無自覚チートは転生あるある2
「私とヴァル、ですか……?」
ぴくっ!と、ヴァルの耳もそれに反応する。
「聞いたことがあるだろう。そいつは、生まれつき他の兄弟よりも体が小さく、力も未熟だった」
知ってる。
それを聞いた時は胸が痛かったけれど、少しずつ成長して今では他の兄弟達と同じくらいの大きさになり、一緒に仲良く遊べるようになって良かったなぁって安心したところだもの。
「だが、おまえと過ごした一年足らずで、他の兄弟に追いついた。貧しい村で暮らし、食べ物も満足に与えられなかったはずなのに。……そしてそれはおまえにも同じことが言える」
「あ……」
たしかにあの村で、私達の食事が十分だったかと言われたら、そうではない。
僅かなパンと牛乳、それに森で採れるキノコや山菜、時々川で捕れる魚くらい。
しかも私はあの家の実の子ではなかった。
他の家族よりも配分は少なく、それをヴァルと分け合って食べていた。
そんな食生活をしていたのに。
ヴァルは王城で暮らす兄弟と遜色なく育ち、私も特別やせ細っているわけではない。
「あのパン粥に、なにか効果が……?」
考えられるのは、毎日のように作ってヴァルと一緒に食べていたパン粥。
栄養のことを考えて、ミルクで煮て、キノコや山菜を入れたりはしていたけれど。
「その料理を作る時、おまえはなにを考えていた?」
なにを、って……。
『ちょっとでも体に良いものをと考えて、大きくなれますようにと祈ってはいる』
「大きく、なれますように、って……」
呆然としながら、正直に答える。
「そうか。……では、おそらくそれが原因だろうな」
「私が元々持っていた力だということですか?」
「そうだ。ヴァルと契約したことでその力が増した可能性はあるがな」
元々私が持っていた、未知の力。
〝未知〟。
その単語がなんとなく怖くて、自然と顔が俯いてしまう。
加護を受け特別な力を得るということは理解していたけれど、今まで使っていた炎や水の魔法がちょっとすごくなった、そういう話とはわけが違う。
すごーい私! やったー! と無邪気に喜ぶことができたら良かったのかもしれない。
でも、誰も知らないということは、その危険性も分からないということ。
物語の主人公になったみたいだと素直に喜べるほど、私は子どもではない。
「自分の力がどの程度のものなのか、知っておきたいか?」
陛下が私にそう尋ねてきた。
静かな声だったのに、びくりと肩が跳ねてしまった。
「〝鑑定水晶〟というものがある」
「鑑定、水晶……?」
陛下が言うには、この国には手を当てればその人の能力が分かる水晶があるのだとか。
とても稀少なもので、何百年か前にこの国に現れた契約者が作り出して、それ以来厳重に保管されているらしい。
ただ、一年に一度、新年を迎えた日にだけ、保管庫から出されることになっている。
五歳になる貴族の子ども、将来国を担っていくであろう令息令嬢の能力を鑑定するために。
「まあ例外もあってな。おまえのように新たな契約者が現れた時などに使用することが稀にある。一応国の宝だからな、使用権は俺にあるんだ。おまえが望むなら、水晶を使って自分のステータスを見てみても良いと思ったんだ」
さすが異世界、そんなものがあるのね。
でも、知りたいような知りたくないような……。
複雑な気分だわ。
「知りたくないというのであれば無理には勧めない。その力のことも口外しないと誓おう。ヘスティアにもきちんと言っておく」
どうする?と陛下が私に判断を託した。
『特別な力とやらが恐いのならば、俺がおまえの平穏を守ってやろう』
きっと、あの約束を守ろうとしてくれているのだろう。
陛下はとても、優しいから。
「……私、自分のこと、ちゃんと知りたいです」
隠していても仕方がない。
そう思ったから。
「自分にどんな力があって、どんなことに役立って、どんなことに気を付けないといけないのか、ちゃんと知りたい。知って、戸惑うこともあるかもしれませんけど。その時は……」
こんなことを言って、受け入れてもらえるだろうか。
そんな一抹の不安が頭に過って、言葉に詰まる。
「ああ、その時は俺も一緒に考えよう」
それなのに、陛下はなんでもないことのように、私が欲しかった言葉をくれた。
「い、良いんですか……?」
「当たり前だ。おまえに契約を勧めたのは俺だからな、責任は取るさ」
当然だとさらりと言い切った。
「ああ、契約のことを知っているフィルやガイも、話せば一緒に考えてくれると思うぞ? 特にフィルは俺よりも頭が回るからな、良い助言をくれそうだ」
「僕も一緒に考えるよ! お母さんだって、きっと力になってくれるよ!」
だから、大丈夫。
「……はい。ありがとうございます。お願いします」
陛下とヴァルの温かい言葉のおかげで、私はやっと晴れやかに笑うことができたのだった。




