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第19話 小野小町の庭を探せ⑥




巴菜はなさん、宝石を見つけた時に一緒にいたお母さんのお友達って誰なんですか?」


 巴菜はなさんは少しだけ顔を上げた。


「確か、母の同級生の菊池さんって人だったと思う。」


 利根川真理子じゃなかったのか、残念。


「その宝石は利根川さんが言ってる『小野小町の庭』な訳ないと思うの、そんな貴重な宝石が家に置いてある訳ないもの。でも、最近、利根川さんから母の所にも電話があったみたいで、本当にどうしていいのか分からなくって。」


「利根川さんとお母さんって知り合いなんですか?」


「うん、中高の同級生なの。」


「それじゃあ、菊池さんと利根川さんも同級生ってことですよね?」


「うん、三人は高校の時の同級生だって聞いてる。」


「そうなんですね。そう言えば、巴菜はなさんはどうして、年始のタイムカプセルの開封会に行けなかったんですか?」


「確か、その日は毎年恒例の鏡開きの日で、うちの課が毎年準備やら何やらを担当してるんだって、だからその日は冠婚葬祭か体調不良以外ではお休みできないの。」


 そう言って、巴菜はなさんはスマホを見た。


「私そろそろ帰らないと。今日はわざわざ私のためにありがとうね。もし何か分かったら教えてね。」




「ねえ大河たいが、『小野小町の庭』はどこにあると思う?」


「え、それを僕に聞く? 川の底ってことだよね……でもさ、巴菜はなさんは悪くないよ。その菊池さんって人ひどいよね、何でそんなこと言ったんだろう。」


「これは私の想像だけど、利根川真理子に頼まれて言ったんじゃないのかな。」


「え、どうして?」


「もし大河たいがが、巴菜はなさんのお父さんだったら、愛人のために買った宝石を台所の引き出しに入れる?」


「台所の引き出しになんて入れないね。じゃあ、誰が入れたんだろう?」


「うーん、可能性としては、菊池さん、利根川さん、巴菜はなさんのお母さん辺りだと思う。一度、家でこれまでに集めた情報を整理しよう。」


 そば湯を飲み干して店を出た。





あかり大河たいが

 聞き覚えのある声が聞こえた。グレーのSUVがゆっくりと横に止まった。


「あれ、ジョシュアさん。」

 大河たいがが嬉しそう車に近づいた。


 運転席から覗くと、助手席に見覚えのある女の子が座っている。


大河たいがお兄ちゃん、モモ太のお姉さん。」

 そう言って、女の子は嬉しそうにこちらに向かって手を振った。


「…来海くるみちゃん。どうして…」


 唖然としている私に気づいて、ジョシュアがちょっと気まずそうに


「事情は後で話すよ。この辺で犬のぬいぐるみを売っているお店を知らない?」


 大河たいがと私は後ろの席に乗り込んだ。

 後ろの席には猫のギンちゃんが一人でくつろいでいて、私たちが乗り込もうとすると一度だけ大きく伸びをしてゆっくりと席を譲ってくれた。そして、私が乗り込むと、私の膝の上に乗りお腹に顔を埋めた。


 それを見た大河(大河)が不思議そうに

「その猫、あかりに懐いてるね。知り合い?」


「うん、名前はギンちゃん。」


「え、これがギンちゃん?あのあかりを騙そうとしていた極悪非道の?」


「何それ?猫がそんなことする訳ないでしょう。」


 こんな所でそんな話は止めてもらいたい。


「そうだ、犬のぬいぐるみならば本屋にありますよ。来海くるみちゃんはどの犬さんが欲しいの?」

 私の不機嫌な声色を悟ったのか、大河たいがが話題を変えた。


「モモ太が欲しい。」


「ギンちゃんを獣医さんに迎えに行ったんだけど、そこにあったシベリアンハスキーの大きなぬいぐるみを見て、モモ太のぬいぐるみが欲しいって言いだして。どこで売ってるのか分からなくって困ってたんだよ。」


「ギンちゃんどこか悪いんですか?」


「そういう訳じゃないけど、若くないから健康診断してもらったんだ。そしたらちょっと腎臓の機能が落ちてるって、年相応らしいけど。ごはんもそれ用に切り替えなくちゃ。」


 勝手に家に住み着いた猫の健康診断なんて、何だか大げさだなとも思うけど、きっとこの人は育ちが良いんだろうなと思うことにしよう。


「モモ太って、ボーダーコリーだよね?」


 違うことに気を取られて上の空になっている私にジョシュアが尋ねて来た。


「そうです、ボーダーコリーです。来海くるみちゃんモモ太のこと大好きなんだね、今度、一緒にお散歩でもしようか。」


「うん、お散歩行く。」


 嬉しそうに、無印のイカの燻製の袋から、ごっそりとイカを取り出して口に押し込んでいる。


来海くるみのお母さんが急遽入院することになって、本間さんは仕事で遅くなることが多いし、来海くるみの幼稚園は一時半には終わっちゃうし、預かり保育は対応してないしで、他の預かってくれる保育園が見つかるまでは昼間はうちで預かることになったんだよ。」


「うげ」

 思わず心の声が漏れてしまった。物凄く濁った心の声が。


「どこから出たのその音?」

 大河たいがが目を丸くした。


「いや、何でもない…失礼しました。」

 取り敢えず場を取り繕おうと思った。


あかりは僕のことロリコンで来海くるみのことを狙ってるんじゃないかと心配してるんだよね。でも、昼間はお手伝いさんが来てくれるから、安心して。」


 相変わらず、さらりと爽やかに凄いことを言う男だなあ。




 本屋には残念ながらボーダーコリーのぬいぐるみは無かったけど、来海くるみちゃんがチベタンマスティフのぬいぐるみを気に入ってくれたので、それを買って、みんなでジョシュアの家に向かった。


 右手にイカの燻製を持ち、左手に犬のぬいぐるみを抱えた来海くるみちゃんは終始ご機嫌で、車の中でずっと歌を歌ってくれた。私たちはそれを手拍子しながら盛り上げた。


 そして、来海くるみちゃんは家に着いてもずっと歌を歌い続けていた。

 お手伝いの花沢さんは六十才くらいの優しそうな女性で、歌い続けている来海くるみちゃんの手を引いて先を歩いている。


「イカの燻製食べさせ過ぎじゃないですか?」

 余計なお世話だと思ったが言わずにいられなかった。


「食べ過ぎだよね、これしょっぱいよね。本間さんが、来海くるみはこれを食べてると機嫌がいいからって、沢山持たせてくれたんだよ。」


 そう言って見せてきた紙袋には十袋以上入っている。


 来海くるみちゃんのお父さんはどのくらい彼女をこの男に預けるつもりなのだ?そう思うと、不安で仕方なくなった。




 花沢さんからイカの燻製と交換でもらったホットレモネードを飲み干した来海くるみちゃんは、コモモと名付けたチベタンマスティフを抱え、ソファーで眠ってしまった。


 ソファーを背もたれ代わりに畳の上に座り込み、三人でこれまでに集まった情報を整理した。そして、一つの仮説が出来上がった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『小野小町の庭』の寄贈は当時県議会議員選挙を控えていた父の利根川治が勝手に決めた事であった。しかし、寄贈したくなかった利根川真理子は、どうにか手元に残す方法を考えていた、そんな折に自分の父親の会社で働いている部下の女性の不倫相手が、自分の中学・高校の同級生である巴菜はなさんの母親の夫である良田よしだであることを知る。二人の娘は小学校六年生でタイムカプセルの卒業行事を控えていた。

 また、当時から利根川真理子は市議会議員をしており、市の予算で頑丈なタイムカプセルと忘れ去られることのない場所を準備することが可能であった。


 寄贈のための運搬当日、『小野小町の庭』をケースに格納した際、最終確認をしたのは警備員と利根川真理子であったことから、利根川真理子がケースから抜き出すことは可能だったと考える。


 利根川真理子または、その友人の菊池が、良田が不倫相手に高価な宝石を買ったという話を巴菜さんの母親に吹き込んだ。それが本当か嘘かは分からないが、巴菜さんの母親は信じ込んでしまい、二人は大喧嘩になった。喧嘩の内容を聞いた巴菜さんが見つけやすい場所に、利根川真理子または、菊池が『小野小町の庭』を隠しておいて、巴菜はなさんが見つけたタイミングで「それが無くなっちゃえば、お父さんとお母さん仲直りするかもしれないね。タイムカプセルに隠しちゃおうよ。」と声を掛けた。

 夫の不倫のことで悩んでいた巴菜さんの母親がこの二人にいろいろと相談していて、二人が頻繁に家に来ていた可能性は高い。


 だが巴菜さんは、その宝石をタイムカプセルには入れずに近所の川に投げ捨ててしまった。


 そんなこととは知らない利根川真理子は、今年の年始のタイムカプセル開封会で十年ぶりに愛しの『小野小町の庭』と再会することを待ちわびていた。自分がテープカットに参加することで、市議会議員の力を使って巴菜さんが開封会に参加できない日程で開催させ、巴菜さんの荷物の中から折を見て『小野小町の庭』を取り出すつもりだった。しかし、荷物を開けてみたら宝石は入っておらず、「お母さんとお父さんがずっと仲良くしてくれましように。」と書かれた紙だけが入っていた。

 巴菜さんが『小野小町の庭』をタイムカプセルに入れずに自分で持っていると利根川真理子は勘違いをしている。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「集めた情報からするとしっくりくるけど、随分と回りくどいやり方な気もするね。」

 大河たいがが言うことももっともだ。


「回りくどいけど安全だよね。十年間は誰も触れることすら出来ない。人目に付きやすい図書館前の広場に埋めてるから、知らぬ間に掘り返されるリスクも少ない。それに、開封した時に、誰かに見られ可能性も考慮すると、自分で小学校の卒業記念のタイムカプセルに宝石を忍ばせるのは不自然だから、やっぱり巴菜さんに入れさせたかったのかもしれないね。」

 ジョシュアの言うことはもっともだ。


「確かに、そうですね。で、この仮説が正しいかをどうやって確認しようか?」


「『小野小町の庭』がもう川の底だってことはほぼ確定だから、仮説の正しさよりは、どうやって利根川さんに諦めてもらうかを考える方が先かなって思うんだよね。」


 兎に角、この話は利根川真理子が諦めてくれれば終わることなのだ。


「確かに、そうだよね。でもあの人絶対にしつこいよ。」


 確かにそうなんだよね……








小野小町の庭のありかはほぼ分かったけど、どうやって利根川さんに諦めてもらうかが残っています。

もう少しお付き合いください。


今回のお話はいかがでしたか?

感想など聞かせていただけると嬉しいです。


毎週水曜、日曜14:30に更新予定です。

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