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第1話 白い男

今日から新作です。よろしくお願いします。


 私が住んでいるのは、郊外というよりは田舎寄り。

 コンビニやスーパーはそれなりにあって住むのには不自由しない。ス〇バもタリー〇も電車で数駅先にいかないとない。数駅といっても歩けば数時間かかる距離だし、普通歩いてはいかない。ケーキ屋さんと言えば、古くからある町のケーキ屋さんかシャト〇ーゼ。

 そんな、中途半端な田舎の説明はさて置き。


 私は、馬場ばばあかり。時々、「あきら」と読む人がいて、男と勘違いされることがある。

 現在十七歳。あともう少しで十八歳だ。


 推薦入試で大学が決まっているので、この年始はのんびりと過ごしている。学校も家から通えるので、引っ越しの準備もいらない。


 毎日犬の散歩と、読書、そしてYouTubeを観てのんびりと過ごしている。


 親からはバイトでも探しなさいと言われているので、そろそろ探そうかと思うが、今の所、そこまでお金が欲しい訳でもなく、ついつい先延ばしにしてしまっている。




 今朝も犬の散歩である。


 毎日微妙に違ったコースで散歩する。ネットで読んだことだけど、散歩コースを犬に選択させてはいけない、飼い主が主導権を持つべきらしいのだが、うちは結構犬まかせだ。


 それでも、大体、毎日、同じ小さな神社の前を通る。

 八幡宮。日本で一番多い名前じゃないかなと思う神社。

 手水舎てみずやの水は止まっている。それなりに手入れはされていて、多分シルバークラブの人が定期的に花を植え替えたりしているらしいが、所々に壊れた箇所があって、そこはそのままになっている。

 お正月の間はお参りする人もちらほら見られたが、一月末の朝には人影はない。


 そんな神社の前をいつも通り素通りしようとした時、ふと、賽銭箱の横に白い人影が見えた気がした。

 きっと、花の植え替えをしているシルバークラブの人が一休みしているのだろうとそのまま通り過ぎようとしたが、突然、モモ太が鳥居の前で止まって、くるくる回り出した。

 ああ、大きい方だ。


 モモ太は、三歳になるボーダーコリーだ。


 仕方がない、自然が呼んでいるのだから、彼だって逆らうことは出来ない。

 しゃがみ込んで、踏ん張るモモ太を静かに眺めた。真剣な表情が面白い。


 境内から視線を感じる。

 だが、こんな場面で知らない人と目を合わせるのも気恥しい。だが、無視するのも良くないので、ワンコの大を処理し終わったタイミングで、そちらを向いて会釈をしようとした。


 その白い人影が、微笑みながらこちらを見ている。

 目が合ってギクリとなった。

 シルバークラブではない、銀髪の若い男性だ。全身白いジャージを着ている。


 ギクリとなったのは自分だけではないようだ、何故かその男性もギクリとした表情をしている。


 きっと、やばい奴だ。私の直感がそう言っている。


 この時間にジャージを着て境内にしゃがみ込んでいる。朝のランニングの途中と言う感じでもない。

 だとすれば、ヤンキーの朝帰り途中だ。

 田舎であんなに髪の色を抜いて、全身白のジャージを着るなんて、ヤンキーしかいない。


 何事もなかったかのように、通り過ぎるのが最善策だ。


 だが、モモ太が動かない。二十キロのモモ太が梃子てこでも動かない。

 その場に伏せて、地面にしっかり四つ足を踏ん張り、動かない。


「モモ太、行くよ。ほら、立って。」


 そう言って、綱を強く引くと、より一層、モモ太が引っ張り返してくる。

 ああ、悪循環だ。


 そんなこんなをしていると、全身白い若い男が立ち上がった。

 こちらに向かって参道を歩いて来る。参道は短い。直ぐに鳥居の手前までやって来た。


「おはよう。」


 白い男が声を掛けてきた。

 無視は良くない。私は慌てて返事をした。


「お、お、おはようございます。」


 でも、目を合わせる勇気はない。


「へえー、意外だな。」


 男がそう言った。

 何が意外なのか分からないので、返事をしなかった。


「その犬の名前は?」


 男が尋ねてきた。


「え? モモ太です。桃太郎のモモ太。ももクロでも、バトミントンの選手からでもありません。桃太郎です。」


 ああ、私は何を言っているんだろう。名前だけ言えばいいのに。


「ふ~ん、モモ太か。良い名前だね。」


 男は、鳥居の手前でしゃがみ込んで、モモ太の方に手を差し出した。


 モモ太の位置から、白ヤン(全身が白いヤンキーの略)までは距離がある。

 犬が苦手なのだろうか? 

 本当に触りたいのならば、もっと近づいて手を出せばいいのに。


「ああ、ありがとうございます。お兄さんは、犬好きなんですか?」


 そう聞かれて、白ヤンはこっちを見た。

 あれ、この人、まつ毛も白い。ヤンキーじゃなくて五条悟のコスプレか?(服装は全く違うけど。)


「うん、好き。」


 そう言いながらも、自らは近づいてこない。


「犬が好きならば、こっちに来ればいいじゃないですか。この子は噛んだりしませんよ。」


 そう言って後悔した。何故わざわざこんなことを言う必要があったのだろうか? 本当に来られても困る。


「まあ、そっちに行きたいんだけどね。いろいろ事情があって。」


 事情? 監視でもされているのか? 鳥居のこっちに出ると何かペナルティーでも課されるのか? 


「はあ、そうなんですか。」


 モモ太は何故か、五条のコスプレ男の方にぐいぐい向かっていく。

 仕方なく自分もそちらについて行かざる得ない。鳥居を超えて境内に入る。


 五条のコスプレ男は、モフモフのモモ太に飛びつかれて尻餅をつく。

 嬉しそうにモモ太に顔をなめられている。


「モモ太、ダメだよ。そんなにしつこくしちゃ。ごめんなさい。」


 そう言っても、モモ太は止めない。


「大丈夫、こんなに好かれるなんて嬉しいよ。」


 それならば、それで。


 私は、コスプレ男とモモ太を暫く眺めた。





宜しければ、お話の感想を聞かせてください。


毎週水、日の14:30に更新予定です。

宜しくお願いします。

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