セントラル・タウン
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中学校の授業が終わると元気な生徒たちが更に一段と元気を出した。金曜日なので授業は午前だけだし明日は休みだから、自然と心も弾む。下校の帰り支度をしながら1人の女生徒が言った。
「ねぇ、センタンに行こうよ」
「せんたんって何?」
今日転校して来た女生徒が訊いた。
「大雑把に言うと、無料でアイスやお菓子にジュースも飲めて、クレープなんかも食べられて遊べるところなんだ」
「無料なの?」
「うんそう、私たちに関係するところは遊園地や水族館もぜーんぶ無料」
転校して来た女生徒の顔がほころび輝いた。
その場にいた、その他4人の生徒もそれぞれに賛成の意を表明して華やいで決まった。
S市のE駅の西口の改札を出るとそこからが「総合複合型施設群セントラル・タウン」のことで、通称「センタン」と呼ばれている。そして、敷地の一部は海に面して海岸もある。
そこは、ある物を述べるより、無いものを述べる方が早いところだ。基本的に有料なのは住居にショッピングセンターぐらいである。その他はすべて無料で誰でも利用出来る。中でも敷地内の私立幼稚園に私立保育園、小学校から、中学校、高等学校に大学院までに至るすべて同じ系列の私立が存在する。大学院の卒業者はグループ企業の将来の幹部の席が約束されている。1人暮らしの学生は住居も無料なので、競争率が高くて、一流どころのスタッフが教えを垂れている。
目的地別の2連結のシャトルバスが列を成して停車してドアが開いてる。そして、引っ切り無しに発着が繰り返されている、運転士は既に運転席に座りお客さんが乗車すると、声を掛けてあいさつする。そして、どうぞお好きな席へと言いお客さんを促す。
駅からのシャトルバス以外では自家用車で来るお客さんも当然あり、広い駐車場はあまり歩かないで済むように20階建てで、1階がP-1で、2階がP-2、3階がP-3のように符号で整理されている。
とても広大な敷地と言うのも控えめな表現が似合う超広大な敷地には、大小幾つものビルに、マンションや、様々で大規模な商業複合施設にショッピングセンターがある。敷地内をの2連結のシャトルバスが運行していて、そのシャトルバスは施設のある所は常時くまなく運行している。まだまだ広大な更地があり発展途上で、更なる施設があちらこちらで建設中である。
敷地内の所々に整備の行き届いた公園があり、図書館、遊園地、映画館、プラネタリウムに水族館など誰でも利用出来ていつも人で賑わっている。
特に気が配られているのは安全面で、敷地内には判りやすく多数の防犯カメラが設置されている。更に事件、事故などが発生しないように、覆面セキュリティと制服セキュリティが大勢任務に就いている。
セントラル・タウンはKコンツェルンが管理運営している。大財閥で企業規模全体では300万人超が所属している。そこから上がる莫大な利益を惜しみなく、社会に還元するのが当然の使命のようにひたすらに頑張っているように見える。と言ってもKコンツェルンの財力からすると、微々たるものであるのは間違いのない事実であるのだから。因みにKコンツェルンによると、この施設群に完成形はないと言っており、状況に応じて無限に変化させていくとしている。
総勢6名の少女の一団がお越しになられたようだ。
「到着したよー」
説明するが、少女はきょとんとしてる。
「到着って、ここ駅じゃん」
「ここはまだ駅だけど、改札を出るともうセンタンなんだよ」
「えっ!ふーん。そうなんだ、それからどうするの?」
少女は単純な疑問を提出する。
「まぁいいから、今日は私たちがガイドを務めさせていただきますので、何卒、宜しくお願い申し上げます」
「・・・はい、お願い申し上げます」
少女はぺこりと首を垂れた。
「まず、シャトルバスに乗ります。そこからですね」
と言うと今日転校して来た少女の手を引っ張りにっこりと微笑んで、遊園地行の案内板のところに向かい、皆も後に続きバスに乗車した。車内は混んでいた。
今日転校して来た少女は窓に顔を向けて物珍しそうに流れる景色を眺めていた。バスに乗車してから別の女生徒が言う。
「私、お腹が空いちゃった。今朝はご飯少ししか食べられなかったのよ」
「そうなんだ」
「私はデミグラスソースのオムライスにする」
「結構がっつり行くのね。ついでにオムライスと牛丼のセットを10皿にチャレンジしなさいよ」
「オムライスと牛丼のセットなんて聞いたことないわ」
「でもさぁ、お米10キロをお茶漬けにして、一度に食べちゃう強者が世の中には居るのよ、驚いたわ」
「相撲取りの人?」
「ううん、一般の男の人なんだけど、随分と不経済よね」
「全くそうね、10キロって言ったらだいたい66合ぐらいだし、炊くのも一苦労だわ」
「大学の学食とか、社員食堂や、病院の調理場で使うような炊飯器じゃないと無理ね」
「それにお茶漬けで食べるってことは、実際にはお湯に浸っているわけだから10キロ以上をお腹の中に入れてるわけよね」
「すっごーい」
「私その人はパス1」
「アハハハッ」
「私はクレープがいいわ」
「私はチョコレートパフェ」
「私も」
各々が言った。
そうして少女たちが会話している間にもバスは進行し、まもなく遊園地到着を女性の声でアナウンスが告げた。
バスが目的地に到着した。目の前には観覧車にジェットコースター、フリーフォール、ウェーブスウィンガーなどのアトラクションが直ぐに見えた。
「とりあえず荷物をロッカーに預けておこうよ」
「そうだね」
そして、サービスルームは5階建てで1階と2階は全てロッカーで、3階~5階が飲食のサービスルームになっている。まず、サービスルームに向かい入ると、中には沢山の荷物が入れられるように大型のロッカーがずらりと並んでいる。判りやすいように1から順番に数字があり、入ってすぐの1の列にあるロッカーに入れた。カバンを入れ終わると今日転校して来た少女が尋ねた。
「これどこにコイン入れるの?」
「これは掌紋認証式だから、お財布とか貴重品も入れておくと良いと思う安全だから。掌を画面に当てると掌紋認証が働くからコインも鍵もいらないんだ。番号だけは覚えておいてね、と言っても皆同じ列だから大丈夫だと思うけど。荷物を出すときには、また掌を当てればそれで開錠されるから」
「すごいのねぇ」
少女がいかにも感心したように言う。
「さぁ、行こう」
少女は先頭に立ってロッカーの入り口の横にあるエスカレーターに向かった。3階に着くと自動ドアが左右に開き見渡す限りフードコートで、扇形の建物になっていて、入り口付近から左右にずらりとフードショップが軒を連ねている。自動販売機も多数設置されており、ボタンを押すだけで、飲み物が出て来る。入って正面には全面ガラス張りのカウンター席とボックス席が設けてあり飛行船が飛行しているのが見えて、対面のカウンター席からは遊園地がよく見える。
「とりあえず席を確保しておこうか」
「席何処にする?」
「飛行船が見えるところがいいなぁ」
「それから、3人交代で行かない?」
「そうだね、そうしよう」
少女たちはそれぞれ目的のフードショップに向かった。間もなくすると先発隊が食べ物を持って帰って来た。
「お待たせ、どうぞ行って来て」
パフェやらクレープを持っている。
「お帰り、先に食べてていいよ」
「ううん、待ってるよ」
「じゃあ、行って来るね」
そして、残りの3人が勢いよく出発した。程なくして後発隊も帰還した。
「お待たせ、さぁ食べよう」
「うん、頂きます」と皆言って食べ始めた。
天候の良い風もあまりない穏やかな日には、上空を飛行船が安全な距離を保ちながら飛行している。少人数の乗船しているお客さんには飲み物とお茶請けが提供されるが、アルコールは無い。お客さんがサービスカウンターに行くと、ショーケースにはケーキ、コーヒーゼリー、プリンなどが並んでいるし、ソフトクリームもある。お客さんは思い思いに飲み物とお茶請けを受け取っては窓際のカウンター席に座り景色を眺めながら口にしている。
普段は見ることの出来ない景色を眺めてお茶や茶菓子を口にするのは正直楽しいものだ。今日は全部で10機あるカラフルで色違いの飛行船がフル稼働している。1回の飛行時間は1時間足らずではあるが、特に人気のあるイベントの一つだ。飛行船の中には大勢乗せる事は出来ないので、順番待ちが致し方ない盛況ぶりなのである。
一方、こちらは親子合わせて4人で遊んでいる。今、飛行船から降りたばかりで、景色の感想などを述べている。
「ここはいつ来ても本当に楽しいわ」
母親が言う。
「そうだね、本当にそうだ。こんな所はなかなかない。ところでこれからどうしようか・・・お前たちはどうしたい?」
父親はいかにも感心したように言ってから、子供たちに尋ねた。
「プラネタリウムに行きたい」
姉の方が答える。
「お前はどうだい」
弟の方に尋ねる。
「うん、僕もプラネタリウムがいい」
「それならシャトルバスに乗って行こう」
そう言うとバス乗り場に向かった。バス停に行くと丁度バスが停まっていたので乗り込んだ。バスが発車すると子供たちは流れゆく景色に目を移した。7,8分ほど走るとプラネタリウムに到着した。
そこには2種類のドームのプラネタリウムが在り、水平型と、傾斜型である。
「どちらから入ろうか?」
父親が皆に尋ねた。
「傾斜型からにしない?そして後から水平型の方に行こうよ。どう?」
母親が代表して答えた。子供たちも異論は無いようである。
「じゃぁ、そうしよう」
案内には次の上映時間までは10分待ちとあったので、家族は列に並んだ。やがて順番が来て館内に入り、家族はスタッフの案内でドームの中央付近に着席した。
「間もなく上映開始です」
女性の声でアナウンスが流れて、館内の照明が落とされた。
満天の夜空が映し出されて、説明アナウンスがあり、観客が熱心に見て聞いていた。最後にオーロラが映し出された。美しい色彩に彩られた光のカーテンそのもので、館内にささやかな歓声が上がり、観客は宇宙の神秘を感じた。40分ほどの夜空の旅が終わり観客は満足して館内から出た。
「次は水平型だな」
「あら、お財布が無いわ」
プラネタリウムを出てから母親が言った。
「財布が無いって?」
「ええ、無いんです。何処かで落としたんだわ」
「そりゃぁ、一大事だな」
「プラネタリウムで横になった時に落としたのかしら」
「まず、プラネタリウムの入り口で訊いてみよう」
プラネタリウムの入り口で尋ねたら「直ぐに確認致しますので、少々お待ちください」と言われた。プラネタリウムでは観客が出た後にスタッフが落とし物などが無いように館内全体を数人で見て回るが「落とし物の報告は無かった」と言われたが、スタッフは続けて言う。
「今、インフォメーションセンターに問い合わせてみますので、引き続き少々お待ちください」
スタッフはそう言うと内線電話を掛けた。すると、財布の落とし物がインフォメーションセンターに届けられていると言う。
「あの、失礼ですが、お財布の中を確認させていただいても宜しいでしょうか?」
「はい、お財布の中には免許証が入っております。名前は○○と申します」
スタッフがその旨伝えると確認が取れた。
「確認が出来ました。インフォメーションセンターに行かれてください。スタッフには伝えておきますので」
「ありがとうございました」
父親と母親が深々と頭を下げてお礼を言った。それからバス乗り場に向かい歩を進めた。
「良かったな」
「本当にドキッとしたわ」
インフォメーションセンターはその名の通りセントラル・タウンの中心に位置している。
バスがインフォメーションセンターに到着したので、スタッフの人に名前を名乗り申し出るとお財布を渡された。お礼を言ってその場を離れて、近くのサービスルームに向かい夕食をご馳走になって帰路に就いた。
同じ頃、海岸の方ではナイトクルージングのお客さんで賑わっている。海上には複数の遊覧船が航行しており、1隻には200人ほど乗船出来てきらきらした夜景を楽しんでいる。そして、更に飲み物とお茶請けに軽食も提供される。セントラル・タウンではお酒は元より、アルコールを含むものは提供されない。更にショッピングセンターで、お酒を買って酔っている人は全てのサービスを利用出来ない。中には気の荒いお客さんも居るが、慎重かつ丁寧に説明している。普段からよくセントラル・タウンに遊びに来る人達はその事をよく知っていて納得している。
了
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