チートを発揮するなら、今でしょ!3
「ヴィオラ様、これくらいでいかがでしょうか」
「ありがとうございます、カレンさん。ミーナさんとソフィアさんも」
「これで揃いましたね。向こうでの戦闘はほぼ終わり、確認作業に入っているとのことですので、丁度良い頃合いかと」
「そうですか、良かったです。フィルさんも色々と私の無茶を聞いて下さって、ありがとうございました」
炊き出しの準備を終えた私は、奥の庭園に来ていた。
カレンさんをはじめとする侍女達や騎士団専用食堂の料理人のみんなとともに、魔物の襲撃に遭った街へと向かうために。
そして驚くべきことに、そこにはヴァルが連れてきた聖獣達の姿もある。
「みんなに事情を説明したら、協力してくれるって!」
「きゅうーっ!」
「ぐう!ぐう!」
聖獣のことが知られてしまうのは少し憚れたが、彼らの意志なら良い、のかな?
「こ、こここここんなに聖獣様が勢ぞろいしているなんて……! 初めて見ました!」
「ミーナ、気持ちは分かるけれど、はしたないわよ」
聖獣達に興奮するミーナさんをソフィアさんが窘める。
でも驚くのも仕方ないわよね。料理の乗ったワゴンを持つ料理人さん達もあんぐりと口を開けているもの。
「ヴィオラ、みんな準備オッケーだって」
まあ、いっか。
「ありがとう、ヴァル。聖獣のみんなも、力を貸して下さって、ありがとうございます」
頭を下げた私に、聖獣の親子達はきゅーきゅーと、まるで大丈夫だよ!と返事してくれたかのように鳴いた。
ヴァルから、聖獣達も協力してくれると聞いて、すごく嬉しかった。
ひとまわり大きくなった幼獣達も張り切っているのが見える。
「ヴィオラのお願いなら、お安い御用だよってさ。料理や物資の運搬と、人間の移動にも協力してくれるって言ってるから、遠慮なく乗ってよ」
ヴァルがそう言うと、料理の乗ったワゴンやカレンさん達が用意してくれたたくさんの毛布やタオルがふわりと浮いた。
「すごい……!」
「そこの不死鳥の風魔法の力だってさ。鍋の中身も零さないようにするから心配するなって」
なんと、不死鳥さん仕事ができる人……じゃない、鳥さんですね!
「ついてくる人間はこっちに集まって。成獣達の背中に乗って行くから」
「あ、えと。みなさん、こちらにどうぞと言っています。大人の聖獣が背に乗せてくれるそうです」
ヴァルの言葉を翻訳すると、みんなは驚きつつも聖獣達に近付いた。
「ほ、本当に乗っても良いんですかね!? わわっ、毛並み、最高……‼」
ミーナさん、そのわくわくしちゃう気持ち、分かります。
さて私も……とグリフォンにお願いしようかと近付いた時、カレンさんに呼び止められた。
「お待ち下さい。肌寒い季節となりましたし、聖獣に乗って飛ぶと寒いでしょうから、こちらを」
そうして差し出されたものを見て、私は目を見開いた。
「私の、おくるみ……?」
「はい。上質な布でしたので、少し加工してケープにしました」
森に捨てられていた時にくるまれていた、刺しゅう入りのおくるみ。
洗濯してくれるって言われてそのままだったけど、ケープにしてくれたんだ。
「……ありがとうございます」
ふわりとカレンさんが私に着せてくれると、柔らかな感触の布が私の頬をくすぐった。
「とてもお似合いです。それではヴィオラ様、参りましょう」
にっこりと満足げに微笑むカレンさんと共に、グリフォンの背に乗る。
僕がもっと大きかったらヴィオラを乗せられたのに……と腕の中でヴァルが唸った。
それにくすくすと笑うと、フィルさんが近付いてきた。
「ヴィオラ殿、我が国の民を、どうかよろしくお願いいたします」
不安はある。
だけど。
「はい。精一杯、できることをやってきます」
できることがあるのなら、心を砕いて、ただ懸命にやるだけ。
少なくとも回復効果のある料理は、役に立つはずだから。
「いってきます!」
私の声に応えるように、グリフォンが羽ばたく。
それを合図に、他の聖獣達も一斉に動き出した。
幼獣達もそれに懸命についてくる。
王都から少しだけ離れた、東にある森の近くの街。
そこを目指して、私達は出発した。
「……思っていた以上に、ひどいですね」
体感で三十分程度だろうか、素晴らしい早さで私達は被害に遭った町へ到着した。
しかしその倒壊した建物や荒れた街並みを見て、思わずミーナさんからそんな呟きが落ちた。
「まだマシな方だ。陛下達が迅速に対応したからだろう」
被害状況を目の当たりにして尻込みする私達に、料理長さんがそう言った。
「そうだな。完全に倒れてる建物も少ないし、大量の魔物の襲撃に遭った割には大したことはない。復興までそう時間はかからんさ」
他の料理人さん達からもそんな声が上がる。
「今いるメンバー、実は俺達は騎士団に勤めていたことがある。まあ怪我やなんやで今はこうして料理人をやっているわけだが。だから、もっと悲惨な光景も見てきている」
料理長さんの言葉に、他の料理人さんがうんうんと頷いた。
「そう、だったんですね」
だからこんなに落ち着いているのか。
フィルさんが彼らの同行を許可したのも、経験があるからという理由があったのかもしれない。
戸惑ったり尻込んだりして上手く動けないと、かえって邪魔になる可能性もあるものね。
でも……。
「あの、でも街の人々にはあまり〝大したことない〟っていう言葉はかけない方が良いのではないでしょうか」
そんな私の呟きに、みんなは目を丸くした。
「その、大切な家を壊されたり、大きな怪我をされたり、もしかしたら家族を失った方もいるかもしれません。そういう方々に、〝大したことない〟というのは、ちょっと……」
しん、とその場が静まり返る。
「も、もちろん復旧は可能だから大丈夫だよって励ますのは良いと思います! 希望が持てるような言葉は必要ですから。でも、被害の大小を決めるのは私達ではない気がすると言いますか……」
言ってしまってから、もっと言葉を選べば良かったと焦る。
もちろん料理人さんに悪気はないし、他と比較したら被害が少ないのは本当なのだろうから、否定するような言い方はいけなかったかもしれない。
しまった、空気を悪くしてしまったと俯く。




