チートを発揮するなら、今でしょ!6
いつもありがとうございます!
おかげさまで最終話まであと少し、今日から4日連続で投稿して終われそうです。
最後までどうぞよろしくお願いします(*^^*)
「ええと、他には重傷者の方、いらっしゃいませんか?」
「他の怪我人は僕とお姉さん達とで手当てしたから、大丈夫だよ。ほら、みんなご飯食べてるでしょ? ここはもう落ち着いたから、僕達も炊き出し場に行こう? お腹すいちゃったよー!」
どうやらリック以外は軽傷だったらしく、手当てを受けてみんなここで食事をとっている。ミーナさんとソフィアさんが運んでみんなに配っていた。
「あったまるねぇ。怪我をした時はどうなることかと思ったけど、国王陛下達が助けに来て下さって助かったよ」
「本当になぁ。〝悪魔王陛下〟なんて噂もあったが、民思いの良い方じゃないか」
「噂は当てにならんな。それにしても美味い料理だ。元気が出てくる」
おにぎりやスープを頬張る負傷者の方達のそんな声が聞こえてきて、自然と頬が緩む。
「ヴァル、私達もご飯食べに行こうか」
「うん! ヴィオラのからあげ、楽しみー!」
温かい空気に包まれた避難所を出て、炊き出し場に戻る。
するとその近くで聖獣達が街の子ども達と遊んでいるのが見えてきた。
「せいじゅうさま、ふわふわー!」
「あかちゃん、かわいい! きゃあっ! もっ、くすぐったいよぉ」
「みてみて、ぼくぺがさすにのれたよー! かっこいいだろー!」
そしてそんな子ども達の笑い声に、親らしき街の人達が微笑ましそうにその姿を見守っていた。
「みんな上手くやってるみたいだね」
「うん。ヴァルがお願いしてくれたおかげだね、ありがとう」
災害に遭った人々には心のケアが必要だというニュースを思い出して、私はヴァルにお願いをしていた。
アニマルセラピー、そんな言葉を聞いたことはないだろうか。
動物達との触れ合いを通して、ストレスの解消や意欲向上などの効果を期待するものだ。
心というものは、ものすごく身体に影響を及ぼす。
だからまずは、人々の心を癒し元気づけることが大切だと思ったのだ。
以前聖獣カフェなんてものもアリだなぁと思ったが、まさかここで実現されることになるとは。
「良かったな。怖い思いはしたが、みんな命は助かったんだ。子ども達のためにも、頑張らないとな」
「ええ。せっかくみなさんが助けに来て下さったんですもの。私達がいつまでも俯いていてはいけないわよね」
夫婦のそんな会話が聞こえてきた。
そう、みんなが一緒に頑張ろうって思ってくれたら。
この街の復興は、きっとずっと早くなる。
「あ、さっき聖獣達が自分達も建物の再建とか手伝うって言ってたよ。赤ちゃん達もヴィオラのご飯のおかげでかなり丈夫になったし、手伝う気マンマンだって」
「本当? すごく助かるわ。それじゃあ聖獣達にもたくさんご馳走しなきゃね」
「その前に僕のごはん! 僕だってめちゃくちゃ頑張ったんだからね!」
たしかに今回あちこち走り回って頑張ってくれたヴァルがいなかったら、こんなに上手くいかなかったはず。
「そうね。ヴァルがいてくれて良かった。ありがとう」
そう微笑んで、私も食事中の騎士達の輪の中に入る。
どうやら街の人達とも仲良くなったようで、笑顔で会話を楽しんでいる。
「お、ヴィオラちゃん、今からメシかい?」
「はい。みなさんお疲れ様でした」
「いやいや遠征先でこんな美味いメシが食えると思ってなかったよ。元気モリモリ、明日からの復興作業への意欲も高まるってもんだよな!」
わははと盛り上がるみなさん、お酒は入ってないはずなんだけど……?
「言わせておけ。あいつらのあの能天気さも、計画の内だ。街の奴らも、なんとかなるかもなって気持ちになるだろ?」
ぼそっと私の隣で料理長さんが囁いた。
なるほど、これも元気づけるためのものだったのか。
「俺達もいるからさ、大丈夫だよ! 明日から一緒に頑張ろうぜ!」
そうやって励ましてくれているんだなと分かると、胸が温かくなる。
「……俺達も、美味いメシ作って励ましてやらねぇとな」
「はい、明日はなにを作りましょうか?」
元気が出るご飯を、たくさん作ろう。明日も頑張ろう、みんなで頑張ろう、そう思ってもらえるように。
食事を終えて聖獣と一緒に街の子ども達と遊んでいると、陛下がヘスティアと一緒に戻って来た。
「陛下、お疲れ様です」
「お母さん、おかえりー!」
ヴァルと一緒に駆け寄ると、ヘスティアはヴァルの頬をぐりぐりと鼻先で撫でた。
頑張った我が子を褒めているみたいだ。
「ずいぶん賑やかだな」
「はい、騎士さんや聖獣達のおかげで、明日から復興作業を頑張ろうという空気に包まれています」
陛下は食事をしながら会話を楽しむ騎士や街の人、聖獣と戯れる子ども達を見て、ふっと微笑んだ。
「おまえの力も大きいだろう。あの料理、皆が褒めちぎっていたぞ」
「いえ、別に大したことは……。あ、聖獣達が明日からの復興作業も手伝ってくれるそうです。きっとものすごく早く終わると思いますよ」
なにせ一瞬で荒地だった広場を快適な食堂へと変えたのだ。みんなの力を合わせれば、建物の修復や再建も容易いだろう。
「それは心強いな。……ちなみにあれもおまえが聖獣達に頼んだのか?」
陛下の視線の先を辿ると、聖獣達のもふもふに埋もれて眠っている小さな子どもの姿があった。
襲撃で緊張していただろうし、安心して寝ちゃったのね。でもあのもふもふに包まれたら、絶対気持ち良いはず。
眠っちゃう気持ちも分かるわぁ。
「いえ、あそこまでは頼んでいませんけど……。ひょっとして、陛下もちょっと良いなぁとか、思ってたりします?」
「………………馬鹿を言うな」
冗談で言ったつもりだったのだが、思いのほか沈黙が長かったのと、ふいっと逸らされた顔の頬が少しだけ染まっていたので、きっと図星だったのだと思う。
「ね、ヴィオラ」
笑いを必死に堪えていた私に、ヴァルが耳打ちをした。
「今ね、お母さんが念話で教えてくれたんだけどさ、」
そうして続けられた言葉に、私は目を見開いた。
「――お母さんの契約者、ヴィオラのことべた褒めして回ってたらしいよ。配られた珍しい料理を考えたのも、王城の人間を動かして食事や支援物資を用意したのも。聖獣達の力を借りられたのも、街の人の心を一番に配慮するように準備したのも。全部、ヴィオラのおかげだって」
「……ヴィオラ、顔真っ赤」
「だ、だだだだって!」
「どうしたんだ?」
不意打ちを食らって赤面する私を、陛下が訝しむ。
もう! こんな時にヴァルがそんなこと言うから!
「そういえば先に宿屋で休んでいたノアも、おまえに礼を言っていたぞ。もう一度おまえの料理を食べることができて、喜んでいた」
「そ、そうなんですね! 喜んでもらえて良かったです!」
動揺する私に眉を顰めながらも、陛下はそれ以上突っ込むことはなく、夜空を見上げた。
「長い一日だったな」
「……そうですね。みなさん無事で良かったです」
満天の星空を見上げながら、私はふっと微笑んだのだった。




