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第3話 冒険者を目指して

 俺がこの世界にやってきてからの二日目。

 

 今日はマルクス案内の下、職業登録や冒険者について説明をしてくれるそうだ。その後、冒険者ギルドで仮登録を済ませる予定らしい。


 本当に何から何まで大助かりだ。いきなり牢屋行きにならなかっただけでも御の字なのに。

 せっかくだ、その好意に甘えるとしよう。


 朝の9時過ぎになって、詰め所にマルクスがやってきた。手には何やら茶袋を抱えており、鼻を刺激する匂いも感じる。


「よう、ユグ。よく眠れたか? って眠れるわけねえか」

「おはよう。いや、意外と眠れたぞ。おかげで体調は万全だ」

「おいおい、少しは不安とか感じるもんだろうが……恐怖心が行方不明だぞ」

「少しばかり他人よりも好奇心が強いだけだ。さすがに牢屋に入れられていたらこうはなってない」

「……まあ、それもそうか。っと忘れてた。朝飯を買ってきた、俺の奢りだ」

「いいのか……? 腹は減ってるから遠慮はできないかもしれん」

「別に構いやしねえさ。高いもんじゃあるめえし、それに冒険者になった時奢ってもらうさ」


 なんていい人なんだ。エバンといい、ジルといい、俺はつくづく運がいいな。

 そのいい匂いの源は朝食だったのか。この世界に来て初めての食事、どんなものなのか楽しみだな。


「了解した」

「おう、ほれ食ったら説明をするぞ」


 マルクスは茶袋からさらに小袋に入れられた団子状のものを渡してきた。


 手に取ると、中々に熱い。

 マルクスが一足先にかぶりついたのを真似て、俺もかぶりつく。


 すると、噛んだ瞬間肉汁があふれ出してくる。

 

「……おおっ」


 思わず声を出してしまった。

 これは何だ……? 外側の生地は少し硬めのパンで、中に細かくちぎられた肉と野菜がこれでもかと詰め込まれている。


「どうだ? うまいだろ」

「……ああ、うますぎる」


 俺はマナーなど気にせずがっつく。

 人はこんなにも美味いものを食べていたのか。これはますますあの死せり魂に感謝せねば。


 1分ほどで食べ終わってしまった。

 すでにマルクスも食べ終わっていたので、テーブルに着席すると説明が始まった。


「まず、ユグがこの先自由に生活するためには、職業登録がされた身分証が必要になる」

「ああ。エバンとジルから聞いてる」

「そうか。職業登録だがお前さんの場合、冒険者にならんと登録がされん。身分証は冒険者のライセンス証がその変わりとなる。まあつまりだ、お前さんは何としても冒険者にならんといかん」

「……そのようだな」


 どうやらこの国では、18歳以上65歳未満は全員職業登録をしておかなかればならないようだ。

 登録外の者は半強制的に国指定の場所で働くことが求められる。


 なお、結婚などで働く必要のなくなった者は申請をすれば問題ないらしい。

 俺はこれを聞いて、素直にシビアだなと思ったが、国の背景を考えれば納得はできる。


 現在の世界情勢として、俺のいる国――アルメリア王国とロゾストフ帝国、クラーク共和国の強国3つが睨み合いをしている。他にも小国はいくつかある。


 ロゾストフ帝国は大陸制覇を目指す軍事国家で、アルメリア王国とクラーク共和国は自国防衛に徹している。


 そのため、国民は自分が戦わない代わりに、年に一回軍事税を納めている。その時に必要になるのが職業登録の有無だ。


 ちなみに冒険者は自らの意志で戦うこともできれば、不参加でも特に問題はない。

 ただ、国が報酬を支払うため、高額報酬目当てで参加する冒険者も結構いるという。


「――とりあえず、ここまでは大丈夫か?」

「ああ。問題ない」

「じゃあ次は正規の冒険者になるためのステップを説明する」

「昨日から気になっていたんだが、冒険者に非正規正規なんてあるのか?」

「そうだな……じゃあ聞くが、必要最低限の水準にも満たない者を正規として登録させてもギルドからしたらいい迷惑だと思わないか? だから、選別すんのさ。冒険者志望の者を一旦まとめて非正規として、水準以下の者は弾き、以上の者を正規として登録させる。いたずらに数が増えてもギルドが管理しきれなくなる」


 そう聞くと、理にかなっている気はするな。数は多いに越したことはないだろうが、いたずらに死なれても困ると。


 まあ、ギルドという組織で管理をするのも人間だからな。限界はある。


「その水準っていうのは、高い方なのか?」

「いや……全然高くはないな。あくまでも最低限だ。剣も振れない、魔法も満足に扱えないやつを落とすものだ。ある程度身体が出来ていて戦闘の心得があれば基本落とされることはない」


 マルクスはそう言うが、俺は剣を振ったこともなければ、魔法というものも使ったことがない。

 自慢ではないが、そんなやつが本当になれるのだろうか?


 そんな俺の胸中を察したのか、マルクスは言う。


「安心しろ。ちゃんとした指導を受けりゃ大抵のやつは通る。いいか? まず非正規として登録したら【基礎身体能力】という必須項目と【剣術】【魔法】【法術】から最低一つ項目を選ぶ。その二つの項目で一定水準以上あると認められれば、晴れて正規の冒険者だ」

「……つまり、魔法がからっきしでも剣術か法術でいけるというわけか」

「そういうことだな。……だがな、()()はちと難い。初心者向けじゃないからな、冒険者としてある程度経験を積んでからの方がいい」


 ふむ……法術は難しいのか。確かに名前だけ言われても何のことかさっぱり分からん。マルクスからのありがたい忠告として胸にしまっておこう。


 余裕がありそうなら詳細を聞いて、判断すればいい。


 とにもかくにも、剣術か魔法だな。


「そう言うなら今は大人しく従っておくよ。それと一般的だと、剣術か魔法、どっちがおすすめとかあるのか?」

「……そう、だな。そればかりは実際に取り組んでみないと分からんな。まあとりあえずだ、大まかな説明は終わったんだ。あとはギルドに聞いてみた方がいい。そろそろ受付カウンターも始まる頃だろう」

「分かった」


 二人して立ち上がると、詰め所を出て冒険者ギルドに向かうことになった。

 肝心の騎士団の監視は大丈夫なのか? と思ったが、マルクス曰く「騎士団にも監視や諜報に優れた部隊がある。どこかで監視はされてるはずだが、あんまり気にするな」と言われた。


 俺はてっきり見える範囲での監視だと思っていたので、少し拍子抜けした。


 古都アルビオンの街中を歩いていると、急に後ろに振り向いたマルクスが問いかけてきた。


「にしてもユグ、正規の冒険者になるまでの生活費や宿代はどうするつもりだ? 無一文でやり抜くつもりじゃないだろうな?」

「……それなんだ、問題は。ここの相場感だったり、短期の働き口に関しても知識皆無だからな。どこか斡旋してくれる場所はあったりしないか?」


 俺がそう聞くと、マルクスは待ってましたと言わんばかりにしたり顔になり話し始める。


「そうだと思ってな。ユグさえ良けりゃ、騎士団関連の仕事を斡旋できるんだがどうする?」


 これは……うまいこと誘導されたか? 別に嫌な気はしないが、何だかマルクス――いや、ヨハネス卿か――に乗せられている感じだな。


 騎士団斡旋の仕事の方が()()()()()()()、そんなところか。

 俺は合間を空けず、返答の言葉を述べる。


「そう言ってくれるのはありがたいが、内容にもよるな。決める権利はあるだろう?」

「当然だ。ま、実を言うと今騎士団では人手が足りてない。騎士の仕事は任せられねえが、それ以外なら騎士じゃなくてもできる」

「要するに、雑用というわけか」

「ははっ、そうだな。ただ、給金は弾むぞ。まあ考えといてくれ」

「……了解した」


 そうこう会話をしていると、冒険者ギルド・古都アルビオン支部が見えてきたようだ。

 建物自体は非常に大きく、対称性はない。やはり古都というだけあって都市の雰囲気を壊さないためか焦げ茶や黒で統一されている。


 都市の規模に合わせて冒険者ギルドの規模も大きいみたいだな。


「おい、ユグ。行くぞ」


 景観に釘付けになっていた俺をマルクスが呼ぶ。彼の後ろへ付いてギルド内部へ入っていく。

 中へ入ると、人でごった返していた。鎧同士がガチャガチャと触れる音や、足音、話し声や怒鳴り声など多種多様だ。


 俺が用のある受付カウンターは右側の一番端にあり、あまり混んではいないのでストレスを感じることはない。

 その際、長耳や獣耳の冒険者とすれ違い、この世界には人だけではない別の種続がいることも分かった。


「おーい、こっちだ。早速非正規登録を済ませてしまおう」

「ああ」


「受付の姉ちゃん、非正規登録を一名頼みたいんだが」

「あら、騎士団の方……がですか?」

「違う違う、俺は付き添い。登録すんのはコイツだ」

「すまない。俺だ、冒険者志望のユグだ」

「あ、はい。名前はあとで聞きますから、とりあえずこちらの用紙にご記入をお願いします」


 軽くあしらわれた俺は流石だな、と思った。

 受付の女から手渡された一枚の用紙にさっと目を通した俺は、筆立てから筆を取る。


 ……ん? ちょっと待て、俺って文字が書けるのか?


 当然湧いた疑問だが、どうやら杞憂だったようで、なぜかするすると文字が書けてしまった。


 これは……転生の穴を通った時に、俺の肉体に刻まれたもの、なのか? 言語も何不自由なく話せている。


 ――うん。そうだな、きっとそのせいだ。


「これでいいか?」

「はい、…………っと大丈夫ですね。希望項目のところで、【剣術】【魔法】にチェックを入れられてますが、お間違いありませんか?」

「ああ、二つで頼む」

「かしこまりました。それでは、こちらで受理いたします」


 こうして、正規の冒険者を目指すための長い鍛錬の日々がスタートするのだった。

 

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