無自覚チートは転生あるある3
「これが、鑑定水晶、ですか?」
「はい。見た目は普通の水晶とそう変わらないでしょう? これに触れると自分のステータスが分かるようになります。ちなみにご本人にしか見えませんので、安心して下さいね」
なるほど、異世界でも個人情報の保護はきちんとなっているらしい。
しかし、フィルさんが保管庫から出してくれた水晶をまじまじと見つめたが、テレビとかで占い師がよく使っている水晶となんら変わりなく見える。
これに触れただけでステータスが分かると言うが、どういう形で見えるのだろう。
そして、私のステータスにはどんなことが書かれているのだろう。
知りたいからと決意はしたものの、やはり平静ではいられない。
そんな私に気付いたのか、ガイさんが私の頭にぽんと軽く掌を乗せた。
「ヴィオラ、あんま心配すんな。俺達がついてるからな」
にかっと笑うガイさんのおおらかさに、少しだけ緊張が緩む。
執務室で話した後、私は陛下にお願いしてフィルさんとガイさんにも料理に付与されているらしき力の話をした。
ふたりとも驚いてはいたが、私の力になりたいと言ってくれて、こうして一緒に保管庫を訪れている。
「美味いだけじゃなくて、成長の促進なぁ……。俺も実はヴィオラの料理を食べた後、元気が出るなーっては思ってたんだよな」
「ええ、私も仕事が捗るようになったと思っていました。ですが、ただ単に栄養をしっかり摂ることができ、美味しい料理でリフレッシュしたからだと、今まで気にしておりませんでした。まさか料理にそんな魔法がかかっていたとは思いもせず……」
浅慮でした……!とフィルさんがどこか悔しそうだ。
成長促進だと思っていたけれど、回復とか集中力の上昇効果もあるのかしら?
なんとなくカテゴリー的には同じ感じはするけれど。
「おい、そろそろ騒ぐのは止めろ。ヴィオラ、緊張感のない奴らで悪いな」
「あ、いえ。おふたりのおかげで和むといいますか、ちょっと気が楽になりました」
陛下ははあっとため息をついているが、これは本心だ。
ひとりでどうしようって思っている時はものすごく大きなことのように感じたけれど、こうして周りに人がいてくれることで、こんなにも心が軽くなるんだなぁって、改めて思う。
「では、いきますね」
右手をそっと水晶に向けて伸ばす。
すると目の前に画面のようなものが浮き出てきた。
「わっ!」
「見えたか? ……というか、おまえ、文字は読めるのか?」
「……そうでしたね」
「あ~。そうだよな、ヴィオラは読めねぇかもな……」
「くそ、見落としていたな……」
突然現れた画面に驚いて声を上げた私が、僻地の村で育ったことを三人は思い出したらしい。
年齢的にも幼いが、生まれた環境からも文字など読めるわけがなかったかと、陛下は頭を抱えてしまった。
そうだ、育った村でも読み書きができたのは、村で唯一のお医者様くらいだった。
その他の村人は、文字になんて触れる機会もなかったから、当然私もそんな教育を受けていない。
けれど。
「えっと……。一応、読めるみたいです?」
私の返事に、陛下達は揃って目を見開いた。
今の今まで気付かなかった。
だって王城に来てからも食堂で働くかヴァルと戯れるか、陛下達やカレンさん達侍女と話をするくらいで、文字を読む機会なんてなかったから。
いや、私が捨てられていた際にくるまれていた布に刺繍されていた〝ヴィオラ〟という文字だけは見たことがあるし読めた。
でもそれは、〝ヴィオラ〟と書いてあるのだと知っているからだと思っていた。
けれど、今は違う。
上手く表現できないが、異世界の知らない文字と数字の羅列に見えるのに、頭の中では日本語として処理されている、そんな感じ。
これはまさか、異世界転生につきものの、〝チート〟というものなのだろうか。
「……なぜだ、と聞きたいところだが、今は止めておこう。それで、どうだ?」
「ええと、ちょっと待って下さいね」
陛下に促され、ステータスの表示された画面をじっと見つめる。
「……え」
そこに書かれていた内容を見て、私は絶句した。
* * * * *
ヴァイオレット・クラッセン
聖獣の契約者 LV 5
契約獣:フェンリル・ヴァル
HP:230//230
MP:1050//1050
魔法:炎属性魔法 LV 2 ・ 水属性魔法 LV 2
風属性魔法 LV 1 ・ 土属性魔法 LV 1
聖属性魔法 LV 6 ・ 光属性魔法 LV 7
闇属性魔法 LV 2
スキル:料理 LV 10 ・ 魔法付与 LV 5
* * * * *
え、えーっと……。
ちょっとこれは……。
どこから突っ込んでいいのか分からないんですけど!?
「どうした?」
「……いえ。ちょっと予想以上のステータスだったといいますか……」
眉を寄せる陛下に、とりあえずそう答えておく。
魔法を使えるのがひと握りだというこの世界で、これだけの種類がズラリと並んだ魔法とレベルの高さ。
ヴァルと契約したことで、レベルが上がったり新しい魔法が使えるようになったのかもしれない。
しかし、ヴァルは幼獣だからそこまで受ける加護や力は大きくないだろうと言っていた。
それでもこの数値。
いや、もしかしたらレベルの最高値が100とかなのかもしれない。
それなら私の魔法レベルは大したことないってことだものね!
「あの、ちなみに魔法レベルってみなさんどれくらいなんですか?」
とりあえずこれだけ確認しておこう。
平均値がどんなものなのかを探るのは基本だ。
「ああ、魔法のレベルを良く知らないのですね? そうですね……城にいる一番の魔法の使い手なら、得意魔法で7くらいでしょうか。最大レベルは10です。魔術師団に入るなら、だいたい3〜5は必要ですね。その他の者なら1か2程度です」
「……ちなみにみなさんどれくらいの種類の魔法を使えるんですか?」
「魔術師団長は五種類って言ってたな。他の魔術師は三種類くらいか?」
はい、チート確定ですね。




