遭難
しいな ここみさま主催『冬のホラー企画』参加作品です。
ヒュウヒュウ。
ヒュウヒュウ。
吹雪いている。
雪が。
此の小屋の外は前が見えない程の雪。
吹雪だ。
外の様子だと吹雪の止む気配はない。
此の小屋の一階まで雪が積もりそうだ。
「遭難したんですって?」
「はあ……」
「大変でしたね~~」
眼の前の女性。
此の小屋の持ち主である女性に僕は曖昧な返事をする。
登山部に所属していた僕は冬の山で遭難した。
スマホが使えればよかったのだが……。
何でスマホが使えん此の山を登山場所に選んだんだ?
あの馬鹿先輩は?
電波が届かない秘境に行きたい。
あの馬鹿の口車に乗った自分が憎い。
先輩の無謀な登山計画に突き合わされた結果が此れだ。
最悪である。
馬鹿な先輩は吹雪いた山の中を共に下山した時に逸れた。
僕は運良くこの集落に着くことが出来たが……。
「何も無くて恐縮ですが沢山食べてください」
「すみません」
そう言いながら僕に煮物が入った椀を渡された。
僅かな山菜と干し野菜。
其れに沢山の肉が入った煮物が入った椀を。
「こんな所ですから野菜などは手に入りにくくて……」
申し訳なさそうに僕に頭を下げる妙齢の女性。
「あ~~いや~~」
尋常ではない肉の量に僕が目を丸くしてたら言われた。
不味い。
気の毒だ。
気を使わせてしまった。
人が滅多に訪れない集落。
だから肥料とかが手に入りくいらしい。
そうなると野菜などは此処では貴重品だ。
其れを無理して出してくれたんだ。
心苦しい。
野菜などが満足に収穫できない土地。
それが此の集落の食料事情らしい。
地図にも乗ってない集落の。
その代わり此処では様々な山の獲物が取れるらしい。
熊に猪。
其れに鹿などを罠猟で仕留めて主食にしてるらしい。
だから此の煮物は肉が多いのか……。
ジビエか~~。
生憎だがジビエなど食べた事のない人生を送ってきた。
だからジビエの味なんかわからない。
人生で初めてのジビエに僕は口をつける。
食べたことのない味がする。
独特の癖の有る風味だな?
「牛肉のような……そしてラムっぽい?」
ああ。
何というか其れに近い味がする。
いや?
此れは豚肉と牛肉の中間の様な感じだな?
ああ。
美味しい。
冷えた体に染みる。
「冷えた体に効きますよ」
そう言って女性が注いでくれたドブロクを飲む。
トクトクと盃に注がれたドブロクを。
美味しい。
酒精が強いな~~。
フルーティーな香りがする。
喉越しが良い。
凄く美味しい。
物凄く気の毒だな。
何か後でお礼をしないと。
満腹になった僕ため息をつく。
すると急激な眠気に誘われる。
ドブロクのせいだろう。
「準備をしてきますので横になってて下さい」
「すみません」
「いえいえ」
お言葉に甘え横になる。
ああ。
温かい。
眠い。
「今年は運がいい二体も新しい獲物が手に入ったわ」
妙齢の女性は山で取れた物を解体していた。
大きな出刃包丁で。
この集落は土地が痩せており満足な野菜も山菜も取れない。
だから山の恵みが此の集落の主食だ。
ゴリゴリと骨を切断する。
山の恵み。
猪に熊其れに鹿。
鳥なども罠で仕留めた代物だ。
だけど年々獲物が減り集落は慢性的な食料不足に喘いでいた。
近年は其れも解消されたが。
上質の羊がそれなりに取れ始めたからだ。
二本足の羊が。
「明日のご飯は贅沢に新鮮な肝臓を食べて後は塩漬けにしましょうか」
妙齢な女性は涎を垂らしながら横になる男をみた。
お酒を飲み眠りこける男を。
その手には切断された男の手が握られていた。
塩漬けにして保存する為に解体している手が。
血が固まりつつ有る手が。
握られていた。