チートを発揮するなら、今でしょ!4
その時、ゴン!と鈍い音が響いた。
「ヴィオラの言う通りだな。おい、よく考えずに発言するのは控えろ!」
「いってええ! わ、分かってますよ! たしかに失言でした、気を付けます!」
なんと料理長さんが〝大したことない〟と発言した料理人さんの頭をゲンコツで叩いた音だったらしい。
「……その通りです。ヴィオラ様、市民のことを考えて下さって、ありがとうございます」
「私達は元気づけに来たのですものね。こちらが暗い顔をしたり、傷つけるようなことのないよう、気を付けないといけませんね」
カレンさんとソフィアさんがそう言ってくれたおかげで、いつもの空気に戻った。
「そうですよね! 聖獣様も助けて下さっているんですし、私達もお荷物にならないよう、ちゃんと働きます!」
元気なミーナさんの声で、さらに場が明るくなる。
「……はい! みなさん、頑張りましょう!」
まずは陛下達と合流して安全を確認、それから炊き出しの準備と毛布やタオルの配布だ。
「ヴァル、ヘスティアがどこにいるか、分かる?」
「うん! こっち! ついてきて!」
案内してくれるヴァルの後をみんなでついて行く。
街は荒らされているけれど、もう魔物の姿は見当たらない。
陛下と別れてそれほど時間が経っていないはずだけど……。
この短時間で収束させるなんてすごいなと、料理人さん達からも声が上がる。
陛下とヘスティア、それにガイさんやノア王子も、本当に強いのね。
みんな無事かしらと心配になりながら歩いて行くと、ヘスティアの姿が見えた。
その側には陛下の姿もある。
「ああ、来てくれたか」
「お待たせいたしました」
見た感じ、陛下もヘスティアも大きな怪我はしていない。
取り乱した様子もないし、だいたいの安全も確保できたのかもしれない。
陛下に状況の説明を聞くと、予想通り討伐は無事に終わり、見回りもしたが街中に逃れた魔物の姿はなかったという。
「魔物除けの薬草袋も街の至る所に置いてきた。新たな魔物の侵入はないだろうから、安心して準備してくれ。市民には念のため避難所から出ないように伝えているから、準備ができ次第、彼らに声をかけよう」
私が用意してきたものについて、陛下は通信魔法でフィルさんから聞いていたらしく、場所も用意してくれていた。
少し開けた広場、そこに鍋などを置く机まである。
「ヴィオラ、夕方にかけて寒くなってくるから、温かくしてあげるって不死鳥が言ってるよ」
「え、ヴァル、本当? ありがとうございます不死鳥さん!」
お礼を言って不死鳥の赤ちゃんを撫でると、親子で嬉しそうに鳴いて広場周囲の温度を魔法で上げてくれた。
「……ね、今度は白虎が机と椅子を作ってやるって」
「え? 机と椅子って……そりゃあると助かるけど、どうやって……」
首を傾げると、白虎のお父さんが土魔法で机と椅子をたくさん広場に出してくれた。
「す、すごい! これならここでみなさん料理が食べられますね! 不死鳥さんのおかげで温かいし、喜ばれますよ!」
すごいすごいと褒めれば、白虎の親子は自慢げに胸を反らせた。
すると、ぐぬぬ……と悔しそうな表情のペガサス親子が風魔法を使った。
「な、なに……? あ、瓦礫が綺麗になってる。そうか、お掃除してくれたんですね」
荒れた街並みの中だと、気持ちも滅入っちゃうもんね。なんて聖獣って気が利くんだ……‼
「……おい、あの聖獣共、ヴィオラと契約でもしてんのか?」
「いえ、そんな話は聞いておりませんけれど……。ふふっ、ですがヴィオラ様に褒められようと聖獣達があれやこれやと力を使う姿は、なんだか微笑ましいですね」
「ヴィオラ様って、聖獣使いのスキルでも持ってるんですかね?」
「あらあら。私達も聖獣様に負けないように、しっかり働かねばなりませんねぇ」
すぐ側で料理長さんとカレンさん、ミーナさんとソフィアさんまでもがそんな会話をしているとはつゆ知らず、私はとっても有能な聖獣達を褒めちぎって炊き出しの用意を始めたのだった。
* * *
「おぉい、もう外に出ても大丈夫だぞ」
避難所の外から声がした。
魔物の討伐に王城から来てくれた騎士達だ。
どうやらもう安全らしいと、避難していた人々はようやくほっと肩の力を抜いた。
駐在兵がすぐに避難指示を出してくれ、王城への助力要請も速やかに行ってくれたおかげだと、安堵の声が上がる。
しかし、外がどうなっているのか、見るのが怖い。
大きな音が何度もしていた。
おそらく建物が倒壊した音も。
ちょっとした燃えたものも、潰されたものもたくさんあるかもしれない。
命が助かっただけでもありがたいとは思うが、それでもやはり今後の生活の心配は大きい。
この扉の向こうには、現実が待っている。
どれだけ絶望し、悲観しなければいけないのだろう。
今日の食べ物は?
寝る場所は?
子ども達は、これからどうなるのだろう。
そんな大きな不安の中、恐る恐る扉のノブを握る。
そうしてそっと開いた扉の向こうに見えたのは――。
「おっ、やっと出てきたな。あっちの広場の方で食べ物と毛布やタオルの配布をしているから、そっちに行くと良いぞ」
「ヴィオラとウチの料理人の作ったメシは美味いからな! きっと元気が出るぞ」
「ほら、子ども達もたくさん食べろよ!」
夕方のひんやりとした空気が肌を撫でたが、思っていたよりも荒れていない街並みと、晴れ晴れとした表情の騎士達の姿。
一体どういうことなのだろうと戸惑いつつも、人々は言われた通りに広場へと向かった。
とりあえず今夜の夕食はありつけそうだと思いながら歩いて行くと、なぜか少しだけ空気が温かくなってきたのに気付く。
その先、広場の中央には大きな鍋やワゴンが見え、温かそうな湯気が立ち上がっていた。
「あ、みなさんこちらです! 温かいご飯、用意してありますよ! おにぎりにスープ、おみそ汁、から揚げにサンドイッチ、お好きなものを好きなだけ持って行って下さいね!」
その中心にいたのは、淡い紫の髪をなびかせて見たことのない料理を配る、ひとりの幼い少女だった。
驚くのはそれだけではない。
魔物との戦いで相当荒れているはずのこの場には、見覚えのない机や椅子が所狭しと並んでいた。
まるで野外食堂に来たかのような光景に、人々は揃ってぽかんと口を開けたのだった。
* * *




