第23話 そうだ運転免許を取ろう!
私が地球のことを教えてあげようなどと言ったものの、何を教えれば良いんだろう?世界地図、各国の文化?そんなの学校の社会で習った事くらいしかわからないし、人に教えるほどちゃんと覚えてないし…
そうだ、やっぱり運転免許証を取りに行こう。
猫ちゃんと一緒にお出かけするならば車の方が何かと便利。地球のことなんて大それたことは教えてあげられないけど、この近辺を見せてあげることくらいならば出来るはず。
利根川モータースクールの受付には、先日パンフレットをくれた『良田』さんがいた。
「あ、こないだのワンちゃんと一緒だった子よね。申し込みに来てくれたの?どうぞこちらに掛けて。」
やっぱり感じの良い人だ。この人が不倫の末に、巴菜さんのお父さんを巴菜さんのお母さんと巴菜さんから奪ったなんて想像もつかない。
丁寧に説明をしてもらい、申し込みをした。
恋愛って、あんな優しそうな人を変えてしまうほど怖いものなのかな、それとも一部の情熱的な人がそうなるだけなのかな?
もし、銀ちゃんに恋人が、いや奥さんがいたらどうしよう。それでも私は彼のことが諦められなくて、その恋人または奥さんから奪ってやろうと思うのかな…っていうか、銀ちゃんに恋人がいるなんて嫌だ、奥さんがいるのも嫌だ、もしそうならば泣く、盛大に号泣する。
…いないよね…。
三十分後、あの家の前に立っていた。
いや、これは、昨日、助けてもらったお礼に来ただけで、銀ちゃんの恋人云々は、そのついでに聞けたら聞いてみようって思ってるだけで、その証拠に、ちゃんと手土産も持ってきた。父親が出張土産で買って来たお菓子で、同じものをお隣さんからもたまたま頂いて、こんなに食べられないと困っていたものだけど。
そういえば、猫のギンちゃんもこの家にいるんだった…ギンちゃんの前で、銀ちゃんに恋人とか奥さんいませんよね?なんて確かめられない。
もしギンちゃんがいなかったとしても、そんなことあの男に尋ねたら、私が銀ちゃんのことを好きだってことがあの男にばれてしまう。友達として好きだってしか言ってないのに、それ以上に好きだってことがばれたら、何か…気恥ずかしいし、からかわれるかもしれない。
でも、これ以上先に進むためには、相手の身辺のことを知っておくっていうのは重要なことだ…これ以上先って、私は一体何を想像…いや、妄想しているんだろう、意味もなく顔だけ熱い気がする。
「なにやってるの?」
後ろから聞きなれた声がした。
「ぎやー」
驚きの余り、意味不明な心の声が駄々洩れした。
「大丈夫?昨日、頭とか打ってないよね?」
真面目に心配してくれている。この人は根は良い奴なんだと思う。
「あ、大丈夫です。体はどこも痛くも痒くもありません。昨日のお礼を言おうと思って。」
「わざわざ、気を使わなくていいのに、今はギンちゃんいないけどお茶でも飲んでく?」
「…良いんですか、お忙しいんじゃ…」
何だか見透かされているようで、落ち着かない。
リビングに通された。昨晩、来海ちゃんがゲームをしていた部屋だ。そう言えば来海ちゃんのお父さんは迎えに来たのだろうか?この時間は幼稚園かな。
「ギンちゃん、どこかにお出かけですか?」
「基本、朝から夕方までは散歩に出ているよ。途中に帰ってくることもあるけど、今日は帰ってきてないね。」
「そうなんですね。」
そう言えば、ギンちゃんの腎臓検査の数値が良くないって言っていたような。
「ギンちゃん、病気なんですか?」
「ああ、病気って言うほどでもないけど、もう十歳以上で若くないみたいだから、年相応に腎臓の機能が落ちてるみたい。」
「治療してるんですか?」
「専用のフードに切り替えて、定期的に検査して様子を見るって感じかな。」
「そんなことで治るんですか?」
「え?治らないだろうけど、進行を遅らせることは出来ると思うよ。」
「そんなんで良いんですか?専門のお医者さんに連れて行かないんですか?」
「近くの動物病院に猫の腎臓病に詳しい先生がいるから、その先生に診てもらっていれば、普通に暮らしていくことは問題ないと思うよ。でも、どうしたの、そんなにギンちゃんのことが心配?」
「それは、懐いてくれているし…可愛いなって思うから、心配になるのは当然じゃないですか。」
こないだは、勝手に住みついた猫の健康診断なんてと、馬鹿にしてたのに…自分でもこの変わりようはおかしいと思う。
「ありがとう。ギンちゃんも喜ぶよ。明のことが大好きみたいだから。」
人を絆すような笑顔だ。でも、私は絆されたりはしない…ギンちゃんが私のこと大好きみたいってどういうことだろう?銀ちゃん何か言ってたのかな…
そうだった、兎に角、今は本題に入らねば。
「所で、神社の銀ちゃんとは付き合いが長いんですか?」
「長いと言えば長いけど、ちゃんと話をするようになったのはここ最近だよ。」
「二人はどういうご関係なんですか?あ、銀ちゃんの名前がユーリーでエデンと言う所で神様の使いをしていたっていうことは聞きました。」
「急展開だね。で、その話はもう信用したの?」
「はい、総合的に考えてもう信じることにしました。」
「切り替え早いね…ユーリーと私の関係ねえ…神様が決めたことをユーリーたち神の使いが私たちのような実行部隊に伝達する、そう言う関係。社長秘書と社員みたいな関係?親会社と下請けの社員?...ちょっと違うかな…」
またもや意味不明な言葉が飛び出してきた。神様が決めたことを実行する実行部隊…でも、この話に深入りしたら今日の本題からそれてしまう。このことは後で尋ねることにしよう。
「ちょっと何を言ってるのかわからないのですが、その…単刀直入に聞くと、銀ちゃんって独身ですか?」
ああ、やっぱり単刀直入に聞いてしまった、でも他にどんな尋ね方があるっていうんだ。そう、私が知りたいことは、彼が独身なのか?恋人はいないのか?そしてもし可能ならば、どんなタイプの女性が好きなのか?そも、恋愛対象は女性なのか?ってことである。
「え?」
目が点になっている。
自分がおかしなことを聞いていることは百も承知だ。それでも恥を忍んで聞いてるんだから、ちゃんと誠意をもって答えて欲しい。「え?」ってなんだよ。
「…ごめん、腹がよじれるかと思ったよ。」
目に涙を溜めて必死に笑いを堪えているのが分かる。本当に腹立たしい、恥ずかしさの余りこちらも涙が出そうになる。
「忘れてください、何でもないです…」
「彼は独身だよ。そもそも神使には、結婚とか”つがい”になるという概念はないと思うし、特定の者と深い仲になるっていうこともないんじゃないかな。そう言う意味で笑っただけだから、明のことを笑ったわけじゃないよ。」
「え、じゃあ、神使は恋愛をしないんですか?」
「うーん、誰かと誰かが付き合ってるってなんて話は聞いたことがないな、お気に入りはいるみたいだけど。」
「じゃあ、どうやって子孫を残すんですか?」
話が一足飛び過ぎた気もするが、これはもっともな疑問だと思う。
「彼らの年齢は知らないけど、多分、何万年も生きていると思う。エデンにいれば、年を取ることはないし、病気もしない、怪我もすぐに治っちゃう。だから子孫を残す必要がないんだよ。彼らがどうやって誕生したかは神のみぞ知るだよ。」
銀ちゃんの年齢は数万才…
そして、独身で恋人もいないが…そもそも恋愛をしない。
今回のお話はいかがだったでしょうか?
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