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転生したら、虐げられ幼女!?1

「いらっしゃいませー!」


「おう、すみれちゃん!今日も手伝いかい?えらいねぇ。肉じゃが定食頼むよ」


「ありがとう、前田のおじさん。お父さーん、肉じゃが一丁!」


あいよー!と厨房からお父さんの返事が聞こえた。


私は相馬(そうま)すみれ、二十一歳。


都内の下町にある“定食屋そうま”の娘だ。


大学生の私は、実家近くの大学に通いながら家業の定食屋を手伝っている。


「すみれちゃん、武ちゃんが帰って来るのが待ち遠しいだろ。頑固ジジイの相手も大変だよなー」


「そんなことないですよ。早く帰って来てほしいなぁとは思いますけど」


武ちゃんというのは、相馬武尊(たける)、三つ上の私のお兄ちゃんのこと。


調理師の専門学校を卒業して、今は別の店で修行中。


「誰が頑固ジジイだこの野郎」


ダン!と常連の山崎のおじさんのテーブルにサバ焼き定食を置いたのは、私のお父さん、相馬丈太郎(じょうたろう)


「丈ちゃん、顔恐いぞ!元々恐いけど二割増だ!」


わははと笑うのは、向かいに座る佐藤のおじさん。


そう、私のお父さんはものすごく顔が恐い。


体格も良いし、初対面の人からカタギじゃないよね?と言われることもしばしば……。


でも料理の腕は一流だし、優しくて頼りになる、大好きなお父さん。


それに、お父さんてば意外と……。


「むっ。コロ助のエサの時間だ。おい、オメェ等、それ食ったらすみれに絡んでねぇでさっさと帰れよ」


肉じゃが定食を運び終えると、お父さんは常連さんに悪態をつくのを止め、くるりとまわれ右をしていそいそと裏口の方へと向かった。


店の裏口を出たところによく野良犬がやって来るのだが、お父さんはコロ助と名付けてかわいがっている。


「相変わらずだな、丈ちゃん。あんなナリして動物好きとか、似合わねぇんだけど」


「アレだよ、不良が雨ん中捨てられた子犬拾うヤツ。ギャップ萌え?っつーのか?」


「みどりちゃんも丈太郎のあーゆうところに惚れたって言ってたよなァ……」


山崎のおじさんの発言で、しんみりとした空気が流れる。


みどりちゃんというのは、五年前に亡くなった私のお母さん。


享年四十二歳。


小さくて、かわいくて、笑顔が眩しい定食屋のアイドル、この下町のマドンナって呼ばれていた。


お父さんと並ぶと、“美女と野獣”ってよく言われてたっけ。


「いつまでも若くて、四人の子持ちには到底見えなかったよなぁ……」


「“美人薄命”たぁ、よく言ったもんだぜ」


ふっと厨房の隅に置かれたお母さんの写真に目を留める。


写真の中のお母さんは、いつも笑顔だ。


「……あ、頼まれてた出前の時間だわ。お父さーん!三丁目の上杉のおばあちゃんのところに持って行くから、そろそろ準備お願い。ついでにその帰り、竜と虎にお弁当持って行くから!」


勝手口の方から、おう!と返事が聞こえた。


よし、じゃあおかもちの用意をして、お弁当も詰めなきゃ。


竜と虎とは、双子の弟、竜之介と虎太郎のこと。


高校二年生のふたりはそれぞれサッカー部と野球部に入っているのだが、部活前にお腹が減るからって、お昼とは別にもうひとつお弁当を用意している。


今日は私が寝坊しちゃって用意できなかったから、お昼はコンビニで買ってもらって、部活前のものは出前ついでに持って行くねって約束したのよね。


「すみれちゃんは良いお姉ちゃんだねぇ。家事もして、弟の面倒も見て店の手伝いもして。みどりちゃんに似て、本当に良くできた娘さんだ」


前田のおじさんの誉め言葉に、いやいやと首を振って眉を下げる。


「あはは。私はお兄ちゃんや竜と虎みたいに、特に取り柄もないから。これくらいのことはしないと」


お兄ちゃんはお父さんに似たのか料理の才能があるって学校でも一目置かれていたし、竜と虎は部活でレギュラー入り、しかもエースナンバーをもらっている。


対して私は平々凡々。


才能豊かな兄弟達に比べ、私には特出するものなどなにもない。


「なに言ってんだい!謙虚なところもそっくりなんだから……。丈太郎に似なくて良かったぜ」


「うるせぇ!おい、すみれ。準備できたぞ」


山崎のおじさんの発言に、厨房からお父さんの声が飛ぶ。


「ありがとう。じゃあおじさん達、ゆっくりしていってね」


料理を受け取りおかもちに入れるとふたつの弁当も忘れずに持ち、常連のおじさん達に挨拶をして店を出る。


「……良い子に育ったな」


「ふん。みどりのおかげだ」


「良い嫁さんになるぞ、きっと」


「嫁ぇ!?馬鹿野郎!すみれはまだ二十一だぞ!」


「みどりちゃんだっておまえと結婚したの、二十二の時だったじゃねーか」


扉を閉めると同時に、店の中でそんな会話が行われているとはつゆ知らず、私はヘルメットを被って配達用のバイクに乗った。


高校を卒業して免許を取ったのだが、これがとても便利なのだ!


少しくらい遠いところへの配達でも、料理が温かいまま提供できるしね。


左右の確認をしてバイクを走らせる。


上杉のおばあちゃん家は五分くらいのところ。


「わざわざありがとうねぇ、すみれちゃん」


「こちらこそ、いつもありがとうございます。たくさん食べてね!」


無事に料理を届け終え、次は竜と虎の通う高校へ。


少し遅くなっちゃったかな。


まあこれくらいの量、あのふたりなら、五分くらいで平らげちゃうんだけど。


ガツガツとご飯を掻き込むふたりの姿を想像して、くすりと笑みを零す。


部活が休みの日は店の手伝いもしてくれる、とても良い弟達。


今日も頑張ってほしいなと思いながらバイクを走らせ、高校のすぐ側の交差点で止まる。


信号が青になり、アクセルをかけ、走ろうとした時。


「え?あ、危ない‼」


一匹の白い猫が道路に入り込み、バイクが走る先を歩き出した。


このままじゃ轢いちゃう!


とっさに急ブレーキをかけた私の視界に、真っ赤な車が飛び込んできた。


反対車線から。


つまり、信号無視。


ぶつかる、そう頭では分かっていても、体が動かない。


キキ―――――ーッ!


ドンッ!


鈍い衝突音がして、全身が焼けるように痛かったことだけは覚えてる。


高校のグラウンドが見えて、ヘルメットが飛んで。


ああ、もっとしっかりベルトを締めなきゃいけなかったなぁって思って。


それから。


私の意識は、白い世界へと飛ばされてしまったのだった。

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