お客様は何者ですか?1
聖獣達が通うようになって一週間。
噂が広まるのは人間だけでなく聖獣の中でもあっという間のようで、日に日に聖獣が増えている。
奥の庭園の聖獣カフェは毎日満員御礼だ。
「おはようございます、ヴィオラ様。今日も良いお天気ですねぇ」
「おはようございます! 今日も良いことがありそうですね!」
今日もおっとりしたソフィアと元気なミーナの声で朝を迎えた。
「おはようございます。はい、良い日になるように頑張りたいと思います」
すっかりこの生活にも慣れ、聖獣達とも心通わせられるようになってきた。
聖獣達の警戒はこの一週間でほとんどと言って良いほど解かれ、今ではどんな料理も抵抗なく口に入れてくれるようになった。
今日からは聖獣達のご飯も騎士団で出す料理と同じメニューにしようと思っている。
ただし成長促進の魔法を付与しなくてはいけないため、途中で取り分けて聖獣の分だけ別で作るつもり。
ということで、お昼だけ他の料理人さん達にお任せの日々は一応終わった。
「ヴィオラ様のおかげで最近王城のご飯が美味しくなってきたので、毎日今日のご飯はなにかな~って朝からウキウキなんですよね~!」
「あはは。それは良かった」
そう、なんと私の料理の評判を聞きつけた王城の色々な食堂から、見学させてほしい!との依頼が殺到したのだ。
私を見て、この子が本当に……?と疑わしい目をして、実際に調理の様子を見て試食し、膝を折って真似させて下さい!となるのがデフォである。
あまりに大袈裟なので、毎回慌てて顔を上げて下さい!とお願いするのがとてつもなく大変だ。
でもまあ、王城で働く皆さんに喜んでもらえているのなら、それもやむなしと受け入れるべきか。
やれやれと息をついて身支度を整えてくれたミーナとソフィアにお礼を言ってふたりが出て行くのを見送る。
ぱたんと扉が閉まり、私は鏡台に映る自分の姿を見つめる。
さらりと流れるすみれ色の髪と、アメジストのような紫藍の瞳。
「ヴァイオレット……か」
美しい紫色の名前を口にして、目を閉じる。
気がかりなのは、それだけじゃない。
「まさか、ヴァルが聖属性に特化した聖獣だったなんて……」
覚醒したばかりのヴァルの姿を思い出して、嬉しく思いつつも大変なことになったなぁとため息をつくのだった。
一週間前、聖獣達のご飯を終えた後のこと。
カレンさんとリックとは別れ、私は陛下の執務室に呼ばれた。
ヴァルも一緒に。
「――――さて、おまえの契約獣がめでたく覚醒したわけだが……。どうだ? なにか変化を感じないか?」
なぜ呼ばれたのだろうと不思議に思っていた私は、陛下がなにを言いたいのかよく分からなくて首を傾げた。
「僕は感じるよ! 今までとは違う、こう……力がみなぎっていく感じ!」
私とは違ってヴァルには感じるものがあるようだ。
今までとは違う、力……って。あ。
「覚醒して、独自の特殊な能力が目覚める……って、あれのこと?」
「そう! 僕、ヴィオラの役に立ちそうな能力に目覚めたんだよ!」
きらきらした目を向けてくるヴァル。
だが私は少し嫌な予感がしている。
冷や汗をかきながらヴァルの言葉を通訳すると、陛下がふむと頷き口を開いた。
「そうか。ヴァル、おまえはどんな能力に目覚めたんだ?」
あっ、まだ私の心の準備が……!
「ふふーん! それはね! じゃーん‼ 聖属性の力だよ! 珍しいでしょ? えっへん! どんなことができるかっていうとねー」
べらべらと自分の特殊能力について語るヴァルに、私はがっくりと肩を落とす。
ぽっこりお腹を反らして得意げに発表する姿はかわいいよ?
かわいいけど、でも……!
「おい、項垂れていないで、ヴァルがなんて言っているのか早く通訳しろ」
「はい……」
もうどうにでもなれ。
そんな気持ちでヴァルの言葉を陛下達に伝えていく。
「――――聖属性に特化した能力、ね」
「ヴィオラ殿の、料理への魔法付与の力がかなり上がりそうですね」
「そんでもって火と水の能力もかなり上がったってか。料理に火と水はつきものだからか?」
意外と冷静なお三方は、もう私のチートさに驚くのを止めたらしい。
私としてはこれ以上すごい能力なんていらなかったのだが……。
ヴァル個人としては、火と水の攻撃魔法と、回復をはじめとする聖属性魔法が使えるようになったらしい。
聖獣は人間みたいに鑑定なんてしなくても自分の力が分かるんだって。
そして契約者である私も、自ずとそのみっつの能力が爆上がりしたらしい、のだが……。
「あの……。聖属性ってことは、聖獣達に作っている料理に付与された成長促進の魔法も強まるのでしょうか? あまり強すぎると、赤ちゃん聖獣達の身体に負担がかかるのでは……」
「ああ、それなら心配いりませんよ。成長促進は光属性の魔法ですからね。それに、力が強くなっても慣れれば調整できるはずですよ」
フィルさんの説明に、ほっと胸をなで下ろす。
光属性と聖属性ってなんとなくイメージが被るのよね……。
「聖属性は体力の回復の他に、解呪なんかもあるな。あとはアンデット系のモンスターへの攻撃魔法もあるぞ」
アンデット系って……ゾンビ的なやつ?
「それは……遠慮したいです」
完全に引いた私に、そんなことさせねえから安心しろ!とガイさんが笑う。
「聖属性は使える人間が少数だから、知られていないことも多い。使えても低レベルの者がほとんどだという話だしな。おまえの元々のレベルは6だったか。そこからヴァルの覚醒により上がったということは……」
少なくとも7以上。
陛下の言葉に、私は頭を抱えずにはいられない。
「ま、まあまあ、そう心配するな。未知の魔法が使えるかもしれんと思うと怖いだろうが、使わなければ問題ない」
よしよしとガイさんが頭を撫でてきた。
まあたしかにそうなんだけども。
「ですが、ヴィオラの料理に回復の効果があるということは、このところ騎士団内で囁かれているそうですよ。陛下が早めに箝口令を敷きましたが」
「ええっ!?」
「あーまぁなぁ。ヴィオラ、料理を作る時に、みんなが元気に頑張れますように~とか考えてるだろ? それがどうしても付与されちまうんだな」
フィルさんの発言に驚くが、たしかにガイさんの言う通り、魔法を付与しているのは私だ。
「……これからは、料理を無心で作るか? それならば、効果はほとんどないだろう」
表情こそあまり変わっていないが、心配そうな声色で陛下がそう聞いてきた。
無心で作るってことは、気持ちを込めないで作るっていうこと。
『俺はな、すみれ。客が俺の料理を美味いって言ってくれることがなによりも嬉しいんだ。昼飯を食って、これで午後からも頑張れるって言われるのも、そりゃあ嬉しいもんだ。忙しいからってただ手を動かして作っただけの料理なんて、俺は作らねえよ』
前世でお父さんがよく言っていたことを思い出す。
ただ作るだけなら、そのうち機械でもできるようになるだろう。
でも食べてくれる人のことを考えて、想いを込めて作るのは、人間にしかできない。
厨房の料理人さん達もそうだ。
騎士達が頑張れるようにって、いつも一生懸命作っている。
それなのに、私はその能力を隠すために、それを止めるの?
「それ、は……。したくない、です」
私が料理を作るのは、食べてくれる誰かのため。
陛下やフィルさん、ガイさんに騎士のみんな、聖獣達。
美味しいって笑ってくれる、そのために。




