聖獣様は契約獣!?3
予想外すぎる内容に、思わず叫んでしまった。
あんぐりと口を開けたままの私に構わず、陛下は続ける。
「まず契約を結ぶ方法だが、主人となる者が名を与え、聖獣がそれを受け入れれば契約は成立する。だがひとつ例外もある。基本的に成獣であれば聖獣自身の意思で契約を結ぶことができる。しかし幼獣と契約を結ぶためには、その親の許可を得なければいけないんだ」
へ、へえ。未成年との契約には保護者の許可が必要ですってこと?
なんだか人間みたいな話ね。
まあでも、聖獣とはいえ幼い頃はまだ未熟なんだろうし、迂闊に変な人間と契約するようなことになったら困るもんね。
ほら、特別な力と加護を受けるって話だし、変な奴に捕まったら世界を滅ぼしかねないっていうか……。
想像するだけでも恐ろしい。
保護者の許可が必要、これ大事だわ!
……ん?
ちょっと待って、ということは……。
「おまえはこのチビに名を与えた。このチビもそれを受け入れている。そしてヘスティアもそれを許可した。つまりこのチビ、ヴァルは儀式さえ行えば、おまえの契約獣になれる」
「いやいやいや! ちょっと待って下さい‼」
陛下の言葉に、即座にストップをかける。
「おかしいでしょう!? こんなちんちくりんな子どもに契約獣って! 特別な力に加護って、そんなの私の身に余ります! それに私、今は子どもだから無害かもしれませんが、ひょっとして成長したらとんでもない悪女になるかもしれないですよ!? よく考えて下さい!」
ヴァルとは確かに仲良しだし、これからも一緒にいられると嬉しいとは思っている。
だけど契約だとか特別な力だとか言われても……。
陛下のように国の大事に関わるような人間でもないし、できたら大人になっても料理に携わって平穏に過ごしていきたいなーくらいにしか思っていないんですけど!?
「ちんちくりんという言葉は否定しないが」
「いや、そこはどうだって良いんですけど」
一番重要でないところを拾ってなにを言うのかこの陛下は。
胡乱な目つきで睨みつけると、陛下はこほんと咳払いをした。
「おまえ、普通の子どもではないだろう」
突然の核心を突く台詞に、ぎくりと肩を揺らす。
「誰も知らない料理の数々に、子どもらしからぬ言動。知識も豊富で思慮深さもある。一体おまえは何者だ?」
まずい、疑われている。
たらりと汗が流れたところで、「――――と不審に思ったのだが」と陛下が言葉を継いだ。
「聖獣であるヘスティアが、おまえを俺達や国に害を及ぼすような悪い人間ではないと言うのでな。親子揃っておまえを気に入っているようだし、ここ数日の様子を見ていても不審な行動がなかったため、契約を結んでも害はないと判断した。だが気にはなるからな、直接話がしたいと思っていたところにおまえの方からやって来てくれたというわけだ」
セ、セーフ? これはセーフなのかしら?
しかし怪しまれていることに変わりはない。
下手に誤魔化してもこの陛下にはなんだか見破られてしまいそうな気がする。
でも、「私、実は転生者なんです~」なんて言って、頭がおかしい奴なんだなと思われるのは困る。
どうしたものかと悩んでいると、陛下が顔を覗き込んできた。
「なにを悩んでいるのか知らんが、この先もここで暮らすつもりでいるのならば、早めに言ってしまった方が楽だぞ」
私の目をしっかりと見ながら、きっぱりと言う。
「ヘスティアがそこのチビから聞いて、それを俺も聞いているからな。今までのおまえの暮らしについてはすでに知っている。頼れる大人がいないのだろう? なんなら俺が保護者になってやっても良い」
だから話してしまえと、その深いルビーの瞳が語っている。
自分を頼れと言われているようで、口が自然と開いてしまった。
「……そんなわけがないって、鼻で笑って馬鹿にしませんか?」
「ここまで言わせたんだ、笑ったりはしないさ」
「保護者になって下さるっておっしゃいましたけど、私、ここにいても良いんですか?」
「ああ。だが、父とは呼んでくれるなよ。多少老けて見られるが、俺はそんな年ではない」
陛下は二十一歳、前世の私と同い年なんだよね。
そんな人、お父さんなんて呼べるわけないじゃないか。
「……おい。笑うなと言ったくせに、おまえが先に笑うな」
「ふっ、すみません。陛下もそんなことおっしゃるんだなと思って」
無意識に笑ってしまっていたのだなと、陛下の言葉で気付いた。
ここまで言ってくれているのなら、前世の記憶についてはともかく、料理のことくらいは真実に近いことを話しても良いのかもしれない。
この先も前世でのような料理を作るのなら、その方がなにかと都合が良いだろうし。
そう心を決めた私は、陛下の目をしっかりと見つめて見上げる。
「私、料理に関することだけ、この世界にないはずのものが頭の中に突然浮かんでくるんです。作り方とか、調味料に関する知識とか。それがどうしてなのかは、分からないんですけど……」
前世の記憶ということをぼやかしてそう告げる。
信じてもらえるのかは、分からないけれど。




