料理と人間関係って、意外と似てるよね4
「ええっと、マヨネーズはこれだけでももちろん美味しいのですが、他のドレッシングも作れるんです。今日は胡麻ドレッシングを作ってみましょう。ドレッシーではなく、ドレッシングですよ? 生野菜にかけて食べるんです」
言い間違いがあるということは、ドレッシングというものも存在していないのだろう。
生野菜をそのまま食べるだけなら、野菜嫌いな人が多いのも納得だ。
陛下も昨日の浅漬けは食べていたし、ひょっとしたらドレッシングやマヨネーズをかければキャベツやきゅうりも食べられるかもね。
「作り方は簡単です。胡麻にマヨネーズ、砂糖と酢、しょう油とごま油を少し、これを混ぜるだけです。胡麻たっぷりだと美味しいですよ!」
胡麻は栄養価も高いしね、ぜひともたっぷり摂ってもらいたい。
「あ、すり鉢もありますね。せっかくなのですりたての胡麻で作りましょう! 胡麻はすった方が栄養の吸収が良く、しかし酸化しやすいので食べる前にすった方が良いんです」
「し、師匠はそんなことにも詳しいのですな……! 最後の方はなにを言っているのかよく分かりませんでしたが」
料理長さんが驚きながらも戸惑う様子を見せた。
そうか、前世の栄養学はこちらでは通用しないのか。
なにを隠そう、私は大学で栄養・食物学を学んでいた。
そのためこういう話になると止まらなくなってしまうのだ。
「あ、ごめんなさい。ええと、とりあえず大抵のものはできたてが美味しくて体に良いって話です!」
発酵食品とかは別だけど。
そう心の中で付け加えて話せば、なるほどと料理長さんも納得した様子だ。
「さあ、ではドレッシングもこれで完成ですね。付け合わせもOK、みそ汁も良さそうですし、そろそろ鶏肉を揚げていきましょうか」
キャベツは十分に切れたみたいだし、みそ汁も味見をしたがバッチリだ。
調味料を漬け込んだ鶏肉に溶き卵を加えて混ぜておき、別のバットに小麦粉と片栗粉を混ぜたものを用意する。
「垂れてくる卵をしっかり切って粉をまぶし、余分な粉をふるい落として加熱しておいた油で揚げます」
この瞬間は何度作ってもどきどきする。
静かに油の中に入れた時のじゅわっと鳴る音。
食欲をそそる香りが立って、お腹が鳴りそうになる。
「う、美味そう……」
「この香りだけで分かる。絶対美味い」
料理人さん達の会話に思わず笑みが零れる。
前世でも、から揚げを作っていると毎回匂いにつられて弟達がやって来てたっけ。
「揚げたて、味見してみます?」
「「「「「いただきます!!」」」」」
素直すぎるガタイの良い料理人の皆さんに、声を上げて笑ってしまった。
「うめぇ……! うますぎる‼」
「俺、これなら百個くらい食える」
「馬鹿野郎、独り占めする気かおまえ!」
サクサクジューシーなから揚げを頬張りながら、涙を流す勢いで味を噛みしめるその姿が、面白くて仕方がない。
「ほらほら、これは味見ですからね? 揚げたものをバンバン盛り付けていって下さい」
仕事だということを忘れちゃいけませんよと一応釘を刺しておく。
「あ、そうだ。添えてあるレモンを絞れば、百五十個くらい食べれちゃうくらい美味しくなりますから、後で試してみて下さいね!」
「「「「「絶対やる!!!」」」」」
テンション最高潮となった料理人の皆さんは、そろそろ昼食にやって来るはずの騎士達の分を手際良く盛り付けて準備していく。
早く終わらせてつまみ食いしようとしているのだろう。
それくらい美味しいと思ってくれたことが嬉しくて、揚げながらくすくすとこっそり笑う。
「こほん。部下たちがすみません」
「いえいえ。それに味見とつまみ食いは作る人の特権ですもの」
恥ずかしそうにする料理長さんに微笑む。
「陛下と、騎士さん達のお口にも合うと良いのですが」
「それは無用な心配というやつですな。むしろおかわりの嵐が来るのではないかと危惧しております」
「それは……大変そうですね」
おばちゃんおかわり!と殺到する男子校の食堂みたいなものかしら?と想像して苦笑いする。
リックも来てくれるだろうし、後から味の感想を聞いてみたいところだ。
「あ、そういえば陛下の分はどうやって持って行ったら良いのでしょう? 私、ここから陛下の執務室への道が分からないのですが……」
せっかくだから作りたてを食べてほしいのだけれど。
「ああ、それなら……」
「失礼します。料理を取りに参りました」
タイミング良くカレンさんがワゴンを持って現れた。
「ヴィオラ様、お疲れ様です。陛下とローマン卿の分をお願い致します」
「あ、はいっ!」
最後のから揚げを揚げ終え、手早く盛り付けてワゴンに乗せていく。
「とても美味しそうな香りがしますね。それに、ローマン卿の分もヴィオラ様がお作りになったのですか?」
「あ、いえ。実は陛下の分だけでなく騎士さん達の分も一緒にと料理長さんが言って下さって。皆で分担して作ったんです」
簡単に事情を話せば、カレンさんは驚き目を見開いた。
「まあ……あの気難しいことで有名な料理長が? 陛下といい、ヴィオラ様はどんな魔法をお使いになったのですか?」
どうやらかなり珍しいことのようで、そんな風に言われてしまった。
珍しい料理に興味を持って下さったんでしょうねと、当たり障りのない答えを返す。
「さ、さあ! 料理が冷める前にお願いします!」
「あ、そうですね。失礼致しました。では参りましょうか」
「?」
参りましょうってことは、私も……?
「もちろんヴィオラ様もご一緒にお願いします。あ、お料理はもうワゴンに乗せましたので大丈夫ですよ」
……それは食事も一緒に、ということ?
それってどうなの?と思いながらもとりあえず大人しくカレンさんについて行くことにしたのだった。




