料理と人間関係って、意外と似てるよね3
ということで、料理長さんに、みそ汁班、キャベツ班、から揚げ班、マヨネーズ班に分けてもらった。
ちなみにみそ汁班は、昨日私が作るのを見て覚えていたため、ほぼ口を出さずにお任せすることにした。
「昨日の今日で我々に任せて下さるなんて感激です! 失敗しないよう、細心の注意を払って作ります!!」
みそ汁を失敗ってなかなかないから大丈夫ですよ?
そう言いたい気持ちを飲み込んで、よろしくお願いしますねと笑顔で頼んでおいた。
そんな反応に対してもなぜか感激されたのだが、触れない方が良い気がして、そっとしておくことにした。
キャベツ班はひたすら千切りキャベツとレモンのくし切りを、唐揚げ班にはひと口大の大きさに鶏肉を切っておいてもらう。
「ではこちらではマヨネーズを作りましょうか。材料はこれです」
今日は基本のマヨネーズを作るつもりなので、卵黄、塩、酢、油、これだけ。
マヨネーズ班の方達がこんなものでなにを……?という表情をしている。
「まず卵黄と塩と酢をホイッパーで混ぜて下さい。もったりするまでお願いします」
見るからに剛腕そうな料理人さんがホイッパーを手にして混ぜていく。
うんうん、良い感じ。
「では次に油を少しずつ足していきます。入れすぎないように、最初は少量ずつ、足したら混ぜて、足したら混ぜてを繰り返します」
「あ、油ですか……?」
「はい。大丈夫ですから、お願いします」
不安そうな料理人さんに頷きを返す。
まあそうよね、普通に考えたら油でギトギトになるんじゃないかと思うよね。
たしか乳化っていうんだっけ、この材料だけであのマヨネーズになるのだから不思議である。
「な、なんかクリームみたいになってきたぞ……?」
ボウルの中を覗き込めば、おお、良い感じ。
「さすが、お上手ですね! 私の力じゃこうは上手くいかないので、お手伝いして頂いて助かりました!」
幼女の力じゃかなり難しかったもの。
褒められて気を良くしたのか、それから料理人さんはかなり張り切って混ぜてくれた。
しかし、さすがに十分くらい経つと、ようやく疲れが見えはじめたため、混ぜる人を交代し、足す油の量を増やして混ぜていく。
この調子なら三十分もかからないかも。
「先生! 鶏肉、切り終わりました」
「あ、はい! ではこのまま続けて混ぜていて下さい」
マヨネーズはひとまず任せておいて、から揚げ班の方へ。
「たくさん切って下さって、ありがとうございました。ではこれに味を染み込ませていきます」
本当は半日くらい漬けておきたいところだが、今回は仕方がない。
「塩こしょう、おろししょうがにおろしにんにく、しょう油と酒を混ぜたものにお肉を浸してもみ込み、しばらく漬けおきます」
「そ、そんなに色んなものを混ぜるのですか?」
そんなに多いかしら?と思ったが、よくよく考えれば、この世界の常識は塩こしょうで焼くか生で食べるかくらいの味付けだったことを思い出した。
うーんと少し考えてから、口を開く。
「分量を間違えなければ、大丈夫ですよ。人間もそうじゃないですか。色んな人がいて、主張したり譲ったりして、なんとなく良い感じの仲間になるでしょう?」
人間関係だって、主張しすぎても駄目だし控えめすぎても駄目。
お互いの妥協点を見つけて、仲良くなっていくもの。
見た目や第一印象で仲良くなれない!と思っていた人とも、話してみたら意外と……なんてこともままある。
「料理だって相性の良い組み合わせがあったり、合わない組み合わせがあったりします。でも、合わせてみたら意外と美味しい!っていうものもありますから、色々試してみると面白いですよ」
そう、自分で調味料の配合を考えるのも楽しいものだ。
最初から、これは合わない! たくさんのものを混ぜすぎてはいけない!と思わずに、やってみれば良い。
「自分だけの“美味しいレシピ”が見つけられたら、嬉しいですよ。そしてそれを誰かに食べてもらって喜んでもらえたら、もっと嬉しくなります!」
前世のお父さんも言っていた。
『俺はこんな面してるからな、恐がられることも多い。でも、俺の料理を食べてお客さんが笑顔になってくれるんだ。俺はその顔が見たくて、定食屋やってんだ』
定番のメニューだけでなく、いつだって新しいものを考えていたお父さん。
お母さんや私達兄弟のこともたくさん笑顔にしてくれた、お父さんの料理。
私もいつか大切な人と、美味しいねって、食卓を囲みたいなって思ってた。
今世でその夢が叶うかは、分からないけれど。
「とにかく今は、美味しいご飯を陛下に作って、皆さんにも食べてもらいたいってところから始めたいなと思っています。改めてですけど、皆さんよろしくお願いします!」
陛下の気まぐれだったと思う。
でも、これが転機だと思って頑張ってみたい。
そんな気持ちで、再度皆に向かって頭を下げる。
しかし、シーンと静まり返ってしまったのを不思議に思って、ぱっと顔を上げる。すると。
「な、なんと素晴らしい……!!」
感動に震える料理長さんが目に入り、ぎょっとする。
「この幼さでそのような達観したことを……! ヴィオラ先生、いや、師匠と呼ばせて下さい!」
がばりと両手を取られ、ぶんぶんと上下に振られる。
う、腕、抜けちゃう……!!!
「りょ、料理長! 先生……いえ師匠の腕が千切れてしまいます!」
「むっ!? おお、大変申し訳ありません。興奮してしまい、つい」
抜けるどころか千切れるような力だったらしい。
けれど、とりあえず止めてくれた人のおかげで私の腕はなんとか無事である。
「ヴィオラ様〜! もう油全部入れ終わってクリーム状になりましたけど、まだですかぁ〜?」
「あ、はいっ! わ、すごい、オッケーです!」
ずっとマヨネーズをかき混ぜてくれていた料理人さん、さすがです……!
固さも丁度良い感じで、まさしくマヨネーズ!
他の方々も物珍しそうに覗いてきたので、試しにとスライスしたきゅうりにできたてのマヨネーズをつけて試食することに。
「なんだこれ!? めちゃくちゃ美味い!」
「ウマっ! きゅうりがいつものきゅうりじゃない……!?」
目を輝かせて大絶賛してくれているところを見ると、どうやらマヨネーズはこの世界でも十分受け入れられそうだ。
「手作りなのであまり日持ちはしませんけど……。二、三日で使い切った方が良いかもしれませんね」
「「「「「いや、一日でなくなるだろコレ」」」」」
満場一致でそう返され、苦笑いを零す。
この様子だと、マヨラーが増えそうな予感だ。




