表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/44

第15話 あなたとキスをしてみたい

まだ謎解きに戻らず、前回の続きになります。

ちなみに、舞台は地球に戻っています。

 北条みちこ記念館からの帰り道、あかりの足は自然といつもの神社に向かっていた。


 日の入りにはまだ時間がある、でもこんな時間にいる訳ない。でも、もしいたら、あのことを聞いてみよう。そんなことを考えながら葵町公園の角を曲がると鳥居が見えた。いる訳ないと思っても胸がどきどきした。



 いつもの境内のベンチに男性が二人座っているのが見えた。


 一人は銀ちゃんだ! 嬉しさが込み上げて来る。

 もう一人は?見覚えがある気がするのだが、誰かわからない。


 二人はこちらに気づくと、満面の笑みで手を振った。


あかり、いらっしゃい。丁度いいところに来てくれたよ。」


 もう一人の男性は、腰くらいまである長い金髪をゆるく一つに束ねて、三つ編みにしている。自分と同い年くらいかな…凄くきれいな人…でも、どこかで見たような。

 無意識にその顔を凝視していると、突然、名前を呼ばれて驚いた。


「どうしたの、あかり? 私の顔に何か付いてる?」


 あれ、この声はジョシュアさん?


「……もしかして、ジョシュアさん?その髪の毛どうしたんですか?」


「あー、気づいてくれた?突然伸びちゃったから一つに束ねたの。どう?」


 なんだかキャピキャピしてない?こんなキャラだったっけ?それに、髪が突然伸びるってどういうことよ?


「え?ああ、似合ってますよ…それと美容医療ですか?肌がピカピカって言うか、若返り過ぎじゃありません?」


「わかる?触っても良いよ。」

 そう言いながら、嬉しそうに右頬をこちらに差し出しできた。


「いえ、結構です。」

 なんか、イラっとする。


 その横では、銀ちゃんが嬉しそうにジョシュアのほほに長く細いしなやかな指をわせている。その指の動きにドキッとして、視線を逸らした。


あかりに、お願いがあるんだけど。」

 銀ちゃんの甘えるような声に、またもやドキッとした。


「ここに立っていてくれないかな?通行人から私たちが見えないように。」

 ジョシュアが自分の足元を指差した。


「え?ここにですか?」

 言われるがままに、その場所に立った。


 確かに、自分がここに立っていれば、ベンチに座った二人の姿は通行人から見えない。それに、この神社の前を通行する人の数はそもそも少ない。


「それで、何をするんです……か……」


 振り返って二人を見下ろすと、ジョシュアが銀ちゃんの腰に手を回し、銀ちゃんがジョシュアの両肩に手を乗せている。


「ジョシュアがエデンからオーラを持ち帰って来てくれたの。」


「口移しで渡すから、人に見られないようにそこに立っていて欲しいんだ。」


「僕は見られても平気だよ。」


「あなたは、人から見えないから恥ずかしくないでしょうけど、私は一人で口を開いてアホづらさらさなきゃならないんです。」


「わかったよ。ジョシュアが恥ずかしいって言うから、あかりよろしくね。」


 ジョシュアは銀ちゃんのあごを少しだけ上に向けると、銀ちゃんの唇に自分の唇を重ねた。余りにも突然のことに呆気にとられて二人を眺めていると。


「もう少し口を開いてください。」

「こう? んぅあ…ぁ…」

「変な声出さないでください。」

「だって、強く抱き寄せるんだもん。」


 ああ、私は何を見せられ、聞かされているんだろう。

 だけど、目を逸らそうと思ってもどうしても逸らせない、どうしても二人に目が行ってしまう。


 暫くすると、銀ちゃんの喉を何か丸いものが通って行くのが見えるような気がした。淡い光を発した温かくて丸い何か。

 銀ちゃんがそれをゆっくりと飲み込んでいく。


 銀ちゃんがジョシュアの首に両腕を絡めた。細めた目の中の瞳は猫のギンちゃんと同じヘーゼルア。

 銀ちゃんの目ってこんな色だったっけ?何てきれいなんだろう、吸い込まれそう。そう思ったら益々目が離せなくなった。


 何だか、自分が銀ちゃんとキスをしているような錯覚に陥る。


 ああ、銀ちゃんとキスをしてみたいな。


 そんな言葉が頭を過り、我に返った。

 ダメ、ダメダメ、何を考えてるんだろう。

 そう自分に言い聞かせながら頭を何度も振り、赤く染まり始めた空を眺めた。



 どのくらいたっただろうか、背中の方から声がした。


あかり、終わったよ。」

 振り返ると、ジョシュアがこちらを見上げている。

 さっき見た時よりも少し老けたというか、いつも通りに戻ったように見えた。


「全部、送らなくて良かったのに、自分の分も取っておきなよ。返そうか?」

 銀ちゃんがジョシュアの頬に手を当てて、彼の口元に自分の顔を近づけた。


「結構です。返さないでください。」


「じゃあ、あかりにあげるよ。人間にだって良い効果があるはずだから。」


 そう言って、銀ちゃんは私の手首を柔らかくつかんだ。思わず反射的に手を引っ込めようとしてしまった。嫌だった訳じゃないけど、でもびっくりした。


「やめなさい。」

 子どもを諭すようにジョシュアは、私の手をつかんでいる銀ちゃんの腕に手を置いた。


「どうして?」

 銀ちゃんが不思議そうな表情で彼を見つめた。


「誰だって、急に腕を掴まれたら驚くでしょう。」


「そうなんだ、ごめんねあかり、驚かせちゃった?」


「……大丈夫。」


 申し訳なさそうな顔をしている銀ちゃんを見て、何て答えていいか分からず、うつむいてしまった。




あかり、送って行こうか?」


「大丈夫です、家近いから...そうだジョシュアさん、パン教室って興味あります?」


 場の空気が少し重くなった気がして、何か喋らなきゃと、思い切ってパン教室の話を出してみた。


「パン教室?面白そうだね。何パン?」


 思いの外、喰いつきが良い。


「その時々によって違うみたいなんですけど、私の友だちのお母さんがやっている教室で、来海くるみちゃんのお母さんも通ってて、来海くるみちゃん、ここで習ったパンが一番美味しいって言ってるらしいですよ。」


「え!行く。」


 え?即答?


 その場で電話で申し込みをし、火曜日の『メープルクルミパンとチョコチップメロンパン』に予約を入れた。








今回のお話はいかがでしたか?

感想を聞かせてください。


毎週水曜、日曜の14:30更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ