聖獣カフェでも開きます?1
ヴァルから赤ちゃん聖獣の話を聞いた三日後。
「……わぉ」
「すげぇ……!」
「いっぱい集まったねぇ! みんなお父さんやお母さんと一緒だ!」
ここは聖獣達のために陛下達が用意してくれた、奥の庭園の一角。
働く官僚や使用人達へ、陛下が『命に背いて侵入した場合は……分かっているな?』と、ものすごい迫力で凄み、絶対立ち入り禁止区域となった。
『ヴィオラは実際見てなかったから知らないかもしれないけどな! 久々の悪魔王陛下降臨の瞬間だったんだよ!!』とは、リックの言葉。
そんなこんなで、聖獣達のための空間に続々と聖獣達が集まって来たのだ。
成獣はヘスティアのように大きいものばかりだが、赤ちゃん聖獣達はヴァルと同じくらいかより小さいくらいのサイズ。
かわいいなぁ、後でちょっとだけもふもふさせてもらえないかしら。
「不死鳥にペガサス、白虎にグリフィン。どれもすげぇ有名だけどなかなかお目にかかれない聖獣ばっかだ……!」
「リック殿、あまり不用意に近付かない方が良いかと。聖獣を刺激してしまいます」
そして集まった聖獣を前に目を輝かせるリックとそれを窘めるカレンさんが、お手伝い兼護衛にとついてきてくれた。
厨房から料理を運ぶのも結構大変だから、気を利かせてくれた陛下には感謝だ。
ちなみに聖獣のご飯は、お昼だけここで振る舞うことになった。
そして陛下と騎士達のお昼ご飯は、料理長達にしばらくお任せすることに。
皆不思議がっていた気はするけれど、陛下の命令だから誰もなにも言わなかった。
「あ、お母さんとお兄ちゃん達もあそこにいる! みんなヴィオラの料理また食べたいって言ってたから、喜ぶだろうなぁ」
そしてヘスティア達も他の聖獣を迎えるためにこの場に来てくれた。
ヴァルはみんなで一緒にご飯が食べられると嬉しそうだ。
「あ、陛下と兄貴、団長もいるぞ」
リックが指をさした先には、陛下とフィルさん、ガイさんの姿が。
「ヴィオラ、こっちだ」
私達に気付いた陛下が声をかけてくれた。
「お待たせしました。陛下とフィルさん、ガイさんも。お忙しいのにありがとうございます」
初日だからということで、こうして足を運んで下さったのだ。
ぺこりと頭を軽く下げてお礼を言えば、三人の表情が緩んだ。
「うわ。めちゃレアなの見たぜ」
うげぇという顔をして呟くリックを不思議に思いながらも、話を続ける。
「お料理、お持ちしたのですが、どのようにお渡しすると良いでしょうか?」
ちらりと聖獣達を見るが、やはりというべきか少々こちらを警戒しているような気がする。
「ああ。ヘスティアが言うには、まばらに料理を置いておき、まず自分達が毒見役になって食べ始めればそのうち食べるようになるだろうとのことだ」
そっか、ヘスティアやヴァルが食べるのを見て平気そうなら自分達も……となるだろうってことね。
危機管理能力ってやつ?
まあ稀少な聖獣様達だ、身の危険を感じることも多いだろうし、口に入れるものに慎重になるのは良いことなのだろう。
「それで? なにを作ってきたんだ?」
ひょっこりとガイさんがカレンさんが運んでくれたワゴンを覗く。
「エルネスト卿、行儀が悪いですよ」
「そう固いこと言うなよなー。お、色々あるな!」
このふたり、なんとなく距離が近い?
まあふたりとも陛下に近いところでお仕事してるし、接する機会が多いだろうから不思議じゃないか。
でも職場恋愛ってのも素敵よね……。
「おいヴィオラ、なに惚けてんだよ。料理、配るんだろ?」
想像を膨らませていると、リックに突っ込まれてしまった。
「あ、ごめんなさい。じゃあヘスティアとヴァル、お兄さん達の分はこれね。あとは適当な場所にお皿ごと置いていきましょうか」
私達はヘスティアのアドバイス通りに手分けして料理を置いていく。
「適当で良いのか?」
なんと陛下まで。
陛下にそんなことを!と慌てて遠慮したのだが、数年前まではただの騎士だったのだからこんな少人数の場では構わないと言われてしまった。
フィルさんとガイさんも同じように皿を並べはじめ、恐縮しながらもお言葉に甘えることにした。
「ところで、なぜこのメニューにしたんだ?」
「それはですねぇ」
先程、厨房で作っている時のことを思い出し、私はにっこりと微笑んだ。
数時間前、第二騎士団専用食堂の厨房――。
私はその片隅を使わせてもらい、聖獣達のご飯を作り始めた。
ちなみにヴァルは外でお留守番。
でもこの三日間、ヴァルに色々と聞いてメニューは決めてきたのだ。
「ヴァルみたいに、他の聖獣もなんでも食べられるって話だけど、見た目は大事だもんね」
今まで見たことのないようなものを出されては警戒心も強くなってしまうのではないかと思ったのだ。
聖獣にしてみれば、藁にも縋る思いで来たとはいえ、やはり大事な我が子に奇妙なものを食べさせるのは抵抗があるだろうから。
『お兄ちゃん達に聞いたんだけど、種類によってよく食べてるものは違うみたい。ペガサスはハーブとか綺麗な花を食べるって言ってたし、グリフィンや白虎は魔物や動物の肉が多いんだって』
そうヴァルが教えてくれた。
聖獣様とはいえ、現実にいる見た目が近い動物と、だいたい食の好みは同じらしい。
ということで、作るのはヴァルもよく食べていたパン粥に、サラダ、それと骨付きのお肉。
私の料理に慣れてきてくれたら、なんでも食べてくれるかな。
その日が来ることを願って、初めてのご飯作りを頑張ろう。
まずはお肉から。
昨日仕込んでおいたたくさんの骨付き豚のスペアリブを取り出す。
うんうん、しっかり漬かっている。
お肉に切れ込みを入れて味がしっかり染み込むようにした。
鍋に油をひいてニンニクを入れ、香りが立ってきたらスペアリブを投入。
うーん、良い香りと良い音!
これだけで食欲のそそる匂いが厨房に充満する。
「くっ……! ヴィオラが絶対美味いモン作ってるぜ!!」
「覗きに行ったら駄目だぞ、命令に背くな! しかし……くっ! あの匂いと音のせいで気がそぞろになっちまう!」
離れたところで料理人さん達が葛藤しているのが見える。
ご、ごめんね皆。
後でちょっとだけ内緒で味見させてあげるから。
焼き目がついてきたら裏返し、両面あらかた焼けたら調味料と水を入れる。
蓋をしてしばらく煮込めば完成だ。




