話をしよう。
「してないよ。独身。」
「よかった。」
嬉しそうに、ハンバーガーにかじりついた。
さっきから、スープが全く掬えないと思っていたら、スプーンじゃなくてフォークを使ってた…気づかなかった。随分と舞い上がっているな、私。
こやっていると、何十年ぶりの再会だなんて感じが全然しない、いろんなことが昨日のことの様に思える。彼と初めて会ったのはどれくらい前だったっけ?…始めのうちは本当にそりが合わなく、無理やり仕事で組まされて、いがみ合ってたけど…まあ、そんなことはどうでもいいや。
食事を終えて車に乗り込んだ。支払いは、彼の父親の付けと言う事でご馳走してくれた。車に乗せてもらっているって理由で。
そしてここからが本題です。
彼は何だか楽しそうにしている。もしかして、その気になってしまったのか?
言い出しっぺは私だ、腹をくくろう。15才…昔だったら気にしなかった、しかし、この時世これは犯罪です。でも、そんなことはどうでもいいや。
ジョシュア・エバンズだけとしての彼の時間はあと数年、その後は、ヒオスの記憶が戻って実行者となる。せめてあと数年は無邪気に今の自分の時間を楽しんで欲しい。これから同世代の女の子と恋をしたり、友達とくだらない遊びをしたり、そんな時間を大切にして欲しい。私に残された時間もあと数年、最近の傾向からすると多分40才くらいでこの世を去ることになる。彼が大人になる頃には、私はこの世にいないだろう。もしかしたら、どこかで生まれ変わって赤ん坊になっているかも。それを思うと、何もせず、私は静かにここを去るのがいいのかもしれない。
…だが、残念なことに、今の私には、そんなしおらしい心根なんてない。
彼の前から去るとしても、何らかの爪痕は残させてもらおうと思う。
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