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【書籍化・改題しました】転生幼女は王宮専属の定食屋さん!〜転生チートで腹ペコなモフモフ赤ちゃん達に愛情ご飯を作りますっ〜  作者: 沙夜
本編

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エピローグ2

最終話です。

* * *


「……ノア。あなた、もしかして」


ヴィオラが退室した後のシルヴェスターの執務室、沈黙を破ったのはフィルだった。


「あのさ、僕の母の生家は、クラッセン公爵家っていうんだけどさ」


フィルの問いには答えず、まるでひとりごとを呟くかのようにノアは言葉を続けた。


「公爵家は、母の年の離れた妹が婿を取って継いだんだ。シンドラー王国は魔法学に優れた国で有名だけど、クラッセン公爵家は特に稀少な魔法を使える一族で有名でさ。僕の叔母も、稀にみる聖属性魔法の使い手でね」


ノアは、自分と十ほども年の離れていなかった叔母の姿を思い浮かべる。


今は亡き、美しい少女のようなひとだった。


「クラッセン家では、代々母親が生まれた子に愛称を刺繍したおくるみを贈るんだ。僕の叔母はね、結婚してすぐに授かった愛娘のおくるみに、魔力を込めて刺繍したんだってさ。〝この子を守ってくれますように〟って」


〝愛称を刺繍したおくるみ〟


その言葉に、一瞬だけシルヴェスターがぴくりと指を動かした。


「そんな僕の従妹姫(いとこひめ)だけどね。ある時、家族で視察に出かけた辺境の森近くの街で、魔物に襲われ、攫われてしまったんだ」


どこかで聞いたことのある話だと、フィルとガイは息を吞んだ。


もしかして。


そう、その場にいる誰もがそう思っていた。


「いくら探しても、もうその子は見つからなかった。叔母夫婦はとても悲しんだ。その後何年かして、叔母は流行り病で亡くなった。あの時手を放してしまった、愛娘の無事を最期まで祈りながら」


しんと執務室が静寂に包まれる。


「そんな公爵家だけどね。今は遠縁の才能ある男児を養子にして、婿殿が再婚もせずひとり頑張っているそうだよ。実の親子ではないけれど、実の親子以上に絆を育んで」


ノアは公爵家に養子に入った男児の姿を思い浮かべた。


負けん気が強くて、努力家で、繊細で。


叔父との関係も、色々なことを乗り越えて信頼を築いてきた。


「娘のことは、きっと亡き妻が贈ったおくるみが守ってくれて、どこかで生きてくれているはずだって言ってた。幸せに暮らしているなら、それで良いって。下手に名乗り出たり公爵家に迎え入れたりしても、必ず幸せになれるとは限らないしね」


公爵家というしがらみを嫌うかもしれない。


今までと違う暮らしを強いられ、自分を押し殺してしまうかもしれない。


それは、夫婦が望んでいたことじゃない。


今、幸せに暮らしているなら、そのまま自由に生きてほしい。


「ま、不幸な目に遭っていたら一目散に連れ戻しに行くって言ってたけどね」


そこでやっと、ノアはいつものようにからからと笑った。


そして一度瞑った目を開くと、今度は慈愛に満ちた微笑みをシルヴェスターに向ける。


まるで、誰かに宝物を託すかのように。


「楽しく暮らしているなら、それで良いんだ。今の幸せを大切にしているみたいだからね」


確信はない。


けれど、可能性は高い。


だが、その場にいた誰もその可能性を口にはしなかった。


ひとりの少女の、幸せのために。


「ちなみに僕、恥ずかしながら初恋の人がその叔母でね。行方不明の従妹姫は母親似だったらしいから、会えばすぐ分かると思うんだよね」


カタンとノアは徐に席を立った。


そして扉の近くに控えていたレナルドの方へと歩き出す。


その姿を、シルヴェスター達三人は目で追った。


「きっとさ、優しくて、しっかり者で、かわいくて、一生懸命で、有能で。……誰からも愛される子に育ってるって、思うんだ」


誰のことを言っているのか、三人にも分かっていた。


分かっていて、口にはしない。


「僕の命の恩人でもあることだしね」


「! ノア様!」


咎めるようなレナルドの声に、良いじゃないかとノアは笑う。


「僕、実は原因不明の病に罹ってたんだ。この外交が最後になるだろうって言われていたくらい、病気が進行していて。だから正直、魔物討伐めちゃくちゃキツかったんだよねー。まったく、病人をコキ使ってくれてさ。……でもあら不思議、あの子の料理を数日食べたら、すっかり元気になっちゃって。レナルドの見立てじゃ、病原菌はもうほぼ消滅したみたい。あ、レナルドってこう見えて医療分野に秀でた家門出身なんだ」


なんでもないことのようにけろりと話すノアの爆弾発言に、シルヴェスター達はぎょっとする。


「あーあ、この仕事が終わったら隠居生活するはずだったのに。こんな元気になっちゃったなら、もっと働かないとね、ってことで。これからも末永くよろしくね? シュナーベル王国国王陛下?」


にやっとまるで少年のように笑うノアは、悪戯が成功した子どものようで。


やれやれとフィルとガイがため息をつく。


「じゃ。明日は早くから出立だし、そろそろ僕は失礼するよ」


そう言い終えて、ノアは扉のノブに手をかける。


「ノア」


そこへ、シルヴェスターが声をかけた。


「……今度来たときは、三食ヴィオラに食事を頼んでやる。だから()()、そのへらへらした顔を見せに来い。……またコキ使ってやる」


その言葉にノアは目を見開き、ぷはっと笑った。


「お手柔らかにね。じゃあね、シル、フィル、ガイ」


またね。


次の約束ができることがこんなに嬉しいなんて。


そう温かい気持ちになりながら、ノアはレナルドと共に自分達に用意された部屋へと戻ったのだった――。




* * *


「ヴィオラちゃん、食べてるー?」


「はい! とっても美味しいです!」


「せいじゅうさまたち、きてくれてありがとぉ!」


「きゅーきゅー!」


今日は街の復興祝いのお祭り。


招待された私達は、たくさんの笑顔に囲まれていた。


「ヴィオラちゃんの教えてくれた料理、旦那にも好評だよ!」


「好き嫌いの多いうちの子達も、たくさん食べてくれるの。助かるわぁ」


おばさん達からそんな声をたくさんかけてもらえた。


「食べることは生きること、ですからね! またいつでもレシピをお教えしますから、ご家族に作ってあげて下さい!」


美味しいものを食べると力も出るしね。


家族で美味しいねって、食事を楽しんでほしい。


「相変わらずおまえはあちこちで愛想を振りまいているな……」


「陛下! 来て下さったんですね」


多忙な陛下も、フィルさんとガイさんと一緒に移動魔法で駆けつけてくれた。


あ、ヘスティアがさっそく子ども達に囲まれてる。


「ヴィオラおまえ、そんだけ警戒心ゼロだといつか悪い男に捕まっちまうぞ?」


「まだ子どもなので大目に見ますが……。年頃になったら、そう易々と男に愛想を振りまいてはいけませんよ?」


ありえないことを言うガイさんと、まるで心配性のお父さんみたいな発言をするフィルさんに、私は苦笑いする。


陛下もなに言ってんだこいつらっていう目、してますよ?


「おっ、陛下と団長さん、それに賢そうなダンナも、こちらにどうぞ! みんなが改めてお礼を言いたいって言ってるんで! ささ、こっちこっち!」


街の人にそんなことを言われて、陛下は少し戸惑っていたけれど黙ってついて行った。


その耳元が少し赤くて、照れてるんだなって思ってくすりと笑う。


「なに笑ってるんだよヴィオラ」


「まあ、楽しそうですねヴィオラ様」


骨付き肉を持ったリックと、飲み物を持って来てくれたカレンさんも、笑顔だ。


「ううん。ただ、みんなで食べるご飯は美味しいなぁって思ってただけで」


生まれ変わって、世界も常識も全然違うけど。


『誰かのために料理を作って、笑顔になってもらって、美味しいねって言ってもらえる日が来ると良いな』


あの時の願いを、こうして叶えることができて。


「みんな、異世界でも美味しいご飯が人を笑顔にするのは一緒だったよ」


お父さんが教えてくれた〝定食屋そうま〟の味。


お母さんがくれた、温かい言葉。


お兄ちゃんと弟達がくれた、美味しいっていう声。


全部、〝ヴィオラ〟になっても、覚えてる。


「ありがとう」


「? おい、誰に礼を言っているんだ?」


「あ、聞こえてました? そうですね……みんなに、でしょうか」


訝しげな表情で汁椀を持つ陛下の隣にちょこんと座る。


「陛下、いつもありがとうございます」


「……別に礼を言われるようなことはしていない」


一見冷たい、けれどとても強くて優しいこの国の王様。


「私が今こうやって笑えるのは、陛下のおかげですよ?」


「……俺はおまえを拾っただけだ」


またそんな言い方をして。


素直にお礼を受け取ろうとしない陛下に苦笑いする。


「夕食はなにを作りましょうか?」


「……オニギリと、ダシマキタマゴ」


それを聞いて、目をぱちくりとさせる。


「それから、鶏肉の入ったミソシル」


それって。


「……はい。心を込めて、作りますね」


「いつも通りで良い、おまえはいつもそうしているだろう。それから、今日は時間に余裕があるんだ。夕食も一緒に食べよう」


初めて陛下達に食べてもらった時の料理。


あの時はちょっと戸惑いがあったけれど。


今日は、みんなで、笑顔で。


「はい! 楽しみにしていますね!」


また、美味しいって言葉を、聞かせて下さいね。





* * *


それから――。


見たことのない美味しくて元気の出る料理の噂は、またたく間にシュナーベル王国内へと広まっていった。


また、たくさんの聖獣を従え、とても楽しそうに料理をする愛らしい少女が王城にいるらしいとの噂も。


それからしばらくして、国王であるシルヴェスターの元には少女の料理を食べてみたいとの依頼が殺到した。


それを聞いた少女は、貧しい村や災害に遭った街などを中心に、聖獣達とともに料理を作りに出向くことが増えた。


その料理は噂通り、いや、噂以上に美味しくて、力が湧いてきて、生きる希望を人々に与えたという。


『食べることは、生きること』


お腹がいっぱいになれば、明日への一歩を踏み出す勇気が出てくる。


そう笑顔で告げる少女の作る〝テイショク〟は、国の人々から愛された。


そして――。


少女が伝える栄養バランスのとれた料理は、〝幸せのテイショク〟として、国内にとどまらず、国外にも広く伝えられ、愛されていったという。


その、少女の優しい笑顔とともに。





*fin*


ありがとうございました。

まだまだ話を膨らませられそう!とのお声も頂きましたが、とりあえずここで完結とさせて頂きます。

続きを書くかは分かりませんが、ヴィオラには幸せになってほしいなぁと思います。

またしばらくしたら番外編など投稿できたらなぁと思っております!

その際にはまたお立ち寄り頂けると嬉しいです(*^^*)

最後までヴィオラたちにお付き合い頂きまして、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ〜、終わっちゃった… 私の心の中は温かさでホカホカで、涙が溢れてきます。 この物語に出逢えて良かった(*´꒳`*) 幸せをありがとう♪───O(≧∇≦)O────♪
[一言] 完結おめでとうございます。 みんなが幸せになって素敵なお話でした。正直まだまだ完結してほしくなかったです。番外編や大人になった話しなど期待して待ちますね。楽しませていただいてありがとうござい…
[良い点] 完結お疲れ様でした! これからのことは、ヴィオラちゃんの新作料理も出来るといいね! 前世知識の料理はこちらの世界では新作なんだけど、やはりこの世界を見て回りそこから生まれる、新しい料理…
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