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第44話:夏休み最後の日

好評につき、1日3回更新にペースアップしました!

 見慣れた天井……は言ってもなににもならない。なんかすごくいい夢を見た様な気もするし、すごく冷や汗をかいたような気もする。


 ただ、久しぶりに自分の部屋で目が覚めた。感想と言えば、ベッドが広い!


 今まで、シングルベッドに恭子さんと二人で寝ていたので、狭かった。エアコンを利かせて涼しくした状態で二人抱き合って寝ていたのだ。


 それがどうだ。実家はベッドが広い。逆に落ち着かない!

 そして、落ち着かない理由はもう一つある。



「花音、何故目覚めたら、お前が俺の部屋にいるんだ?」



 そう、目が覚めたら部屋に花音がいた。俺の顔を覗き込んで普通に目の前に立っていた。怖いよ?無表情なんだもん……



「いつもの様にお宅に伺ったら、将尚がいるからと部屋まで()()()に案内していただいて……」



 出たよ「お母様」。母さんを惑わす魔法の言葉。母さんは既に花音の術中。玄関開けたら2分で俺の部屋に連れてきてしまう状態だ。


 しかも、俺寝てたし。その息子の部屋に女の子を通すのって、どんな関係だと思っているのだろうか。

 さらに、しれっと「いつもの様に」って言いやがった。いつも来ていたのかよ。


 外堀から埋めてくるっていうよりは、すでに埋まっている気すらする。


 俺がベッドの上でパジャマ姿で寝ているのに、花音はベッドに座った。すごく違和感。


 そもそも付き合っている時も家の前までは来たけれど、家には入れてないと思う。自分の部屋には絶対に入れてない。



「で?用事はなに?」


「ん、下で朝食ができているそうよ?着替えて降りて行ったら?」



 そうなのか。まあ、降りて行くけども。それを言いに来たわけでもあるまいに。はぐらかされているのだと思う。


 花音はふらりと部屋からいなくなったので、俺は着替えて、顔を洗ってリビングに行った。久々の家。今の俺の(おも)だった家が恭子さんの家だとしたら、ここは「実家」と呼ぶべきか。


 リビングに行くと、花音が普通にテーブルについていた。俺の頭の中のイメージでは、盛大にアメリカン・コメディアンがすっ転んでいた。足なんか天高く伸びていて、上下が逆になる勢いで転んでいる。


 なぜ、あの美少女様が我が家のリビングで朝のひと時を過ごしていらっしゃる?これに何か意味なんて絶対にない!



「ほら、将尚、席に着きなさい。あなたが来ないと花音ちゃんが食べられないじゃない」



 母さん、なにがどうなった?昨日まで息子が家出して家中暗かったじゃないか。花音がいるだけで、こんなに明るいと少しジェラシーを感じしてしまうじゃないか。



 テーブルの俺の前にはカフェオレとトースト、スクランブルエッグが準備されていた。


 花音の前には紅茶とトーストとスクランブルエッグ。ちなみに、我が家で紅茶を飲む人はいない。花音用に準備したか、自分で買ってきたかだろう。



 二人、「いただきます」と言って食べ始めた。琴音(ことね)は夏休みの課題がまだ終わってないらしく、今日一日は家を出られないらしい。既に食事を済ませて課題に取り組んでいるらしい。


 きっと後で俺にも声がかかるのだろう。中学の時と何ら変わらない。


 因みに俺は早々と済ませてしまった。課題が残っていると気になって受験勉強どころではないからだ。



「お母様、美味しいです」


「まあ、ホント!?お代わりもあるから言ってね!」


「ありがとうございます」



 おいこら、クールビューティー。クラスではそんなしおらしい事一度も言ったことがないだろ。


 俺は横にいる花音を無言で責めた。花音は涼しい顔で「なにか?」くらいの表情だ。


 結局、こいつは何故、いまここにいる!?



「ごちそうさま」

「ごちそうさま」


「将尚、あなたの分も食器、運びましょうか?」


「あ、いいのよ花音ちゃん!置いておいて」



 俺が答えるよりも先に母さんがキッチンから言った。いや、花音はこんなキャラじゃない。どうしたっていうんだ……



 はっ!?いや、花音はこんなやつだった!



 花音は周囲の期待に応えて振る舞うんだった!うちの家族の「理想のカノジョ像」を巧みに読み取って演じているのでは!?


 朝食を食べ終わった頃、琴音がリビングに現れた。



「お兄ちゃん〜」



 あ、この感じは嫌な予感のやつだ。俺が退散するより少し前に退路を絶たれた。



「あの〜、実は課題がまだ終ってませんでぇ〜」



 あぁ、この琴音の上目遣いを何度見ただろう。この時点で俺の夏休み最終日の使い方は決まったのだ。



「どれくらいあるの?手伝いましょうか?」



 花音が名乗り出た。その理想のカノジョ・モードはなんなんだよ。うちの家族は花音をどんな立場の人として捉えてるんだよ!?



「ホント!?嬉しい!花音ちゃん好き!」



 それ、お前の学校の先輩だからな。「花音ちゃん」とか言ってるけど。


 琴音のお間枠通り、俺と花音は夏の課題の残りを手伝わされる事になったのだった。なんだかんだで花音は夕方まで手伝ってくれて、俺は夜中まで手伝わされた。



 ■



『今日は琴音の課題を手伝わされて終わった』



 夜、恭子さんにメッセージを送っといた。返事が着たら花音のことも伝えようと思っていたのに返事がなかった。


 実家には帰ったのだろうか?どうやら恭子さんは早々と寝てしまったらしい。


 もしかしたら、まだ部屋で一人で寂しくて、酎ハイで宴を開いていたのかも。俺はそれ以上何も考えず寝た。




 次の日も変だった。朝から変だった。夏休みも終わり、2学期のスタートだ。とりあえず今日は、俺は家から学校に向かうことになる。


 着替えて、顔を洗い、リビングに来たら花音がいた。普通にテーブルについてる。

 今日はイメージだけではなく、俺自身がズッコケた。



「なぜいる!?」


「おはよう、将尚」



 済まし顔で紅茶を飲む花音。



「さ、朝食を済ませましょう?」



 母さんは普通に花音に食事を出しているし、なんなら楽しそうに話している。これはねぇ、もう、サイコホラーですわ。サイコホラー・花音ですわ。



「多分、今日くらいだと思うから、気にしないで」



 サクサクとトーストを食べながら花音が言った。

 なにが今日くらいだというのか。新学期なら、間違いなく今日からだろう。



 俺の新学期は淡々と過ぎた。


 花音と一緒に駅に行って、電車に乗り、学校の最寄り駅に着いた。俺の横には常に花音。


 なにこれ?ひとつ気になったのは、花音がいつもより大きなカバンを持っていたことくらい。


 教室に着いてもいつも通り。ただ、花音はSHRショート・ホーム・ルームが始まる直前まで俺の席の隣に立っていた。


 健郎&明日香が登校してきたときに花火大会の時のことを揶揄われると踏んでいたが、花音がすぐ横にいたので何も言われなかった。


 委員長にもジロリと睨まれたけれど、花音がすぐ横にいたので、こちらも話しかけられることもなかった。花音が助けてくれたのか?


 始業式も無事終わり、あとは帰りのHRだけ。俺は(おもむろ)にスマホを取り出し、恭子さんにメッセージを送った。



『帰りに教科書を取りに行くよ』



 そう、教科書がない!全部恭子さんのとこだ。昨日は琴音の課題の手伝いだったから教科書は要らなかったけれど、受験勉強する上で教科書も問題集も全部恭子さんに置きっぱなしだった。


 最近気に入ってよく使っているシャーペンだって恭子さんのとこ。


 恭子さんは実家に帰ったって話だったから、恭子さんはいないかもしれないけれど、教科書だけ取らせてもらいたい。家主には一応知らせておかないと。


 HRが終わっても返事はない。え?いつまで寝てるの?二日酔いで体調を悪くしていないか心配になった。


 学校を出て駅に着いた。花音が俺と同じホームに着いてきた。花音の家の駅は恭子さんのマンションの最寄り駅と真逆。



「あれ?花音も恭子さんのところ?」


「ん、まあ」



 花音らしくない曖昧な返事。まあ、最近、恭子さんと花音は比較的仲が良いからもし、マンションに恭子さんがいても特に問題はないだろう。


 マンションに着き、インターホンを鳴らしても恭子さんは出なかった。


 これは本格的に心配になってきた。起き上がれなくなってはいないだろうか。二日酔いの薬とか必要かもしれない。


 とりあえず、俺は預かっている合鍵でエントランスを開けて部屋に向かった。


 玄関ドアも鍵を使って開け、声をかけた。



「恭子さん、大丈夫……」



 自分の目を疑った。玄関には何もない。玄関から見える部屋の中も何もない。(もぬけ)の殻だった。



 俺は慌てて部屋の中に入った。ベッドもカラーボックスもこたつのこたつ布団なしも。カーテンすらもなかった。


 部屋のフローリングの中央に俺の教科書と問題集、筆記用具が置かれていた。

 どうやら、何かの間違いで空室に来てしまったわけではないようだ。



 恭子さんがいない……



 そう思った時、俺は膝から崩れ落ちた。人は絶望したとき本当に力が抜けるらしい。フローリングに這いつくばって起き上がれない。



「将尚!大丈夫!?」



 花音が駆け寄ってくるけれど、そんなことはどうでもいい。俺は何ができる?すぐに外に出て恭子さんを探すか!?それは、どこを探したらいいんだ!?


 実家!恭子さんは実家に帰るって言っていた!荷物も全部持って帰ったのかもしれない。恭子さんの実家は……どこか知らない。


 電話もつながらない。LINEも既読が付かない。



「なんだこれ?」



 全然理解が追い付かなかった。恭子さんの部屋が空になってる。事件か!?



「今日のところは教科書を持って帰りましょ」



 花音が持ってきた鞄に教科書を仕舞ってくれた。相変わらず準備がいい。この鞄が準備されているという事は、花音はこの状況を予測していたという事か。


 俺は家に帰った。途中のことは全く覚えていない。夕飯を食べたかも、風呂に入ったかも覚えていないのだ。


 花音もいつ家に帰ったのか。俺には全てがどうでもよくなっていた。




ぜひ、ブクマ、★★★★★評価お願いします。

恭子さんと花音と将尚と猫カレーฅ^•ω•^ฅが喜びます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり姿を消したのね。 当然、花音はわかっていたと。
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