今の私にできること1
あの後、私は陛下とフィルさん、それにガイさんとカレンさんの前で今の自分の気持ちを話した。
陛下達が忙しいのは分かっていたから、また時間のある時にでも……と遠慮したのだが、全員から今話してほしい!と前のめりで言われてしまい、結局その場で話すことに。
私のことを心配そうに見上げてくる腕の中のヴァルに大丈夫だよと微笑み、みんなに向かって口を開いた。
やっぱり料理が好きだということ。
色んな人に食べてもらって、美味しいって言ってもらえて、元気が出た、また頑張れるよって言ってもらえることが、なによりも嬉しいってこと。
自分の力のことは、まだちょっと怖いと思っている。
けれど、この力を隠すために料理をすることを抑えるようなことはしたくないし、怖いからって自分の力を認めないのも違うんじゃないかって思ったこと。
それに、この力を隠し続けるのは、ヴァルのことを否定することにもなるかもしれないって、気付いた。
ずっと私の側にいてくれて、辛い時も嬉しい時も一緒にいてくれた、大切な存在のヴァル。
私を守ってくれているヴァルと力を合わせて、好きな料理を作って、それが誰かの役に立てるのなら。
こんなに素敵なことってないんじゃないか、そう思った。
「今までは、まだどこかで皆さんのことを信じ切れていなかったのかもしれません。そんな自覚はなかったのですが……」
たどたどしかったと思うけれど、私は自分の考えと気持ちを伝えた。
言葉にするのは難しくて、この思いがきちんと伝わったかは分からないけれど。
「……それは仕方のないことだろう。急にひとりで見知らぬ国に来て、知らない人間に囲まれて生活することになったんだ。無意識に警戒してしまうのは当然のことだ」
「そうだな。そんな中でも一生懸命やってきたヴィオラのことを、誰も責めないさ」
陛下とガイさんが、そう言って受け入れてくれた。
「あなたはいつも笑顔でしたから、大丈夫だろうと勝手に思っていた私達もいけなかったですね。もう少し気遣うべきでした」
「ですが、そんな風に思えるようになったということは、ヴィオラ様が私達のことを心から信頼してくれるようになった、ということでよろしいでしょうか?」
今までだって私のことを気遣ってくれていたフィルさんとカレンさんも、そう言って優しく微笑んでくれた。
それが嬉しくて。
瞼が熱くなって、そんなつもりはなかったのに、もちろんです!と叫びながら、私は泣いてしまった。
「わ、私も、皆さんのお役に立てるようになりたい、です。大好きな料理も、みんなに食べてもらいたい。ヴァルのことも、聖獣達のことも、大切にしたい。……なによりも、私が、私のことを大切にしてあげたいんです」
前世で失ってしまった、すみれとしての生の分まで。
この世界での生を大切にしたい。
やりたいことを我慢せずに。
自分の力を発揮して。
大切な人達と一緒に、支え合って。
辛いことも、悲しいことも、楽しいことも、嬉しいことも経験して。
私は、ヴィオラとしての人生を、幸せなものにしたい。
「たぶん、みなさんのお力をたくさん借りることになりますし、ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが……」
「ああ、まるごと受け入れよう。それがおまえを俺専属の料理人として受け入れた、俺の責任だからな」
優しすぎる陛下の言葉に、私はまた号泣してしまったのだった。
翌朝、いつものようにミーナさんとソフィアさんが私を起こしに来てくれた。
「おはようございま~す、って、どうしましたヴィオラ様!?」
「あ、おはようございます、ミーナさん」
「あらあら、かわいらしい目が真っ赤に……。ヴィオラ様、昨夜泣きましたね?」
「あはは……。ごめんなさい、ちょっとナーバスになっちゃって。もう大丈夫です、たくさん泣いて、スッキリしましたから」
泣きはらして腫れてしまった私の目を見て、ミーナさんは絶叫し、ソフィアさんは冷たいタオルを当ててくれた。
こんな風に、今までずっとみんなの優しさに包まれてきたのだなと実感して、また胸が温かくなる。
「そういえば昨夜、カレン様からお料理、頂きましたよ! 私達の分までありがとうございました!」
「ええ、ヴィオラ様が作って下さったんですよね? とても美味しかったです」
身だしなみを整えてもらいながらミーナさんとソフィアさんから昨日のパニーニのお礼を言われ、気恥ずかしい気持ちになる。
「いつもこうやって色々とお世話になっているので……。簡単なもので申し訳ないのですが、お口に合ったのなら良かったです」
こうしていると、やっぱり私って作った料理を色んな人に食べてもらうのが好きなんだなぁと改めて感じる。
「ここだけの話、いつも陛下や騎士達だけズルイなぁって思ってたんですよね~」
「ヴィオラ様が教えて下さるようになって騎士団以外の食堂の料理も美味しくなってきましたが、昨日の料理は格別に美味しかったですものね」
楽しんで料理を作って、美味しく食べてもらって、みんなが笑顔になって。
「ありがとうございます。またなにか作ったらお渡ししますね」
これが私が望んでいたものなんだって、今になってやっと分かったの。




