第3話 このモヤモヤを話したい
お立ち寄りいただきありがとうございます。
ああ、あの男の話を夏子にしたい。
ベッドに横になって、スマホを片手にモヤモヤした。
学校で会って話すならば自然だけど、ラインで送るほどの事でもない。
明日、学校に行っても、夏子がいるかはわからない。
そうだ、聞いてみよう。
[明日学校来る?]
[バイト]
返事早い。何だ、バイトかよ。
[明は?]
[考え中]
[(笑)]
笑う所かな? そうだ、あの猫、何て猫だろう?
[白の長毛、ぶちゃ顔の猫、種類わかる?]
[マンチカンかスコティッシュフォールドでない?]
夏子からの返事の猫を調べた。先にネットで調べた方が早かったな。
多分、スコティッシュフォールドだ。
耳が折れてるのもいる。いろんな色がいる。動画も可愛い。
猫の動画を見ていたら、一階から母の声がした。
「明、お風呂はいっちゃいなさい。」
面倒臭いけれど、湯船につからないと一日が終わらない。
のそのそと起き上がり、一階に降りて行って風呂に入った。
湯船につかっても、まだモヤモヤする。
あの男の顔が頭を過る。
細部までは思い出せないけど、何となくぼんやりと。
何て名前だろう?
あんなにきれいな顔の人が近所にいたら、噂話くらい流れて来るんじゃないかな?
最近引っ越してきたのかな?
この辺の人じゃないのかも?
でも、だったら、「いつも、この前を通ってるってよね。」何て言わないよなあ。
ああ、何でこんなことを考えちゃうんだろう。
一旦思考をリセットして、風呂を出た。
ベッドに腰かけて、無意識にスマホを手に取る。
やっぱり夏子に話そう。聞いて欲しい。
[今朝、神社にすごくかっこいい人がいたの、全身白いジャージで]
[誰似?]
誰に似ているかって?
ちょっと考えた。
[五条悟]
[実在するの、そんな人]
[コスプレイヤーかも]
[えー、会ってみたい]
[朝、葵町公園の近くの八幡宮にいるよ。多分]
[それどこ?(笑)]
[知らんか(笑)]
つられて、(笑)使ってしまったけど、これは笑う所かも。
夏子は同じ高校に通っているが、彼女は南側から、私は北側から二駅通学する。だから、夏子はうちの近所の神社なんか知らない。
因みに、高校も、これから通う大学と同じ最寄り駅にある。
これから四年間、今までと変わり映えのない生活が待っている。
それはそれで、安心できるのでポジティブにとらえているし、そう言う環境を自分で選んだのだと思う。
意外だったのは夏子だ。
夏子は東京の大学に行くと思っていたが、美術史を学べる学校が近所にあるから、そこに通うと言い出した。将来は学芸員とやらになりたいそうだ。学芸員が何をする人なのかイマイチピンとこない。
そういう私は、同じ大学の史学科に進む。歴史を愛してやまないと言うわけではない。経済、商業、文学、心理学、語学…に進むよりは、まだ興味が持てるかなって思った程度。
友達からは、就職に不利らしいよと言われた。
だから何なんなんだよ、就職何てまだ先の事だもん、と思っている。
少しだけど、あの男の話が出来てすっきりした。
今度会ったら、もっといろいろ話そう。
……いろいろってほど、あの男のことを良く知らない。そんなに話すことがない。
そう思ったら、物足りなさを感じた。
今朝だって、少し言葉を交わしただけだった。
相手は犬にしか興味を持ってなかった。
犬のことはしきりに可愛いと言っていたが、私のことは何も言ってなかった。
私は何を考えているんだ。
そりゃあ、あの場面だったら犬を可愛いと言うだろう。
あそこで、私の事まで可愛いと言ったら、若干の恐怖を覚えただろう。
なんだか、今日は変だ。休みボケかな? 暇すぎるのかな?
そんなことを考えながらスマホを手に、猫の動画を検索した。
いかがでしたでしょうか?感想を聞かせてください。
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