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新天地は悪魔王陛下のお膝元で4

「……おい」


「え、あ!はい!」


しまった、陛下を前にして、ぼんやり外を眺めてしまっていた。


不敬だったかしらとすぐに振り返り、しゃきんと居住まいを正す。


すると、眉間に皺を寄せた陛下と目が合った。


前世のお父さんよりはまだマシだけれど、そんなに鋭い目つきで睨まれたらなにを言われるのかと冷や汗ものだ。


「おまえ、腹は減っていないのか?」


「は、はら? ええと、お腹は、そう、ですね……」


ぐぅ。


予想外すぎる言葉に面食らっていると、正直なお腹が返事をした。


反射的にお腹を押さえて真っ赤になった顔を上げると、陛下は目を見開いて固まっていた。


その、一拍のち。


「くっ、ははははは!そうだよな、腹、減ってるよな!」


ガイさんが大爆笑した。


それにつられたのだろう、眼鏡の男性も口元に手を置きながらぷるぷる震え始めた。


は、恥ずかしい……!!


子どもなのだから別に良いじゃないかという思わなくもないが、中身はれっきとした成人女性、羞恥心というものがある。


熱の集まった頬に手を当て俯いていると、陛下が立ち上がった気配がした。


「カレン、食事の用意を」


「かしこまりました、陛下」


そうしてそのまま涙目の私の前まで来ると、その長身でじっと私を見下ろした。


な、なんだろう。


あ、でもお腹空いてないのかって、気を遣ってくれたのかも。


……私のお腹が鳴ってしまったのは彼のせいじゃないもんね。


「あの……ありがとうございます」


カレンさんに食事を用意をするよう言ってくれたことに、ぺこりと頭を下げてお礼をする。


すると、周りでざわっと空気が小さくさざめいた気配がした。


それを不思議に思いながら頭を上げると、ルビーのような紅い目と視線がぶつかった。


「……こっちだ、ついて来い」


そう言うと国王は執務室の扉を開けてスタスタと歩いて行く。


「あ、はいっ!」


それに慌ててぱたぱたとついて行く。


ご飯、食べるところに連れて行ってくれるってことだよね?


「んじゃ俺も」


「私も行きましょう」


背後からそんな会話が聞こえてきて、ガイさんと眼鏡の男性がうしろからついてきた。


……すぐ追いつかれて並んで歩くことになったけれど。


男性陣とは歩幅が違うので、歩くというよりは小走りでしばらく廊下を進むと、陛下はある部屋の前で止まって扉を開いた。


「入れ。そのうちカレンが食事を運んで来るだろうから、座っていろ。ついでに俺達も遅めの昼食をとることにする」


な、なんと……!?


国王なのに、こんなちんちくりんと一緒のテーブルで食事なんてとって良いのだろうか。


しかしどかりと座った陛下に続き、ガイさんも特に気にした様子はなく、部屋の中に入ってテーブルについた。


眼鏡の男性もため息をついて眉を顰めたものの、黙って席につく。


……ま、まぁ良いのかしら?


とりあえずお腹が減っているのは確かだ、ここはお言葉に甘えて昼食をいただこう。


村ではろくなものを食べてこなかったから、実はちょっぴりわくわくしている。


王城で、陛下と一緒の食事なんだもの、きっと豪華よね。


定食屋の味も恋しいが、前世でもほとんど食べたことのない豪華な料理、嬉しいに決まっている!


弾む心を隠しきれず座ってからもそわそわする私を、じっと陛下が見ているのに気付いた。


「!? お、落ち着きがなくて申し訳ありません!」


「……いや、別にそんなことはない」


鼻で笑われたような気がして、縮こまる。


私、さっきから色々とやらかしすぎじゃない?


子ども姿とはいえ、中身は成人なのに情けない……。


あれかしら?


転生して、中身まで幼児化しちゃったとか!?


だって前世ではもっとちゃんと大人の言動ができていたと思うし、しっかりしたお姉ちゃんねって言われることも多かった。


こんなに子どもっぽくはなかったはずだ。


ひとりでうんうん悩んでいると、カレンさんがワゴンを運んでやって来た。


! ご飯だ!!


なにはともあれ、今はこの空腹を満たすのが最優先事項。


腹が減っては戦はできぬ。


空腹では冷静に考えることもできないものね。


ずっとここでお世話になるわけでもないのだから、とりあえずお腹いっぱい食べて今後のことをちゃんと考えなくては。


そう自分で自分に言い訳をする。


そしてぱっとワゴンに乗せられているものへと視線を向ける。


あら? なんだろう、思ったより……。


カゴに入ったたくさんのパンは分かる。


でも、その他は……。


「お待たせいたしました、ヴィオラ様」


柔らかく微笑みながら、カレンさんが私の前にスープの入ったお皿を置いた。


野菜がゴロゴロ入っている、湯気の上がった温かそうな、けれどなぜか違和感を感じるスープ。


次に置かれたのは、端にちょっとだけ葉物野菜が添えられた、どーん!とお肉が乗ったお皿。


そしてパンの入ったカゴと取り皿。


以上。


……いや、文句を言える立場じゃないのだから、こんなことを思ってはいけないと分かっている。


でもでも、想像してたご馳走とちょっと違った。


もっとこう……なんちゃらソースがけステーキとか、十種の香味野菜のなんちゃらとか、フレンチのフルコースみたいな料理を想像していた。


でもそうよね、子ども相手だし、しかも見るからに低下層の平民なのだ、あまり豪華で手の込んだ料理は口に合わないだろうとの配慮なのかもしれない。


そう思いたい、だけどひとつだけ気がかりなことがある。


それは、私以外の三人も同じメニューの皿が置かれているということだ。


私に合わせてくれた? そんなバカな。


しかも陛下の皿に至っては、肉料理の皿には肉しか乗っていない。


全くと言っても良い、申し訳程度も野菜が乗っていない。


肉にソースがかかっているわけでもない。


ただ、肉の塊だけ。


ど、どゆこと……?


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― 新着の感想 ―
材料揃っていてそうはならんやろ…と思いました。
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