第10話 バレンタインの君(きみ)を探せ①
お立ち寄りいただきありがとうございます。
やっと謎解きパートになりました。謎解き冒険、恋愛、ファンタジーを銘打ってるので、今後もちょこちょこ謎解きを挟んでいきたいと思っています。
結局、翌日もその次の日も銀ちゃんにはあの話は出来ないままだった。
だって、あんな話をしたら頭おかしいと思われちゃう。喉まで出かかってもそう考えると話す勇気が無くなった。
大河から相談に乗ってもらいたいことがあると連絡があり、近所の大型スーパーのフードコートでたこ焼きを食べることになった。
大河も早々に推薦で東京の音大への入学が決まっていて、夏子や私と同じく学校に行く必要はないのだが、大学生活が始まって後れを取らないようにと、音楽講師の元に通って音楽理論や編曲とやらを学んでいるらしく、私のような暇人ではなかった。
「これ見てよ。」
大河がスマホの画面を向けてきた。
そこには黄色い可愛らしいメモと箱入りのチョコレートが映っていた。
「知らない女の子からこれを貰ったんだけどさあ、名前も連絡先もわからなくって、どうしたら良いと思う?」
「え、バレンタインチョコ?良かったじゃない。モテモテじゃん。」
「明は知ってるでしょう。でも、無下にする訳に行かないじゃない。」
大河は、ちょっとふくれて口先を尖らせた。
悪いことを言ってしまった思い写真に写るメモをきちんと読んだ。
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突然のことで驚かせてしまってごめんなさい。
自転車に乗って気持ちよさそうに歌う貴方を見かけるたびに、いつか声を掛けたいと思っていました。
沈んだ気分になってもその歌声を聞くと心が晴れました。このチョコレートはそのお礼です。
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と書かれていて、差出人の名前も連絡先も書かれていなかった。
チョコレートの箱にはアルファベットでゴダイバの金色の文字が見える。
「これ、ゴダイバのチョコじゃない。」
「そうなんだよ。その子も自分と同じくらいの歳に見えたから高校生が送るにしてはお高いチョコなんだよね。鼻歌のお礼にしては気が引けちゃって。」
「本命チョコかもね。」
「そう思う?」
「うん。それにしても、何でこんなに早く渡してきたんだろう?いつ、どこでもらったの?」
まだ、バレンタインデーまで一週間くらいある。
「昨日の朝、駅前でもらった。」
「その子は、駅で待ち伏せしてたんだ?」
「多分ね。毎週月水金に同じ時間の電車で通学してるから、もしかしたら、僕の行動パターンを知ってたのかもしれない。」
「確かにねぇ~……ん?大河週三で学校に行ってるの?」
たこ焼きを口にほうばりながら大河が答えた。
「うん。家、アップライトしかないから、学校のグランドピアノで練習させてもらってるの。その後、先生の所に行ったりしてる。」
マジか。自分の自堕落な生活がちょっと恥ずかしくなった。
「それで、大河はどうしたいの?」
「お返しを渡したい。それに、ちゃんと話もしたい。」
「そうか、そうだよね。でも、どうして連絡先書いてないのかな? 普通だったらお友達からお願いしますってなるよね。どんな子だったの?」
「年は多分僕たちと同じくらいで、制服は着てなかった。細くて背が高くて、黒髪を一つに束ねてた。化粧はしてなかったけど、可愛い感じだったよ。」
うん、真面目そうだってことは分かったけど、それだけじゃ探せないなあ。
「明って、細かいことに気づくし、そこから推理するのが得意だから、もしかしたら何か分からないかなって思って。」
「え?何それ?私そんなことしたことないよ。」
「あるよー。失くし物とか見つけるの得意じゃん。ちょっと聞いた話の内容からどこに置いて来たかを推理してたじゃない。しかもそれが当たるの。」
言われてみると、ちょっとしたことが気になって、その事を深く掘り下げていくうちに失くし物が見つかったりなんてことがあったなあ。
「うーん、その子と駅で会うのは初めて?」
「うん、初めて。」
「それじゃあ、大河は、通学中に誰かに見られてるって思うことなかったの?」
「うーん、それがないんだよね。歌うのに夢中だったのかも。」
「歌に夢中ね。他にもさあ、高いところから見られてたら気づかないかもしれないよね。」
「高い所かぁ、確かに視線に気づきにくいかもね。でも、二階建ての家とかアパートなんてざらにあるからなあ。」
「二階くらいだったら、そんなにちょくちょく見られてたら流石に気づくよね。あと、最近は何時頃通学してるの?」
「十時半の電車に乗ってる。家は十時十分に出てる。」
「遅いね。そんな時間に家にいる高校生って、うちらみたいなのか、定時制、通信制、通ってない……」
「通ってないって、どういうこと?」
大河の通学路にある三階建て以上の高い建物に住んでいて、学校に通えない状況、どんな状況だろう?駅から大河の家までの経路と風景を頭の中で遡った。
そこで閃いた!
「あ、柏木病院の前を通るよね?」
「うん、通るね。あ、もしかして入院してるってこと?だから学校に通えないのか。それに柏木病院だったら六階建てだ。」
「病院に入院している子かもね。」
大河が、病院の三階以上にまで聞こえるような大声で歌いながら通学している姿を想像し、思わず吹き出してしまいそうになるのを堪えた。
「でさあ、柏木病院の入院患者だとして、どうやって探せばいい?」
「明日、私が病院の前で見張ってるから、大河はいつも通りに歌いながら通学してみてよ。窓辺から覗いている女の子がいたら、きっとその子だと思うんだよ。」
「うーん、でも、いつもは自覚がないまま歌ってたけど、わざわざ歌うってなると、やっぱり、恥ずかしいよ。」
「何言ってるのよ、その子を見つけたいんでしょう。頑張りなさいよ。」
「わかったよ。」
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