第43話 もの言える証人⑪
今回で「もの言える証人」シリーズは終わりです。
「本当に冷や冷やしましたよ。晴斗君のお父さんにあんな話し方をして、何が目的だったんですか?」
晴斗君たちが帰った後、私はジョシュアさんに尋ねた。
「お宅の奥さん、やばい悪霊祓いにハマってるっぽいですよって、軽いジャブ入れただけ、そんな目的なんてないよ。」
「それだけだったら、もっと穏便に話せばよかったのに。」
「ああ、よその男に自分の奥さんの事で分かった風なこと言われるのって、夫の立場としては腹立つんだよね。だから、理解してない、嫌な若造って思われる方が良いかなって思って。」
それを聞いた中島さんが答えた。
「ああ、わかる。普段は碌に話も聞いてあげないんだけど、他の女が旦那の肩持つようなかと言って来ると、ハア?あんた何様?私の方が100倍知ってるわ!って気持ちになるんだよね。妻側も一緒だわ。」
「そう言うもんですかね、自分の旦那さんや奥さんのことを他の人が、味方してくれたり、理解してくれてたら、嬉しいんじゃないですか?」
ちょっと私にはわからない気持ちだな~
「そこが微妙なんだよね。ちょっと悪い言い方すると、独占欲みたいなもんかな。自分の物だから自分が一番分かってるみたいな気持ちがウズウズするんだよね。だけど実は、自分が一番分かってなかったりするんだよね。」
中島さんが、笑いながらもしみじみと言った。
「耳が痛いな。」
笑いながら、ジョシュアさんが答える。
「ジョシュア君って結婚してたことあるの?」
中島さんがさらっと問いかけた。
「ありませんよ。」
「へえ~」
不思議そうな視線を残したまま、そう言って中島さんが話を終わらせた。
「今回は、中島さんが晴斗君に話を聞いてくれてたの。僕は、お父さんの足止め役って所かな。」
「ジョシュア君から話を聞いて、一旦、晴斗君に直接状況を聞く方が良いねってことになって、それで晴斗君と来海ちゃんと夕飯食べながら話をしてたんだよ。」
なるほど、納得。
「晴斗君、お母さんから悪霊やお祓いのことは、お父さんに言っちゃダメって言われてるらしくって、お父さんに相談出来ない状況だったみたい。でも、お母さんがまめ吉のことまで厄介者扱いし始めて、もう、このままじゃ駄目だって思ったみたいで、タイミングもあって、いろいろ話してくれたよ。お母さん、まめ吉のこと凄く大事にしてたのにって涙ぐんでてさあ…私ももらい泣きしちゃったよ。」
「晴斗君が動物のお医者さんになりたいって言うのも、お母さんがまめ吉を大事にしてたからかもしれないですね。」
私は、銀ちゃんから聞いた話をポツリと呟いてしまった。
「へえ、明ちゃん、何でそんなこと知ってるの?さっき晴斗君が、ギンちゃんとお父さん以外、誰にも話したことないって言ってたよ。」
「え?そうでしたっけ?じゃあ、聞き間違いかな…お父さんが言ってたのかも…」
「はは、そうなの。まあ、晴斗君がお父さんに現状を相談して、お父さんとお母さんがどういう話し合いをするかだね。後はもうその家族の問題だから。」
確かにそうだな。中島さんの言う通りだな…いや、待てよ、あのお父さんは本当にいい人なのだろうか?その点は問題がないのだろうか?万が一、お母さんが言うようなサイコパス的な人格だったら…
「あの…今さらですが、あのお父さんは本当に信頼できる人なんですかね…何て言うのかな、凄く巧みに良い人を装っていたら、結局、お母さんと晴斗君が言いくるめられるとか、何を言っても周りから信用されないなんてことにならないですかね…」
「流石は明ちゃん。目の付け所が違うね! そこは百パーセントとは言い切れないけど、晴斗君の態度を見ていると、お父さんは良い人だと思うよ。お父さんの話をする時も嬉しそうだったし、お父さんと一緒にいてオドオドすることもなかったし。念のため、この後も時々晴斗君に状況を聞いてみてもいいかもね。」
「それならば、安心しました。」
流石は中島さん、そんなところまで気にしてくれていたとは。
「所で、ジョシュア君って、人生何回目?」
突然の中島さんからの質問。
「え~とね。確か46か、7回目だったかな。忘れちゃったけど。」
え?もしかして、それは本当の事を言っていませんか?
「え~、そんなチート使えないでしょう。4回までだよ。」
中島さんが何食わぬ顔で言い返す。4回ってどこから出てきた数字だ?
「それって、トッケビ!」
ジョシュアさんが嬉しそうに言った。
「そうそう!ジョシュア君も観た?あのドラマ本当にいいよね。」
「僕も大好き。キュンキュンするよね。明は?」
「何ですか、それ?」
「え!知らないの。」
二人の合唱。
「あの名作を観てないの?」
またもや合唱。
「そんなに名作なんですか…でも、残念ながら…」
「明ちゃんって、普段どんなドラマ観てるの?」
「え?歴史ものとか、ミステリーとか、サスペンスとか」
「明ちゃん、一番好きなドラマは?」
「一番ですか?トリックとかメンタリストとか…シャーロックとか、あと真田丸も面白かったかな。」
「え、トリックって、明ちゃん、まだ生まれてなくない?」
「え、明、モテないでしょう。」
「え、好きなドラマとモテる、モテないなんて関係ありませんよ。」
「関係あると思うんだよね。そもそも恋愛に興味なさすぎのラインナップだよ、興味ない人の所にはモテはやって来ないよ。」
中島さんの一刀両断。
「どのドラマも多少の恋愛要素はありますよ。」
ちょっと言い返してみた。
「要素って、何パーセント程度じゃねえ…」
そんな、二人で不憫な子を見るような目で私を見ないで。
「昨日、久しぶりに、晴斗君のお母さんに会ったよ。」
後日、夕食の席で中島さんが嬉しそうに言った。因みに、今日のメニューはカツオのたたきと天ぷら。
「なんだかシックな装いでお洒落になってた。表情も穏やかになってる感じだったし。それに、晴斗君が動物のお医者さんになりたいって言いだしたって、嬉しそうに話してたよ。凄い変わりようだったよ。あの後、何があったんだろう?」
「晴斗君、おじいちゃんに動物のお医者さんになりたいって言ったんだって、そしてら、晴斗が優しい動物好きの子に育ったのは、お母さんが大事に育てたからだって言ったんだって。それを聞いたお母さんが嬉しくって泣いちゃったって、晴斗君、嬉しそうに言ってた。」
そう言って、来海ちゃんは、薬味がたっぷりのったカツオのたたきを頬張った。
「自分の頑張りが認められて、気持ちが楽になったんだろうね。そういえば、結局、あの幽霊の話はどうなったの?」
そう言って、中島さんは、海老の天ぷらを頬張った。
「お母さんが、晴斗君に悪霊を信じ込ませるために、自作自演したんですかね?」
他に思い当たる人もいないしと思い、そう答えて、イカの天ぷらを頬張った。
「晴斗君が、幽霊はお母さんじゃなかったって言ってた。お母さんに聞いたんだって。」
来海ちゃんが答えて、舞茸の天ぷらを頬張った。
「それじゃあ、本物の幽霊だったのかな?」
「絶対に違うよ。」
幽霊信じない論者が反論して、薬味なしのカツオのたたきを頬張った。
丁度その時、ドアホンが鳴った。ジョシュアさんが出てみると、晴斗君のお父さんで、ギンちゃんへのお礼にとサーモンの猫用おやつと、みんなさんへとお菓子を持ってきてくれた。
「丁度、僕たち、晴斗君が見たって言う幽霊の話をしていたんですよ。結局、正体は分かったんですか?」
ジョシュアさんがお父さんに尋ねると
「どうやら、隣のおじいちゃんが過去に二度ほど洗濯物の布団カバーに引っかかって、それをそのままかぶって徘徊した事があったらしくて、もしかすると、幽霊の正体はお隣のおじいちゃんだったんじゃないかって。隣のおじいちゃんは、まめ吉によくおやつをくれていたので、それで、まめ吉が吠えなかったんじゃないかと晴斗が言ってました。」
「ほら、僕が言ったとおりだったでしょう。幽霊なんていないんだよ。」
晴斗君のお父さんからもらったクッキーを食べながらジョシュアさんが得意気に言った。
可愛いクッキーの詰め合わせで、大きな猫の顔型クッキーがひとつ入っていて、それがギンちゃんにそっくりで食べるのが申し訳ない気分になったけど、それを選んで私も食べた。
「偶然とはいえ、幽霊の正体を良く当たったね。」
中島さんは、リスを選んで食べた。
「昔、スカイ島って所に住んでた頃、そう言うおじさんがいたんです。そのおじさんは酔っぱらって、外に干してあるテーブルクロスとか、シーツとかを被って徘徊しちゃうんですよ。その島って笑っちゃうくらい何もない場所で、放っておくと絶壁から海に落ちる心配もあるから、見かけると追いかけて、捕まえて、家に連れ戻して、本当に大変だったんですよ。」
そんな話をしていたら、本間さんが来海ちゃんを迎えに来た。
その後、私は中島さんの車で家まで送ってもらった。
玄関で、ジョシュアさんとギンちゃんがお見送りをしてくれる。何だか、こんな日常に幸せを感じているのであった。
その後、夏子の家に泊まりに行った時に、二人で初めてトッケビを観た。そして二人で号泣した。
今更ながら、二人で韓国ドラマに沼ってしまった。
もの言える証人はギンちゃんの事でした!
このシリーズは、ギンちゃん×銀ちゃんと中島さんの活躍の回でした。
次回から数回は、12年程前、ジョシュア・エバンズが15才の少年だった頃、スカイ島での出来事を描こうと思っています。そちらは推理ではなく、恋愛と彼がなぜバイオリニストになって、今はすっかりやめてしまったのかのお話になります。ご興味あればよろしくお願いします。
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