無自覚チートは転生あるある1
すみません、間違ってローのファンタジーで投稿しておりました……。
ご指摘頂いて訂正しております、失礼しました。
教えて下さった方、ありがとうございました!
引き続きよろしくお願いします(*^^*)
「お待たせ、ヴァル! お昼ご飯だよー」
「やったー! 今日はなに? お肉?」
ヴァル用のお昼ご飯を持って中庭に出ると、お腹を空かせたヴァルが尻尾を振ってやって来た。
王城に来てからひと月が経ったが、少し大きくなったみたい。
ここに来たばかりの頃は、兄弟達より少し小さいかな?と思っていたのだが、もうほとんど変わらないくらいだ。
生まれた時は小さくて兄弟達からのけ者にされてしまうこともあったと聞いていたけれど、ここに来てからはそんな様子は見られない。
迷子になって突然離れることになってしまったことが、兄弟との関係に関しては逆に良い方向にいったのかもね。
中庭でじゃれ合っているところもよく見かけるもの。
でも食事の時にこうして呼んでも、ヴァルしか私の元へはやって来ない。
兄弟達からしたら知らない人だもんね、警戒されているのかしら。
ヘスティアは時々触れさせてくれるけど。
実は私、ヴァル達親子に囲まれて、みんなまとめてもふもふしてみたいと密かに思っているんだけどな。
想像しただけで勝手にもふもふする手つきになってしまう。
ああ……皆に私のご飯を食べてもらいながらモフりたい……。
「……なにしてるの、ヴィオラ?」
妄想の世界に旅立っていると、ヴァルに怪訝な目で見られてしまった。
慌てて我に返り、昼食の乗ったお皿を地面に置いてしゃがむ。
「はっ! ご、ごめんねヴァル。はい、今日は鶏の照り焼きよ」
皿を置いた瞬間、ヴァルは目を輝かせて勢いよく食べ始めた。
聖獣様に鶏の照り焼き?と思われるかもしれないが、この小さなフェンリルは基本的になんでもよく食べる。
あ、でも魚より肉派かな?
トンテキもから揚げも気に入っていたし、まるで成長期の男子学生みたいねと双子の弟の姿を思い出してくすっと笑う。
「おいひぃー! やっぱりヴィオラのご飯は元気出る! もう僕、ヴィオラのご飯以外は受け付けない体になっちゃったよー」
「また上手いこと言って……。いつの間にそんな言葉覚えたの?」
とか言いつつ、料理を褒められて悪い気はしない。
聖獣ってグルメなのかしら?などと考えていると、いつの間にかヘスティアとヴァルの兄弟達が側まで来ていた。
「!? どうしたの、めずらしいわね」
とか言いつつ、仲良くなれるかしらと期待が膨らむ。
わくわくしながらヘスティアを見ると、ヴァルの食べかけのお皿をじーっと見つめている。
そしてヴァルや兄弟達となにやら会話しているようだ。
「あ、もしかして食べてみたいと思ってくれているのかしら。ヴァル、ヘスティアはなんて言ってるの?」
「えっとねぇ……。うん、ヴィオラのご飯、お母さん達も食べてみたいって言ってる」
やっぱり!
嬉しくてぱあっと表情が明るくなる。
「僕のご飯なんだけどなぁ……。まぁひと口ずつなら良いよ? でもお兄ちゃん、大っきい口ではダメだよ! ひと切れずつだよ!」
まるでおやつを分け合っている大家族の兄弟のようだ。
くすくすと微笑ましく思いながらその様子を眺めていると、兄弟達が順番にぱくりぱくりと鶏の照り焼きを食べていく。
そして最後にヘスティアもひと口。
「! がうっ!」
あれ? なんか様子が……。
美味しいとか口に合わないとか、そんな反応ではなく、驚いたような仕草と声。
「がう、がうっ?」
「え? う、ううん。そんなことしてないよ?」
そしてなにやらヴァルと話をしている。
戸惑っているヴァルの姿に、私の料理、なにか変な味でもしたのかしらと心配になってきた。
でも、兄弟達はすごく嬉しそうにもぐもぐ咀嚼して飲み込んでいるんだけど。
「ごめんヴァル、私の料理、なにかおかしかった?」
「え? あ、ごめんヴィオラ。ヴィオラにはお母さんの言葉が分からないんだったね。あのね――――」
ヴァルが話してくれた内容に、私は目を見開いた。
「――――なるほど。おまえの料理には特別な魔法がかかっている。ヘスティアがそう言ったんだな?」
「はい。あの、これってやっぱり、私がヴァルと契約した影響なんでしょうか……?」
ヴァルが話してくれた内容は、とても私ひとりで消化できるものではなかった。
そのため、相談する相手は自然と陛下ということになってしまった。
「お母さんが言うにはね、成長促進の効果がかかっているんじゃないかって!」
忙しいのに申し訳ないなと思いながらも、時間を作ってもらって、こうしてヴァルも一緒に陛下の執務室で向かい合っている。
「そんな魔法は聞いたこともないが……。おい、俺が以前話した、聖獣との絆と魔力の相性についての話は覚えているか?」
「あ、はい。ええと、聖獣との繋がりが深ければ深いほど、その恩恵を受ける力が大きくなるという話と、元々契約者が持っている力と聖獣の力の相性のことですよね?」
そうだと陛下は頷いた。
ヴァルと契約してからここ一ヶ月後、私は少しずつ契約のことについて、陛下やフィルさんから説明を受けている。
ちなみに陛下と相談して、フィルさんとガイさんには私とヴァルが契約したことを伝えていた。
陛下が信頼するふたりならば、決して他人に漏らすことはないし、力になってくれるだろうからと。
実際その話をした時に、ふたりは驚きながらも他言しないと言ってくれたし、フィルさんは丁寧に契約のことを教えてくれている。
一緒に過ごすようになって、今までも基本そうだったけど、すごく親切にしてくれる。
まぁ稀少な契約者がいるっていうのは国にとっても利益のあることなんだろうし、丁重に扱わないとと思っているんだろうけど。
でも、それだけじゃない、親しい友人……というか、まるで妹をかわいがるかのように接してくれているなぁって時々感じるのよね。
フィルさんになんて、私のおかげで陛下の健康も人間関係も改善されております!と感謝されたし。
健康はともかく人間関係も?って、よく分からなかったけれど、とりあえず笑って良かったですと言っておいた。
話は逸れたが、とにかく契約について教わってきたことを思い出す。
「一般的には、契約してから一緒に過ごす時間と比例してその力も大きくなることが多い」
それはそうだろう、絆を深めるためにはある程度時間を要するものだ。
「おまえは契約してひと月足らず、ヴァルとの仲は良いだろうが、だからと言って爆発的に絆が深まったわけではないだろう。つまり、特別相性が良く、未知の魔法を生み出したということになるのかもしれん。しかし、そもそもおまえの潜在的な能力が分からんからな、元々おまえがそういう能力を持っていた可能性もある。……どうだ、なにか心当たりはないか?」
「心当たりと言われても……。私、たしかに元々魔力は持ってはいましたが、炎を出すとか、そんな単純な魔法しか……」
陛下にじっと見つめられて、そう戸惑い答える。
いや、でも、待って。
単純な魔法しか使えないじゃない、使ったことがないだけ。
人目のつかないところで料理をするのに炎を出すとか、水を出して顔を洗ったりとか。
今まで、そんな魔法しか使う必要性がなかったから。
「……なにか思うところがあるようだな。ちなみに俺にはあるぞ、心当たり」
陛下の言葉に、考えに俯いていた顔をぱっと上げる。
「ヴィオラ。おまえと、ヴァルだ」




