無自覚チートは転生あるある5
「……とにかく、おまえが規格外の能力者だということは分かった。料理についてはその知識も目新しいからな。他の食堂から引っ張りだこになるのも仕方のないことだが、普段振る舞うものにはできるだけ効果を付与しないように気を付けろ」
ええっ、そんな調整できるか分からないんですけど!?
そしてやっぱり他の食堂に飛ばされる可能性もあるってことですか!?
「えーダメだよ、そんなの!」
色々突っ込みたくなる会話の途中で、ヴァルがぷりぷりしながら口を挟んできた。
なにがダメなのかと、みんなでヴァルの方を見やる。
「もう先客がいるんだから! これ以上ヴィオラが忙しくなるのはダメ!」
「先客? ヴァル、先客ってどういうこと?」
今度は一体なにが!?と思いながらヴァルに聞き返す。
なんとなく嫌な予感がするのは気のせいであってほしい。
みんなの視線を一心に浴びながら、ヴァルはえへんとそのぽっこりとしたお腹……いや、胸を張った。
「ふっふっふ! きっとびっくりするよ!」
あ、これ完全にフラグですね。
ヴァルがみなまで言う前に、直感でそう思った。
「あのね、ヴィオラのご飯を食べて僕が大きくなったっていう話を聞いた他の聖獣の赤ちゃん達が、こっちに向かってるんだってー!」
「は、はぁぁぁぁぁ!?」
なんとなく感じていたこととはいえ、予想外も予想外なことを言われ、大絶叫してしまった。
陛下達にもヴァルの言葉を伝えると、私と同じくかなり驚いている。
「……ヴァル、他の聖獣の赤ちゃんとはどういうことだ?」
ひとり冷静な陛下がヴァルにそう問いかけると、ヴァルはきょとんとしてそれに答えた。
「え? 言った通りだよ? あのね、聖獣って人間と違って一度に何匹も子どもを産む種族が多いんだ」
ヴァルによると、一度に複数の子どもを産むと、どうしてもヴァルのように体の小さいものや力の弱いものが出てきてしまうようだ。
そうなると、自然の摂理でそうした弱きものは早世してしまうことが多い。
「……じゃあ、ヴァルも……」
「うん。僕もお母さんやお兄ちゃん達と森で戦いを教えてもらってる途中に鳥型の魔物に襲われてさ。大怪我を負って攫われたんだよね。運よくなにかの拍子に落とされてヴィオラに助けてもらったんだけど。普通だったら、絶対死んでたと思う」
さらりと話してくれたけど、絶対恐かったはず。
「そっか……。助かって、良かった」
「うん! ヴィオラのおかげ! ヴィオラ大好き!」
すりすりと甘えてくるヴァルがとてつもなくかわいくて、私のもとに来てくれて本当に良かったと、ぎゅぅっと抱きしめて頭を撫でる。
そんな事情があったなんて知らなかった。
迷子になったのかな、くらいにしか思ってなかったから。
「それでね、お兄ちゃん達が外で会った聖獣達に僕のことを話したみたいなんだよね。ヴィオラのご飯のおかげじゃないかってことも。そうしたら、ここに来たい!ってすっごく言われたみたいだから、よろしくね」
「『よろしくね』ってヴァル、もしかして……」
「うん、大丈夫だよって返事しておいた! ヴィオラは優しいから、絶対力になってくれるよって! だから鑑定の結果が気になってんだけど……。良かったぁ、やっぱりヴィオラのおかげだったんだね!」
にこにこと満面の笑みを返され、なにも言えなくなってしまった。
なんてことだ、もう話がまとまってしまっている。
「おい、ふたりで話を進めず、どういうことか説明しろ」
会話の内容が分からずイライラした陛下に事の次第を話す。
するとお三方は絶句してしまった。
「聖獣が王城に集まるということか?」
「それはちょっと目立ってしまいそうですね。聖獣がたくさん訪れるのは良いことのように思えますが、ヴィオラ殿のことを考えると少し……」
「……ダメってこと? でも、僕、みんなを助けてあげたい……」
陛下とフィルさんが難色を示したのに、ヴァルはしょぼんと肩を落とした。
自分と同じ境遇の聖獣の赤ちゃんを助けたいと思っているのだろう。
陛下とフィルさんは私の平穏な生活のことを思ってそう言ってくれたのだろうが、ヴァルの気持ちを考えると……。
「なら、目立たねぇ場所を提供してやれば良いんじゃねぇか? たしかに稀少な聖獣が何匹も集まってたら、見物人も多いだろうし、ヴィオラの能力のことも広まっちまうからな」
なぁ?とガイさんが私の頭にぽんと手を置いた。
「……そうだな。奥の庭園、森に近い一角を立入禁止にして、そこで聖獣達を迎え入れるか」
「極秘の魔法実験のため、とでも言っておきましょうか。おそらく継続的に食事をしなくてはいけないでしょうから、しばらくは立ち入らないようにと厳命しておかなくてはいけませんね」
「ああ。もしものことを考え、できれば料理を運ぶ際に手伝う者と護衛がいた方が良いだろうな。カレンとリックはどうだ? あのふたりなら口は堅いしな」
「愚弟にはもったいないお役目ですが、たしかにあまり地位の高い者をつけると不自然ですし……。分かりました、ふたりにはそのように伝えておきます」
ガイさんの提案に、陛下とフィルさんが次々と話を進めてくれる。
「それで良いか? ヴィオラ、おまえも助けてやりたいと思っているのだろう?」
「! は、はいっ! ありがとうございます」
陛下には私の迷いがお見通しだったようだ。
「本当!? ヴィオラ、みんなを助けてくれる?」
「うん! 本当に私の料理で助けてあげられるかは半信半疑なんだけど……。できるだけのことはするからね」
ふりふりと嬉しそうに尻尾を振るヴァルをぎゅっと抱き締め、陛下達の方に向き直る。
「ありがとうございます。陛下、フィルさん、ガイさん。ほら、ヴァルもお礼を言って」
「ありがとう! お母さんの契約者、優しい!」
喜ぶヴァルの姿に、陛下達も僅かではあるが頬を緩めた。
「まあ聖獣達を助けることで、なにかこの国の利になるのではという打算的な部分もありますからね。お礼は不要ですよ」
「まあなー。ってなると、むしろ俺達の方がヴィオラの力を貸して下さいって頼まねぇといけないのかもな!」
「そうだな。ヴィオラ、ヴァル。できるだけのサポートはするから、聖獣達を助けてやってくれ」
そんな風に言ってくれる人達で、本当に良かった。
「はい! 頑張りますので、ご協力、よろしくお願いします!」
こうして私は、陛下達の全面協力の元、成長不良の赤ちゃん聖獣を助けるために料理を作ることになったのだった。
「……陛下、あの方のご訪問と被ってしまう可能性はありますが……」
「ああ、分かっている。ヴィオラに余計な心配はかけないよう、慎重に対応しよう」
喜ぶ私とヴァルの傍らでフィルさんと陛下がそんな会話をしていたことには、さっぱり気付かずにいた。
「でも……。あのことは、陛下達にも言えなかったな……」
それは、内心で気がかりなことをひとつ、抱えていたからかもしれない。




