悪魔王陛下の特別な一日
たくさんの方にお読み頂き、感謝です。
番外編となります〜(*^^*)
シルヴェスター視点って今までなかったかも?とのことで書いてみました!
「……一体なぜだ?」
「きょ、今日だけは絶対に無理なんですーっ‼」
ある日の午前中、俺はヴィオラにあることを提案した。
彼女のことだ、快く受け入れてくれるだろうと、軽い気持ちで。
だが、返って来た言葉は「無理」。
予想外の返事に、俺の思考は一時停止してしまった。
「へえ、それで気分転換に魔物討伐の手伝いに来たってわけか。皆が恐れる悪魔王陛下もカタナシってやつだな」
「……うるさいぞ、ガイ」
無表情が常な俺の心の機微に気付く数少ない人物、ガイにぽろりと事情を話せば、わはははは!と笑い飛ばされてしまった。
どうかしたのかと気遣われ、ついぽろりと零してしまったことを後悔し、眉間に皺を寄せる。
今日は珍しく午後から仕事が入っていなかった。
そしてたまたまヴィオラも午後は休日をもらっていたらしく、フィルと三人で昼食をとっていた時にその話になった。
何か予定でもあるのかと尋ねれば、『あ、えーっと、特には……』という答えが返ってきた。
俺も同じく、休日だからといって特にすることがあるわけでもなかったので、それならばと思い付いたことを口にしてみたのだ。
『ヘスティアとヴァルたちと一緒に、ピクニックにでも行くか?』と。
……我ながら“ピクニック”という単語が似合わないとは思ったが、ヴァルをかわいがっているヴィオラなら、喜びそうだと思ったから。
幼いながらにいつもくるくると忙しく働いているのだ、料理長に簡単な菓子でも用意してもらって、少し遠くの草原にでも行けばのんびりできて良いのではと、軽い気持ちで。
しかし、無理!とバッサリと断られてしまった。
そうして完全にフリーとなった俺は、暇つぶしに騎士団の定期的な魔物討伐に同行し、今はガイとふたりで休憩をとっているという状況だ。
「はー、おかしいぜ全く……。んで?陛下はショックだったわけですか」
ヴィオラとのやりとりを思い出して俯いていると、ガイがそんなことを聞いてきた。
ショック?そんな馬鹿な。
ただ単に、喜んでもらえるだろうと思っていたのに断られて、驚いただけだろう。
いやしかし、この胸のモヤモヤはショックだったからなのかもしれない。
ヴィオラなら、ぱあっと花のように笑って、「行きたいです!」と言ってくれるはずだと思っていたのに、そんな顔が見られなかったから。
ちょっと待て、そもそも特に用事がないと言っていたのに今日は無理だと断ったということは、隠れて誰かと約束しているとか?
……相手は誰だ?まさか男か?変な奴に騙されているんじゃないだろうな。
「……娘が反抗期に入って悩む父親みたいな顔してんな。いや、恋人ができてショックを受けた顔か?」
脳内で悪いイメージが次々湧き上がる俺を見て、ガイが苦笑いを零す。
ぎろりと睨んでみるが、ガイには全く動じていない。
「ま、そう落ち込むなって。ヴィオラのことだ、なにか事情があるんだろうさ。そんな心配することもないだろうからよ、信じてやれって」
どこか確信めいたガイの台詞に、眉を顰める。
「――なにか知っているのか?」
「いや?まぁ理由はすぐ分かるだろうからよ、安心しろって」
絶対になにか知っているだろうと呻くと、ガイはただただ笑うだけで、結局なにも教えてはくれなかった。
「……なんだこれは」
「陛下、おかえりなさい!あと、おめでとうございます!」
討伐を終え帰城したものの、もやもやした気持ちが収まらなかった俺は、仕事でもするかと執務室の扉を開けた。
すると中にはフィルとガイにカレン、ヘスティアとヴァル、それにヴィオラの姿があった。
そして、応接机の上にはたくさんの料理が。
「陛下、今日お誕生日なんですよね?せっかくだから、好きなものをたくさん作ってお祝いしたくて……」
照れたようにそう話すヴィオラとうしろでニヤニヤしているガイを見比べる。
そういえば、誕生日……完全に忘れていた。
たしかに机の上には俺の好きなものが所狭しと並んでいる。
そして俺が座る場所の目の前には、特大のハンバーグが置かれてあった。
「お誕生日用の特製ハンバーグです!せっかくなので、特別感を出したいなぁと思ったら、こんなに大きくなっちゃいました!」
えへへと苦笑いしながらぽりぽりと頬を掻くヴィオラに、自然と頬が緩む。
「……その。お昼は、せっかくのお誘いをお断りして、すみませんでした。どうしても内緒で料理を作りたくて準備していたので、咄嗟に上手く誤魔化せなくて、あんな言い方になっちゃって……」
ヴィオラは今度はしょぼんと落ち込んだように俯いた。
「――いや、構わない。気にしていないから、おまえも気にするな」
そう答えれば、ぱあっと顔を上げて明るく笑った。
本当にころころと表情が変わる。
「ぷっ、めちゃくちゃ気にしてたくせに、カッコつけちゃっ……「ガイ、うるさいぞ」
小声で笑うガイの口をさっと塞ぐ。
「私もヴィオラ殿に聞いていたのに上手くフォローできなくて、申し訳なかったです」
こっそりとフィルがそう教えてくれたのに、ふっと笑う。
「気にしなくていい。それより、冷める前に頂こう」
俺がそう言うとヴィオラとカレンはカトラリーと飲み物を配ってくれた。
ヘスティアやヴァルの分も取り分けてくれ、ヴィオラは席につくと、せーのっ!と皆に合図を出した。
「「「「陛下、お誕生日おめでとうございまーす!」」」」
そして乾杯をする。
こんな誕生日は初めてだと、思わず笑みが零れた。
美味い料理に祝ってくれる仲間達。
笑顔に溢れたその時間が、くすぐったくも心地良くて。
「ヴィオラ、こんなにたくさんの料理、大変だっただろう?ありがとう」
「いえ、全然!喜んでもらえて嬉しいです!あと、それと……」
もごもごと言い淀むヴィオラに首を傾げると、意を決したようにヴィオラが口を開いた。
「その、今度もし時間が合えば、ピクニック、行きたいです!今日誘ってもらえた時、行きたいー!ってすっごく葛藤しちゃって……。その、もし陛下がお嫌でなければなんですけど……」
最初の勢いが少しずつ弱まり尻すぼみするヴィオラに、一瞬ぽかんとしたものの、すぐにくくっと笑みに変わった。
「ああ、楽しみにしている」
「!絶対ですよ?約束ですからね?」
普段大人びた言動の多いヴィオラの無邪気な姿に、自分はこういう反応を期待していたんだなと、胸の温かさを実感しながら指切りを交わしたのだった。
たぶんハンバーグは相馬家のお誕生日メニューだったんじゃないかなと。そんなことを思い付いて書いてみました。
そしてお知らせです。
今作、書籍化されることが決まりましたー!
これも読んで下さった皆様のおかげです!!
ブクマや評価で応援して下さった皆様、誤字報告で作者のお馬鹿な間違いを教えて下さった皆様、ありがとうございます(*^^*)
また詳細は後日、活動報告にてお知らせさせて頂きます!
本当にいつもありがとうございます!!
これからもよろしくお願い致します。




