第14話 エデンへの呼び出し
今回のお話では、一旦、謎解きから離れます。
もう一つの舞台であるガーデンの背景情報の回にもなってます。
こんなに頻繁に呼び出されるのは初めてだ。
前回の呼び出しは、ほんの一週間前のことだった。ヒオスは不思議に思いながらも先を歩く神使について歩いた。
いつもならばエデンに入る手前のメリンナ島で神の使いである神使から指示を受けるか、GWの本部にいても指示を受けることができる。何なら、どこにいたって本部がその指示を中継してくれる。わざわざガーデンに戻って来る必要もない。
メリンナ島からは、神使の後について、長い長い橋を渡りエデンに入る。
メリンナ島から先は、車や電車などの文明的な乗り物は一切ない。ただ歩いて向かうのみだが、何百キロだろうが何千キロだろうが神使と一緒ならば数分で到着してしまう。
それに、怪我や病気をしていても治ってしまうし、寒さも暑さも不快に感じない。空腹も喉の渇きも感じない。
ここに暮らす神たちから放出されているオーラがエデン全体を包み込み、そういう空間にしているらしい。
一つ困ったことがあって、ここに来ると髪の毛が伸びる。
メリンナ島に居るだけでも腰くらいまで伸びる。エデンに入ると足首くらいまで伸びてしまう。地球に戻る際に切っておかないと、ある日突然髪が伸びた人になってしまう。男なのでウイッグの言い訳も、ちょっと厳しい時がある。
エデンには現在六人の神たちと、その使いである神使と呼ばれる数百名の者が暮らしている。地球の半分ほどの広さに数百人だけ。
残りの半分には数万人が暮らしているが、そのほとんどがGW本部と支部のある限られた区域に居住している。ちなみにGWはお察しの通りGod's Willの略である。地球を守護する神からの指示を実行するための機関である。
エデンのことは良く知らないが、柔らかな光と美しい森がどこまでも続いているらしい。
エデン外(エデン以外の部分に名前はなくそう呼ばれている。)では、GWがある区域は守護する地球の文明に合わせて発展している。地球にあるテクノロジーを少し上回った程度の発展になっている。
GW区域外は、太古からそれぞれの習慣や文化を継承しながら暮らす少数種族が住んでいる。そう言った種族の半分くらいは翼を持っていて空を飛ぶことができる。以前は白、茶、黒の翼をもつ種族が存在していたが、今では殆どが白い翼の種族で、極僅かに茶色の翼を持った種族が残っている。黒の翼をもつ種族は一人を残して絶滅してしまった。
現在GW区域内で働くほとんどの者がそう言った種族の出身者だ。自分もそうだ。
神に謁見する際、神を直視することは出来るだけ避ける。それが仕来たりである。終始、片膝をついて傅き、頭は下げる。突然伸びた髪の毛が床に着いて鬱陶しい。
相手が声を掛けてくるまでは、こちらから声は掛けない。
「ユーリーは元気にしているか?」
六人いる神の一人『ヌア』
ヌアは黒髪に深い蒼色の瞳、太く凛々しい眉、そして強靭な肉体を持つ男性の神である。
「はい、お元気に過ごされています。」
ユーリーは、ヌアの神使だった者で、ヌアの妹であるヤガの罪の肩代わりを自ら申し出て、彼女の代わりに罰を受けた。
「そうか。どんな様子だ?」
わざわざ自分に聞かなくても、既に状況は把握しているはずだ。つい先日、自分にユーリーの居場所を知らせてきたのはヌアの方だった。
明のことを話すべきか少し迷ったが、既に知っている可能性が高い。
「あの神社の敷地内であればお姿を維持することが出来ています。そこを出ると猫の体を借りて過ごされております。」
「そうか。友人は出来たか?」
友人?エデンでは聞きなれない言葉だ。明のことを言っているのか?やはり彼女の存在を知っている、または、そう言う存在を自分の手で作り出した可能性もある。
「はい、彼の姿が見える女性が一人おります。その女性とはその神社で時々話をしているようです。」
「そうか。お前も時々は話し相手になってやってくれ。もう暫くは、そこで我慢してもらうことになるからな。」
「承知しました。」
「ところで、エシャは元気か?」
「はい、元気に過ごしております。お気遣いありがとうございます。」
「何歳だ?」
「六歳になります。」
「六歳か……」
確か、あの時も六歳くらいだった。
「はい。」
「ヒオスも何かと大変だろろう、エデンで少し休んでいくと良い。場所を用意してある。」
「身に余る光栄。お言葉に甘えてゆっくりさせていただきます。」
神使に連れられ、通された先はまさに桃源郷。
ここで美しいヌアの神使達に体を清められ、その後、オーラと呼ばれる彼らの命の源とでも言うようなものを体に送り込んでもらう。これが、エデン流の最上級のもてなし。
神使達が何万年もの間、美しい姿でいられるのは、このオーラおかげらしい。また、このオーラのおかげなのか彼らは食事を必要としない、時々、娯楽として果物や酒などを口にすることはあるようだが、生きるための栄養を取る必要がないらしい。
この最上級のもてなしの流儀は神によって異なるようだが、基本の流れは一緒に思える。
ただ、これを褒美と捉えるべきか、はたまた罰を与えられていると捉えるべきか判断がつかない気持ちになる、だからと言って断る訳には行かない。
複雑な思いのまま、眩いほどに美しい神使達に手を引かれ先に進んだ。
ヌアの神使は銀髪にヘーゼルの瞳の者が多い気がする、彼の好みだろう。その中でもユーリーの瞳は吸い込まれるような美しさだとヌアが絶賛していた。正直、他の神使と比べて個人的には特段彼の瞳が美しいとは思わなかった。単にヌアがユーリーを気に入っているだけだろう。
柔らかな光に包まれた神殿の中を進むと、その先には湯煙と甘く官能的な香りが立ち込める湯殿。
ここで、まずは身を清めさせられる。
神使たちにやさしく服を脱がされ、彼らの指が極僅かに肌に触れるだけで体がピクリと反応してしまう。薄い衣を纏った彼らも衣を脱いだ。
体つきから女性が2人、男性が1人、中性的な者が1人。皆、均整の取れた美しい肉体ときめ細かく滑らかな肌。中には自分の背丈よりも高い者もいる。
四人の神使に手を引かれ、背中を押され導かれるままにゆっくりと湯に入る。
皆、柔らかく温かな声で口々にこちらの体の一つ一つを褒め讃えながら、優しく汲まなく清めてくれる。
女の神使が湯殿のふちに腰かけ「柔らかく、滑らかな、月の雫に染められたようなブロンド。」と言いながら髪を梳いでいる。時折、彼女の張りのある胸が自分の頭に当たるのを感じる。
別の女の神使が「優しくて、温かい、大きな手」と言いながら、腕から爪の先までゆっくりくまなく撫であげ、優しく口づけをしている。
中性的な神使が、大きな両手でこちらの顔を包み込み、その長く美しい指先でこちらの頬や鼻を弄ぶように撫でながら「真珠の様に滑らかで、彫刻の様に凛々しいお顔」と呟き、時々口元や、額に口づけをする。
男の神使が「ああ、大蛇の様なこの脹脛に締め付けられてみたい。」などと言いながら足先から徐々に太ももに向けて彼の大きな手を這わせて来る。その力加減がなんとも微妙で太ももに近づくにつれて、体がなんとも言えない疼きを感じる。
この清めの儀式の辛いところは、こちらから神使を強く掴んだり、抱きついたりしてはならない事である。もちろんそれ以上のことをしようとしたら、相手の機嫌が悪ければ、その場で瞬殺されても文句は言えない。それに、大きな声を出すことも出来るだけ控えた方が良い。
ただ、神使たちにされるがまま、じっと清めが終わるのを無心に待つ。天国にいながら地獄を味わっているようだ。
いつまで続くのかと思うような長い清めが終わると、湯殿から上がり、優しく体を拭かれ、薄い衣を一枚だけ羽織らされて、神殿の奥の部屋へ連れて行かれる。
今回の清めは過去一長かったような気がする。
奥の部屋には、別の五人の神使が待っていた。清めをしてくれた神使たちは奥の部屋には入らずに扉を閉めた。
二人の神使に手を引かれ、またもや彼らに導かれるままに奥の大きな広いベッドにゆっくりと横たわる。
ベッドの脇に三人の神使が控えている。この後は、お互い衣は纏ったまま、神使が一人ずつ彼らの思い思いの体位で覆い被ぶさって来ては、口移しで彼らのオーラをこちらに送り込んでくれる。
軽く開いた口をこちらの唇を覆うように重ねる。その柔らかな唇から、温かい球体の様なもが注ぎ込まれる。喉を丸い温かいものが通過していくのを感じる。そんな行為を何度行っただろう。余りにも大量のオーラを送り込まれ朦朧とする意識の中で「これが最後ですよ。」と言う甘い声が聞こえた。
目を覚ますと目の前に、長い銀髪にヘーゼルの瞳の美しい女の神使の顔が見えた。確か名前はミンジーだったと思う、彼女もヌアのお気に入りの一人だ。彼女が笑みを湛えてこちらを覗きこんでいる。彼女の膝枕で寝ていたようだ。
「お目ざめですか。顔色も肌の調子もすこぶる良いですね、胸元の古傷も跡形もなく消えてますよ。ご気分もよろしいでしょう?」
「はい、とてもいい気分です。」
嘘ではない、頭がはっきりしている。
あれだけオーラを送り込まれれば、いやでも頭がはっきりする。
「今回は、オーラをかなり多めにお渡ししました。必要とする方にも分けてあげてくださいね。」
そう言って、にっこりと微笑んだ。
このオーラは私のためではなく、ユーリーのためだ。私の体でオーラを運べということだろう。
それはそれで別に良いのだけれど、ユーリーに渡すときも口移しなのか……そう考えると、何か熱いものが食道を逆流してくるのを感じた。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
感想を教えていただけると嬉しいです。
毎週水曜、日曜の14:30更新予定です。




