第33話 もの言える証人①
新しい謎解き話のスタートです。
呼び名が2つある人もいるので、注意書き!
♪銀ちゃん=ユーリー
♪ジョシュア・エバンズ=ヒオス
♪ギンちゃん→猫(長毛、たち耳、白猫のスコティッシュフォールドの雄、推定10歳以上)
銀ちゃん(ユーリー)は、この八幡宮の敷地以外では、猫のギンちゃんの体を借りて(体の中に同居して)過ごしています。
「ギンちゃん、今日もお散歩?」
僕はヒオスが好きだ。
ずっと前からお気に入りの実行者の一人だ。実行者とは神の指示を実行する者のこと。神たちは影響力が大きいと判断した人間の存在の要否を決定する。それを実行する者が『実行者』と呼ばれている。
彼とは、僕が使えていた神であるヌアからの指示を伝えるときと、清めのときに少し話をする程度だった。ちゃんと会話をするようになったのはここ最近で、随分と砕けた話もするようになったし、お互いに畏まった話し方をする必要もなくなり、益々彼が好きになった。
「にゃ~」
「今日は僕も行こうかな。明は、学校が始まって、今朝は来られないんでしょう?」
「にゃにゃ~」
ほぼ毎朝、神社で茶飲み話をしていた明も、四月に入って大学が始まり、毎朝、会える訳ではなくなった。
それでも、毎朝、僕はあの神社にいって過ごしている。ヒオスがヌアから聞いた話によると、出来るだけ毎日、元の姿に戻るようにした方が良いそうだ。ずっと元の姿に戻らずにいると、戻れなくなってしまうかもしれないらしい。ギンちゃんもその事を気にしてくれているようで、小雨くらいだと頑張って神社に向かおうとしてくれる。雨の日はヒオスが連れていってくれる。
皆とても良くしてくれる、本当に有難い限りである。
今日はいい天気だけどヒオスと一緒だ。ギンちゃんも喜んでいるみたい。
「随分と暖かくなったよね。」
確かに、日中は寒いと思う事が無くなった。いつもの神社が見えてきた。
僕たちが先に鳥居をくぐった、その後からヒオスも鳥居をくぐった。
鳥居をくぐると僕たち(ギンちゃんと銀ちゃん)は入れ替わる。僕が僕の姿に戻っている間、ギンちゃんは僕の中で眠っていることが多い。時には、じっとしながら話を聞いていることもあるみたいだけど。
「ユーリー、前から聞こうと思ってたんだけど。」
「なに?」
「なんで白いジャージ着てるの?」
「え?なんでって?変?」
「変じゃないけど、何でかなって思っただけ。」
今まで着る物なんて気にしたこともなかった、エデンで着ていたものよりもしっかりして伸び縮みする布だなくらいにしか思ってなかった。
二人でベンチに座って空を見上げた。
エデンから空を見上げると、昼でも夜でもいつでも大きな地球が見えた。時々眺めては、地球ってどんなところなんだろうと考えていた。誰が言っていたか忘れたけど、最近では、地球の人口が爆発的に増え、情報網も異様な程に発展しているため、一人の人間の影響力がどこまで波及するか計り知れない危険な状態になっているという話を耳にした。実際に来てみると危険な場所とは思わないけど、僕が見聞するテレビの中の話では、毎日毎日、どこかで犯罪、争い、感染症の流行なんかが起きている。こんなにも心が落ち着かない世界で人々はどうやって暮らしているのだろうと心配になる。
僕たち神使のことを、パンドラの箱を開ける前の世界に住む、知恵の木の実を食べる前の人間たち、いや神のための人形と呼んでいる者がいることを知っている。その意味も何となくは分かる。もし、パンドラの箱の中身に触れたなら、知恵の木の実を口にしたなら、僕は変わってしまうのだろうか?
そんな好奇心から僕はあの人の感情に興味を抱き、それがどんなものなのかを想像しただけで苦しくなってしまった。神の妹として生まれて来たにも関わらず僕たちと同じ神使となり、その事に不満を募らせ、酷いことをしてまで神になろうとした。しかし、結局彼女は神になることは出来ず、罰を受けることになった。彼女の代わりに僕が罰を受けることを申し出たけど、彼女は今はどこで何をしてるのだろう…ヒオスは彼女は無事だと言っていたけど…
そんなことを考えていたら、ヒオスの声が聞こえた。
「ねえ、ユーリー、あの清めの儀式って省略出来ないの?」
「え?省略なんて出来ないよ。清めが終わってない人にオーラは渡せないもん。」
「あ、そう。でも時間の短縮は出来るよね?」
「まあ、時間の長さは問題じゃないから、一通り清めが終わればそれで問題ないけど…時間が長いってことはそれだけ、神使たちが君を気に入っているってことだから、無下に短くしろなんて言ったら悲しいむよ。」
ヒオスがちょっと困った顔をしている。
「もし、こうして欲しいって要望があるなら伝えた方が良いよ、ちゃんと対応してくれるよ。」
「…いや、そういう事じゃないんだよね。」
「え、どういうこと?」
「大丈夫、無我の境地にたどり着けるよう精進するよ。」
結局、ヒオスが清めの儀式の何に不満を抱いているのか、僕には分からず仕舞いだった。後で、明にでも聞いてみようかな。
夕方、庭の大きな石の上で夕焼け空を眺めていたら、明がやって来た。
「ギンちゃん、元気だった?なんだかすごい久しぶりに会った気がする。」
そう言って僕たちの顔を覗き込んだ。一昨日会ったけどね。でも、僕たちも明に会えてうれしい。ギンちゃんも僕も明が好きだ。
寒くなって来たので家の中に入ると、ヒオスが明に声を掛けてきた。
「明、学校には慣れた?」
「それなりには。」
「大河はジャズ研究会に入ったんだね。」
「早速、素敵な先輩を見つけたとか言ってましたね…」
「はは、流石だね…、明はサークルとか入らないの?」
「あんまり忙しくなると…ねえ。」
そう言って僕たちを抱きかかえた。サークルって何だろう?ギンちゃんも分かっていなそうだ。
「ミステリー研究会っていうのがあって、それは、あんまり気合が入ってなさそうだったから、それにしようかなって。」
「へー、その研究会は何をするの?」
「ミステリー小説を読んだり、映画をみて感想を述べあったり、小説や映画にゆかりの場所や心霊スポットに行ったりするらしいです。推理小説同好会とオカルト同好会がごっちゃになった感じですかね。」
「へー、随分マニアックな研究会だね、明そう言うの好きなんだ?」
「興味ありますよ。夏子がオカルト好きだから一緒に入ろうかって。」
「そうなんだ…」
「ジョシュアさんは、幽霊とか宇宙人とかUMAとか信じます?」
「幽霊は信じない。」
「ジョシュアさん、幽霊が怖いんですか?」
明は何故か嬉しそうだ。
「怖いとか怖くないって話じゃなくて、そもそも信じないって話。」
「へえー」
「幽霊と言えば、来海と同じクラスの男の子が幽霊を見たって言ってたんだって、でも、その後、来海がその事を聞くと何も答えてくれなくなったって不思議がってたな。あと、その子の両腕に痣があって、痣のことを聞いたら、その子はぶつけたって言ってたみたいだけど、両方の腕を同時にぶつける訳ないから変だって、来海は思ってるみたい。」
「幽霊と痣ですか…確かに、両腕に痣っていうのは体罰の可能性もありそうですね、児童相談所に連絡した方が良いかもしれませんね。来海ちゃんって勘が良い子なんですね。」
「でしょう、来海は賢いから。念のため、児童相談所に連絡はしたんだけ、その後、何か対応してくれたかな。後で確認してみるよ。」
「流石ですね。そう言えば、来海ちゃんは函館行かなかったんですね。」
「うん。ギンちゃんと一緒に暮らせなくて残念だった?」
「まあ、ちょっと残念ですけど、ここに来ればいつでも会えるし。それで、来海ちゃんのお母さんは戻って来たんですか?」
「まだだけど、今は、学童保育で六時半まで預かってもらえるから、本間さんの負担も軽くなったと思うよ。」
「でも、どうして函館に行かなかったんですか?来海ちゃん」
「梅枝小学校に一緒に行く約束していたお友達がいたみたいで、絶対に皆と一緒に梅枝小学校に行くって言って大泣きしたらしい。」
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