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第5話 訓練開始と法術について

 本日、冒険者ギルドでの訓練開始日である。

 『そよ風亭』と1ヶ月分の宿泊契約を結び、代金はその日に支払う方法にしてもらった。


 融通も利き、部屋自体も悪くないのに、なぜか部屋は埋まっていないらしい。詳しい事情は知らないが、何か訳がありそうな感じだった。


 あまり深く踏み込むのは違うので、心に内にしまっておくことにする。


 というわけで、気を取り直して冒険者ギルドにやってきた。

 時刻は午前9時、ちょうどクエストを受けに来る冒険者でごった返している時間帯だ。


 俺は数日前と同じく端のカウンターへ行き、要件を伝えるとすぐに案内された。

 案内されたのはギルド地下の訓練場で、冒険者育成用の地下2階、既冒険者用の地下1階で構成されている。


 地下2階の1番訓練場へ入ると、先客がいた。受付の人に「後はエバンさんとジルさんに従ってくださいね」と言われ、別れた。


「久しぶり、ユグ」

「流石に服は着てるんだな」

「ああ、久しぶり。……着てないと牢屋に入れると言われたからな」


 軽く挨拶を済ませ、話を聞くと、【剣術】と【魔法】に関しては面倒を見てくれるらしい。【基礎身体能力】に関しては時間の都合がつかないということで、ギルド職員担当になった。


「それにしても、よく引き受けてくれたな。そんなに暇じゃないだろうに」


 そう、後々聞いた話だとエバンとジルはB級のパーティーらしく、知名度は中々にあるというのだ。何でも二人でB級にまで上り詰めたのは、相応の快挙だそうだ。


 俺の疑問に答えたのはジルだった。


「いやー実はさ、非正規の指導員やるとギルドからのウケが良くてな。まあ一番は相応の報酬が払われるってところなんだけど」

「ユグには感じ悪く聞こえるかもしれないけど、決して嫌々受けたわけじゃないから」

「別にそんなことはないが……ちなみにどれくらいなんだ?」

「…………1講習で50000コル、かな」


 エバンが若干気恥ずかしく答える。


「50000……すごいな、クエストを受けるより割が良いってことか」

「ま、クエストによるけどそうなるね。けど、指導した人が冒険者になれなかったら罰金があるからメリットだけじゃないけどね」

「……精一杯頑張らないとな」

「そんな気を張らなくてもいいけど」


 雑談を楽しんだ後、早速エバンとジルが講習を始めようとするが……そこに俺が待ったをかける。

 始まる前に聞いておきたいことがある。それはもちろん――


「すまない。始める前に――【()()】について教えてくれないか?」

「法術を?」

「ああ。何だか気になってな」

「うーん、まあいいけど。と言っても、僕らも()()()()()()使えるわけじゃないけど……それでもいいなら」

「……? 分からんが、とにかく頼む」


 本当の意味でという引っかかる言葉が出てきたが、とりあえず説明をしてくれるよう俺は促した。


 エバン曰く、法術というのは〝神聖術〟が一般用になったもので、その力の根源は――人々の信仰心と言われている。


 教会に属する人間であれば基本的に誰でも行使でき、信仰心の強さによって法術の規模や強さなどが大きく変化する。もちろん教会に属していなくても、一定以上の信仰心があれば使える。


 〝法珠〟と呼ばれる術式の刻まれた特殊な宝石が媒体となり、術が発動される。


 できることとして、『魔を探知する結界の構築』『各種結界等の構築』『聖の力を他へ付与する』『()()()()()』が行える。


 前提条件として、信仰心があることが必要なので、ハードルが高い。そのため、マルクスはちと難いと言っていたのだろう。


「……『魔法の消滅』って凄すぎないか?」


 俺はさも当たり前のことを聞いた。結界関連も凄いとは思うが、一つだけ得られるメリットが頭一つ抜けている。


「そうなんだよ!! ユグもそう思うだろ? だがよ、追い打ちをかけるようにどこぞの誰かがとんでもねえもんを作っちまったんだよ」


 魔法を使うジルが声を荒げて言う。


「とんでもないもの?」

「ああ……〝法符〟だよ。信仰心のない者でも使えるようにってな。法符に魔力を込めると、刻まれた術式が発動するっていう」

「……それ作った人、魔法に恨みでもあるんじゃないのか?」


 俺の真っ当な言葉にジル、そしてエバンまでも大きく頷いている。

 法術というものがどういう存在か理解はできたが、魔法に対してのメタ感が強すぎる。


 俺が黙っていると、ジルガ補足するように言う。


「でもまあ、唯一助かってんのは、その法符の値段が高いってのと、消耗する魔力量もばかにならないってとこだな」


 俺がさらにジルに話を聞くと、どうやらその法符とやら、一番安いもので10万コルするらしい。ベテランの冒険者でも躊躇する価格だ。加えて魔力も持ってかれるとなれば、そう易々と使える代物じゃない。


 そのあたりはしっかりと対等な分、いくらかましだと思った。


 法術についての話が終わると、いよいよ講習に入っていく。


「それじゃ、始めようか」

「よろしく頼む」


 エバンはどこからともなく木剣を取り出し、差し出してくる。


「剣術といっても、一朝一夕でマスターできるものじゃない。まずは基本の素振りからやろう」


 俺は木剣を受けとると、構える。エバンの合図をきっかけに――ブォンと空を切りながら木剣を振る。


 軸足を一歩前に踏み出しながら、姿勢よく振る。


「そうそう、もっと肩の力は抜いていい。両手で強く握るんじゃなく、左手は軽く添えるくらいでいい。一振り一振りに意味を持たせて――、何となくの100回と本気の10回なら、断然後者だ」

「――承知」


 ブォン、ブォンッと一定間隔を空けて何度も木剣を振り下ろす。


 慣れてないせいか、だんだんと腕が攣るような感覚になってきた。


「――はい、それまで。どう? 結構キツイでしょ?」

「ああ……」

「ま、その木剣普通の剣よりも大分重いからね」

「……そうなのか?」

「うん。普通の木剣だとちょっと軽すぎる。ユグの体躯なら大丈夫だと思う」


 確かに、俺の体格は少し大きい方だ。身長は180前半くらいか……。

 俺が腕をぶらぶらさせていると、エバンが木剣を片手で鋭く振り抜いた。


 思わず、その一挙手一投足に見惚れてしまった。


「とりあえず最初の2週間は素振りだけね。同時に身体も鍛えて、慣れさせる。その後様子を見ながら少しづつ実践向きの訓練って感じかな?」

「……水準を超えるまでだと、どれくらいかかりそうだ?」

「……ユグは真面目だし、変な癖ついてないからそこまでかからないと思うけど……1ヶ月半から2ヶ月はかかるかな」

「2ヶ月か……」


 完全な新人ということを考えると、早い方なのかもしれない。焦って正規の冒険者になっても、クエストで重傷を負うか、運悪く……なんてこともあり得る。


 幸いにも置かれている状況は悪くないし、魔法の方もある。それに……法術にも少し触れてみたい。


 時間をかけてゆっくりやっていくのがいいだろう。


 剣術の講習を終えた俺は、ジル担当の魔法講習へ入っていった。


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