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【書籍化・改題しました】転生幼女は王宮専属の定食屋さん!〜転生チートで腹ペコなモフモフ赤ちゃん達に愛情ご飯を作りますっ〜  作者: 沙夜
本編

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聖獣様は契約獣!?5

「……無事終わったな。ヴァル、話してみろ」


「うん! ヴィオラ、僕の言葉、分かる?」


「え、ヴァル!? しゃべってる!?」


言葉が通じていることが嬉しいようで、ヴァルはやったやったー!と尻尾を振っている。


「言っただろう、契約獣とは会話ができると。その様子ではちゃんと通じているようだな」


そうか、陛下にはヴァルの言葉が分からないのか。


「慣れてくれば念話もできるようになる。それに、もちろん聖獣同士は会話ができるし、ヴァルとヘスティアは親子だ、姿が見える位置にいれば念話もできる。つまり俺達四人が揃っている場ならば、俺とおまえとで意思の疎通が可能だということだ」


「へえ……。って、そんな場面ありますかね?」


「さあな。おまえが間者に捕まって人質にとられたりした時とかか?」


「縁起でもないこと言わないで下さいよ!」


ははっ!と笑うところを見ると、どうやら冗談のつもりだったらしい。


「まあそんな事態にならないようにはするつもりだが、自分でも気を付けるに越したことはないぞ。聖獣が稀少ということは、その聖獣と契約した者もまた稀少な存在だということだからな。契約したこともあまり口外しない方が良いだろう」


そう、気付いてはいたけれど、やはり狙われることもあるのかもしれない。


陛下のようにヘスティアと戦場に出たりするわけではないから、こちらから教えない限りは私とヴァルが契約したことを知られることはそうそうないと思うけれど……。


「……というか、なぜ陛下は私とヴァルを契約させようと思ったんですか?」


国の利益になるから?


でもそのわりには、口外するなとか、私が力を貸しても良いと判断した時だけ助けてくれたら良いとか言っていたし……。


「おまえ、家族がいないんだろう?」


陛下の答えに、はっとする。


「ヘスティアの子の恩人であるおまえを保護してやりたいとは思っているが、俺はそういつも側にいてやることはできない。親身になって守ってくれる者がいた方が心強いだろうと思ったんだ」


私の、ため?


「怪我したところを助けたヴァルならばおまえを守ってくれるだろうし、おまえも共に辛い暮らしを乗り越えてきたヴァルを信頼しているだろう?」


腕の中でヴァルがこくこくと頷いた。


そっか、私のことをそんな風に考えてくれていたんだ。


「まあここ数日ですっかり侍女達や料理人達と仲良くなったようだから、余計な配慮だったのかもしれんがな。それに、身よりなく生きていくためには、自身もそれなりに力を持っていた方が良い。ヘスティアがヴァルに聞いたと言っていたのだが、おまえ、多少は魔法が使えるらしいじゃないか。契約することで、自分で自分を守れるくらいには強くなるはずだ」


ぶっきらぼうな口調だけれど、その心はとても優しい。


転生して、あの村で育って。


おばあちゃんが亡くなってから、こうやって人の優しさに触れたことなんて久しくなかった。


だからかな、余計にその優しさが胸に染みる。


「ありがとうございます、陛下。そのお気持ち、とても嬉しいです」


お父さん、私、こっちの世界でも頑張れそう。


温かい気持ちになってお礼を言うと、陛下はふいっと目を逸らした。


「……別に大したことはしていない。契約のことについて色々伝えておきたいことはあるが、今は時間がない。また時間をとるから待っていてくれ」


「僕も知ってること教えてあげるから、大丈夫だよ!」


陛下に続いてヴァルも元気にそう言ってくれた。


陛下は表情には出ていないけれど、照れているのか頬が少しだけ赤い。


ぱっと見ただけじゃ分からない優しさ。


本当、お父さんにそっくり。


「はい! 改めまして、これからよろしくお願いします!」


ヴァルとは握手を、そしてヘスティアと陛下には頭を下げて挨拶をする。


「うん! あ、あのさ、ヴィオラ……」


あら、返事はとても良かったのに、どうしたのかしら?


「そろそろ僕、ヴィオラの作ったご飯が食べたいんだけど……」


「え? ヴァル、ここで美味しいご飯を頂いていたんじゃないの?」


予想外の言葉に驚いて聞き返すと、ヴァルはここ三日間にあったことを話してくれた。


聖獣フェンリルであるヴァルは、動物とは違って人間の食べ物を普通に食べても大丈夫らしい。


だから王城の食堂から侍女達が料理を運んでくれてそれを食べていたのだけれど。


「全然、美味しくないの。ヴィオラが作ったものは、美味しいだけじゃなくて元気が出てきたのに。なんでかな?」


なんでかな……って、私に聞かれても。


それに村でヴァルに作ってあげていたのは、ただのパン粥だ。


あれかしら、空腹は最高のスパイスってやつ?


だって村ではお腹いっぱい食べるなんてこと、できなかったもんね。


「分かったわ、今から作ってあげる」


「良いの? やったぁ!」


きゃんきゃんと喜ぶヴァルは、言葉が分かるようになった分、割り増しでかわいい。


「では俺もそろそろ仕事に戻る。ああ、ヘスティアもヴァルを頼むと言っているぞ」


「はい、お時間を頂きまして、ありがとうございました。ヘスティアも、こちらこそよろしくね」


そう言って私がふわふわのヘスティアの毛並みを撫でると、陛下がそっと私の頭に触れた。


「じゃあな。昼飯、楽しみにしている」


う、うわわわわ!


不意打ちで撫でられるの、心臓に悪い!


あたふたする私のことなど気にすることなく、陛下は執務室へと戻って行ってしまった。


ひとりでどきどきするのも馬鹿らしいわねと気持ちを切り替え、ヘスティアともそこで別れ、ヴァルを連れて厨房へと向かうことにした。


その道中、私はせっかく話せるようになったのだからとヴァルと色々な話をした。


数日前までは、ただ、死なないように生きていただけだった。


けれど。


これからの人生は、この国でちゃんと働いて、勉強して、食べて、寝て、楽しんで。


そうやって、〝生きて〟いきたい。


「ヴァル、これからは一緒に、色んなことを楽しみましょうね」


「うん! ヴィオラと一緒なら、僕はなんでも楽しいよ」


今日から新しい絆を結ぶことになったヴァルと一緒に。


「よーし。今日も頑張るわよ!」


この世界で、幸せになれるように。





* * *


ヴィオラと別れたシルヴェスターが執務室に戻ると、もうすでにフィルが出勤し机について仕事をしていた。


「おや、今日は遅かったですね」


「ああ、少し用があってな」


フィルはそれを特別怪しむこともなく、そうですかとだけ返した。


シルヴェスターも動じることなく執務机につき、書類の束に目を通していく。


ヴィオラとヴァルのこれからのことを考えながら書類をぺらっとめくった時、扉がノックされた。


シルヴェスターが入室の許可を出すと、扉を開けて現れたのはカレンだった。


「おはようございます。陛下、ヴィオラ様のことで少しご報告したいことが……」


ヴィオラの名前に反応したシルヴェスターは、ぱっと顔を上げると扉を閉めさせ、要件を促した。


「ソフィアとミーナから報告があったのですが……」


カレンの話を聞いたシルヴェスターとフィルは、揃って眉を顰めた。


「……ヴィオラ、か。少し調べてみるか」


「そうですね。しかし陛下、あの件についてもお忘れのないようお願いします」


考え込むシルヴェスターに同意しつつ、フィルは近々やって来る客についても考えておいてほしいと釘を刺した。


「そうだったな。はぁ……。厄介なことにならなければ良いが……」


ようやく国が少しずつ安定してきた時、このまま大きな乱れが起きないことを願いながら、シルヴェスターは窓の外の空を見上げた。


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