第25話 彼女は僕のすべて
卒業式も終わり、もう高校生じゃなくなるんだなって…
全く実感ないけど、とりあえずいつも通り、朝はモモ太の散歩に行って、神社で銀ちゃんとおしゃべりして、最近は教習所にも通っている。
どうにかして、銀ちゃんとの関係をもっと進展させたいと思っていたけど、こうやって毎日くだらないことをお喋り出来る関係も良いなって思っている。この関係が壊れるくらいならば、ずっとこのままでも良いのかなって。
「来海ちゃんのお母さん随分と入院長いですね。そんなに体調良くないんですか?」
そして、この家にも時々入り浸るようになった。
勿論、目的は猫のギンちゃんである…こうやって戯れているだけで幸せ。猫じゃらしを目を細めて優雅に眺めるギンちゃん、全く飛びつこうともしないギンちゃん、可愛い。
「実は、もう退院してるんだよ。」
「え、じゃあ、どうして未だにジョシュアさんたちが幼稚園に迎えにいってるんですか?」
「体力が戻らないらしくって、実家で静養することにしたんだって。それでね、来海のことも実家で引き取ろうかって話になってるらしい。」
「実家ってどこなんですか?」
「函館なんだって。」
「え、北海道の?じゃあ、来海ちゃん北海道に引っ越しちゃうんですか?」
「まだ決まった訳じゃないみたいだけど、本間さん、相当無理して一人で面倒みてるからね。本間さんも近くに親戚の人は住んでないみたいで。」
いや、お前と花沢さんと中島さんがほぼ面倒見てるだろう…
「そうなんですか、もし、来海ちゃんが北海道に引っ越しちゃったら、ジョシュアさんも寂しいですね。」
「そしたら、僕も北海道に引っ越せばいいだけなんだけど、銀ちゃんのことがあるからね。定期的にオーラを運ばないといけないし、彼の状況も知らせないとならないし。どうしたものかなって…」
「え?来海ちゃんが引っ越したら、ジョシュアさんも一緒に引っ越すんですか?」
何それ?
「だって、来海がいなかったら、正直、ここにいる意味ないもん。」
え?
「ジョシュアさんにとって来海ちゃんって何なんですか?」
前から聞こうと思ってたけど、聞くのが怖くてちょっと避けていた質問。
「すべてかな。」
はあ?またもや何を言ってるのかさっぱりですけど…
「すべてとは?」
「自分にとっての生きる意味、また彼女に会えるって思えるから生きていられるって言う感じ。ちょっと重たいよね。」
「すんごい重たいです。でも、また会えるってどういう意味ですか?」
「何て説明すればいいんだろう……
基本的に僕たちは地球上に生まれ変わってくるんだけど、子どもの頃は今世の記憶しかなくて、成長すると過去というか本来の自分の記憶を思い出すんだよ。そして、思い出すとガーデンに行って思い出しましたよって登録することになってるの。もし、彼女が先に登録していたら直ぐに会えるけど、まだ登録してない場合は彼女を探しに行くんだ。彼女が僕を探しに来ることもある。そんな感じで僕たちはまた会うんだ。」
「二人はパートナーだって、銀ちゃんが言ってましたけど、夫婦なんですか?」
「そう、夫婦だよ。僕は既婚者。」
いや、そこはどうでも良い。
「それでね、ギンちゃんのことなんだけど、もし、来海が引っ越すってなったら、明に預けてもいい?月に一度くらいは会いに来るけど。」
「え?銀ちゃんをですか!!」
「試しに、他の八幡宮とか違う系列の神社、教会とかでも試してみたんだけど、他に元の姿に戻れる場所がなさそうなんだよね…定期的に元の姿に戻らないと、段々戻れなくなってしまうらしくって、引っ越し先の近くにそう言う場所があれば、一緒に連れて行くんだけど、どうかな。」
「それは、勿論、うちで預かるのは良いですよ。」
「本当に!助かるよ。恩に着るよ、今度、何でも食べたいものご馳走するから。医療費とかはこっちに請求してくれていいからね。」
ギンちゃんが、ゆらゆらとしっぽを揺らし、目を細めてこちらを見上げている。ゆっくり抱き上げると、私の手をペロペロと舐めた。
「くすぐったいなあ。」
そう言うと、次は首をなめた。
大河が言っていた、相手もキスをしたいと思っているサインってこういう事かな?いや、これは猫のギンちゃんがしていることだ、猫ならば普通にこういうことはする。
でも、もし、銀ちゃんがしているんだったら...
そう思うと、何か嬉しいような、恥ずかしい気分になった。
銀ちゃんと同棲。いや、猫のギンちゃんだから。
毎晩一緒のお布団で眠って、朝起きたらおはようってお鼻にキスをして、週末は一緒にドライブ。でも猫のギンちゃんだから…
またもや複雑な思い。
そんな妄想にふけっていると、
「あ、友達からバイオリン借りられたから、大河にいつでも良いよって言っておいて。」
「え?バイオリン?」
あ、そうだった…今日はその事をお願いしようと思ってたんだった。
速攻、大河に連絡すると、今週末だとありがたい!の即答が来た。
「今週の土曜が良いそうです。」
「わかった、土曜ね。明も来る?」
「…まあ、暇だし。ギンちゃんにも会いたいから、来ます。」
ギンちゃんを預かるかもってことに舞い上がってしまい、『また彼女に会える』って所をちゃんと確認しなかったなぁ…
「自分にとっての生きる意味…彼女は僕のすべて…」
言葉にするとものすんごく重い。
生まれ変わってまた会えるのか、それも記憶を持ったまま。何だか羨ましい気がする。前世の私にもそんな人いたのかな?来世でもまた会いたい、一緒になりたいなんて思う人が。それが銀ちゃんで、また今世でも運命の再会なんちゃって…まあ、銀ちゃんが数万才って時点でそれはないんだけど。
じゃあ、来海ちゃんもいずれはエシャって人の記憶を思い出すのだろうか?そしたら、あんなにイカの燻製を食べなくなるのかな?そこはどうでも良いか。
それと、神様が決めたことを実行する実行部隊って…神様は何を決めてるんだろう?
あんまり深入りしない方がいいのかもしれないな。でも、銀ちゃんのことは諦めたくないなぁ。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ジョシュアと来海ちゃんの関係が少しわかる回だったかと思います。二人には長い歴史があり、何かの機会でそう言った話も加えられたらなと考えています。
でも、基本的には明が主に親友達から持ち込まれた謎を解いたりしながら、銀ちゃんへの恋に突き進むお話になります。
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