第23話:月曜日の事件と勝敗の結果
「ぐぎぎぎぃ~、やってくれたわね!花音ちゃん!カツくんと付き合って、学校内で内緒セックス・ライフを楽しむつもりね!図書館の棚の奥の死角とかが狙い目ね!」
いや、怒るとこそこ?!なに図書館の棚の死角?妄想?願望?知らんけど。
マンションに帰って、恭子さんにテストが恙無く終わったことを知らせて、イレギュラーにクラスの半数以上とカラオケに行くことになったことを伝えた。
そして、そのカラオケの部屋で全員の注目を一身に受けた状態で花音が俺に2度目の告白をしてきたことも。
「ぎぎぎー!カツくんのなにがいいのよ!?もっといいイケメンがいくらでもいるでしょー!美少女なら美少女らしくイケメン狙いなさいよ!」
恭子さんはタオルを歯で引っ張りながら地団太踏んで悔しがってる。そして、流れ弾が俺に直撃して、むしろ俺がダメージ喰らってるから!
向こうはチート級クール系天才美少女。歌もうまいしクラスで人気者の同級生。
対して、こっちはアラサー(?)エロエロ巨乳お姉さん。頻繁花音にやり込められて地団太踏んでいる。
俺はどこかで選択肢を間違えたのだろうか(滝汗)
「首にキスマーク作戦は、やりすぎると花音ちゃんに通報されちゃうし!」
あぁ、そういうことか。気づかなかったけど、この間は俺は気づかないけど、花音は気づく位置にキスマークを付けて嫉妬心を煽ったわけか。「首抱き付き」の報復として。
花音が警察に連絡したら俺は家に連れ戻され、恭子さんは未成年者誘拐で逮捕されてしまう。もしかしたら、淫行くらい追加されるかもしれない。
この間の雰囲気から仲良くなったのかと思ったけど、まだまだ戦争中だったこの二人……
「カツくん!勝つのよ!学年一位を取るのよ!!」
「まあ、もうテスト終わったから、今からできることはないけどね」
「ぐぎぎぃ~、何かないの!?先生に賄賂とか!」
段々大人の悪い部分が出てきた。大人怖い。
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月曜日、朝から教室の空気は異常だった。俺はいつもの様にSHRが始まる1時間前に教室に着いた。
教室内にはいつもの様に一番後ろで一番奥の席で黒髪ロングの美少女が文庫本を手に読んでいた。ただ一つ違ったのは、顔が笑っていた。花音が笑っていたのだ。
俺はいつも通り席に着き、教室の前を向いたままつぶやいた。
「こえーよ、笑顔」
花音は慌てて取り繕っているようだった。笑顔が可愛すぎる分、怖さが増している。
「《《私の》》将尚に散々嫌がらせをしてきた上月さんに『ザマァの回』なのよ。つい笑いが零れるわ」
こっちも悪い感じだった。一応自分のことを崇拝レベルで好いてくれている女子だろう。俺は別にもう絡んで来ないでくれたらそれでいいんだけど、こっちのルートもキラキラした世界だけではないようだ。
あと、誰が「私の」だ。段々遠慮なくなってきてるな。
「お!将尚おはー!」
「おはよー!」
健郎&明日香が登校してきた。こいつらも大概登校時間は早い。もしかして、二人で朝練的なことをして登校してきているのだろうか。
「なあ、金曜日あの後どうなったの?付き合ってるの?藤倉さんと」
健郎が俺の周りで色々聞いてきた。お前には明日香がいるから花音はどうでもいいだろう。
「痛い!痛いって!明日香ちゃん可愛い!大好き!」
健郎が明日香に無言で耳を引っ張られながら廊下に連れていかれていた。どこに行って、何が始まるの!?ちょっと怖くてその先は考えられない。
「あ……」
クラスメイトが続々と登校してくる中、委員長も教室に入ってきた。さらに、いきなり目が合ってしまった。最近のアレのせいで、ちょっとトラウマになっている。良くないなこういうの。
すごすごと委員長が俺の机に近づいてきた。待てよ。誤解は解けたはずだろう。クラスメイトも注目していた。
「ごめんなさい!私なにも知らなくて!勝手な思い込みで!」
俺の机に額をぶつけるんじゃないかという勢いと角度で俺に頭を下げて謝ってくれた。
「その……あの後、残ったメンバーで色々話してみたんだけど、武田くんが藤倉さんに悪口を言ったり暴力を振るったりしたのを見た人がいなくて……私たちの……というか、私の思い込みだったというか……」
胸の辺りで掌をもじもじしながら一生懸命弁解していた。今日も蟀谷辺りの髪留めの小さなリボンが揺れている。何故俺は、この髪留めが気になるのだろう。そうか、今まで俺はお小言が始まると下を向いていたから、委員長の髪留めに気付かなかったのか。彼女が俺の悪い部分ばかりを見ていたように、俺は彼女の足元ばかり見ていたのかもしれない。今は髪留めが見える。
「その……藤倉さんを守りたい一心で……」
「いいよ。許すよ。これからも花音の友達でいてくれ」
「いい…の…?私あんなに武田くんを一方的に責めたよ?」
なんかその言い方エロイ。もう一度言ってほしい、ぜひ録音したい。
「いい。もう許した」
「武田くん……心が広い……はっ、藤倉さんにも謝らないと!ごめん、武田くん、また!」
今度は花音のところに行って、やっぱり机に頭をぶつける寸前くらいまで頭を下げて謝っていた。基本的に良い人なんだろうな。そして、正義の人。声がでかい正義の人がいたら、その相手は悪い人だと誰でも思ってしまう。
ただ、日常生活において、一方的にどちらかだけが悪いことなんてあるのだろうか。別に俺は彼女のミスリードを誘ったりはしていないけれど、慌てて見せたり、弁解しようとしたり、努力くらいはする必要があったのかもしれない。
そして、俺にはそれらのことをすることすらできない状態にあったことが不運だったという事ではないだろうか。俺の抱える三大問題の一つ『家族仲問題』に大きくかかわってくるのだろう。
それが、『花音との仲問題』を誘発して『クラスの当たりがキツイ問題』を併発したと言ってもいい。
三大問題の二つは目途がついた……いや、付いてない。まだだ。テスト結果が残ってる。
期末テストの順位は今日の昼休みに廊下に貼り出されるはずだ。昼休みになったら、弁当を食べる前に見に行ってみるか。ここで勝負が決まるし、俺が点数で花音に負けたら、更にややこしいことになってしまう。とても重要なことなのだ。
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1限目現国。昼休みまでの授業で最大で4教科はテストが返ってくる。金曜午後に採点している先生がほとんどだろう。集計したものは昼休みに貼り出される。つまり、それまでに、全ての授業でテストが返ってくるはず。
8教科中4科目も返ってくる。結果の50%が見れるので嬉しい半面、怖い気がする。俺の場合、うまくいって当たり前。1教科でも失敗したら終わりなのだ。
1教科目:100点!
今効果音が「ドンっ」って聞こえたような気がしたぞ!
「すごいな武田。今回頑張ったな。他の先生方も褒めてあったぞ」
教科担任から答案を手渡された時に言われた。つまり、高得点は間違いない。やったよ恭子さん!
席に戻る時に花音が視界に入った。ニヤリとしていた。お前は俺の味方なのか、敵なのか、ハッキリしてくれ。どうリアクション取ったらいいか分からない。
2教科目:98点!
畜生!1問落としてた!過去問と花音情報で100%が網羅できると思っていたが、たまにカバーできてない問題もあったんだよ。8割なら確かに楽勝なんだろうけど、100%となると思い通りにならない問題がたまにはある。
まあ、いい。花音だってさすがに全教科100点ではないだろう。過去にも全教科100点の時なんてないのだから。
3教科目:96点!
ノー!!4点も落とした!各教科先生たちはめちゃくちゃ褒めてくれるし、クラスのやつらもめちゃくちゃ喜んでくれているけど、そうじゃないんだ。俺は1教科でも多く100点を取らないといけないんだ。
花音が相変わらずニヤリとした表情を向けてくる。なんだよ。まさか、あいつ、全教科100点とかあり得ない結果じゃないだろうな!?俺のハッピーエンドをぶち壊す気じゃないよな!?図書室の死角に連れ込んだりしないよな!?
4教科目:90点!!
チーン……何故だ。100点確実と思った数学で90点!10点もどこで落とす要素があった!?
「武田、お前今回すごく惜しかったな。お前数ⅡBだろ、数Ⅲの方まで解答してたぞ。全部書いたら無効って書いてあるよな?しかも、全部当たっているっていうな。本番じゃなくてよかったな」
なん…だと…確かに俺は理系だから数ⅡBを取ってる。このクラスは文系・理系混合クラスで、授業によって移動教室先が違ったりする。理系は数ⅡBを取って、文系は数Ⅲを取る。
俺は慌てるあまりある問題全てを盲目的に解いてしまった!結果解いた問題は合っている。なぜ、問題文をよく読まなかった!?
俺は机に両肘をついて絶望していた。
「将尚、お前何点?」
横から健郎が答案を覗いてきた。
「お前!90点ってすげえな!俺の仲間じゃなかったのかよ!?」
いつもは50~60点くらいだから、90点も取っていれば驚くだろうなぁ。ただ、俺は今回このテストに賭けていた。高得点を取ればいいというミッションだったけれど、花音のせいでほぼ満点を取らないとトップになれない。しかも、余計な宣言をみんなの前でしたせいで、俺は花音に勝たないと今までよりももっと悪い状況になってしまう。
「すごーい!藤倉さん100点じゃない!さすがね!」
すごく遠くで委員長の声が聞こえた。花音は100点か!?ここでの10点差は致命的なんじゃないのか!?俺は全身から汗が噴き出してきた。
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昼休みが始まるチャイムが鳴った。弁当を食べる人、食堂に行く人、ほとんどのやつが昼食を取り始める時間。
ただ、俺はそれどころではなかった。今日、期末テストの結果が発表されるのだ。ここで何としても花音に点数で勝たないと、俺は花音と付き合うことになってしまう。
クラスの人気美少女と付き合えるのならば、普通はご褒美だろうけど、俺には既にカノジョがいる。
恭子さんが作ってくれた弁当にも手を付けず、俺は成績順位が貼り出している廊下に向かった。方向的に、100位から1位に向けて歩いて行くことになる。100位とか気にしてたらダメだ。今回は絶対1位なんだ。それ以外はダメだ。一応名前をチェックしながら上位の方に歩いて行く。見慣れた自分の名前なので、90位台、80位台などにないことはすぐに分かった。
名前が「武田」なので、苗字だけ見ていたら別の「武田」がいる。くそう!またびっくりした!「小路谷」とか珍しい名前だったらよかったのに!
※【全国人数】 およそ80人 参考:名前由来net
10位までにはいなかった。ここからは上位だ。花音の名前が先に出ろ!あ、俺、今嫌なやつだ。もう、何を考えているのか分からなくなってきたので、一気に1位から3位を見ることにした。
1位:武田将尚 775点
2位:藤倉花音 770点
3位:緒方太郎 755点
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「……や…った…んだよな?俺の勝ち……だよな!?」
視覚には入ってきているけれど、それがどうにも脳が理解してくれない。ちゃんと俺勝ってるよな!?花音に勝ってるよな!?
「やったー!勝った!学年トップだ!!」
「やったな!将尚」
いつの間にか、健郎が横にいた。
「健郎……お前……」
「そりゃあ、藤倉さんと勝負だろ?クラス中、大注目してるよ。俺も気になってさ」
「うわー、武田くんがんばったねー!トップだよ!すごー!」
健郎&明日香が喜んでくれた。
周りを見ると、クラスのやつがほとんどいる。
「武田すげえな、藤倉さんに勝つとか信じられん」
「うわー!ホントにトップだよ!」
ワイワイと俺の好成績を誉めてくれるクラスメイト達。ありがとう。俺、頑張ったんだ。廊下でちょっとした騒ぎになり、更に人が集まってきた。いつも成績表の張り出しの時は人が多いけれど、今回は一段と多い気がする。
その人混みがモーゼのように左右にバックリ分かれる始めた。その中央を歩いてきたのはクラスの人気者クールビューティーこと花音だ。
ここでみんな思い出した。俺の急な好成績でみんな忘れていたと思うが、花音が俺に勝ったらもう一度付き合うという公開告白をしていたのだ。
ザワついていた周囲が静かになる。
花音が成績表をチラリと見て、俺の方に向いた。
「将尚、トップおめでとう。悔しいけど私の負けね」
花音の敗北宣言に周囲のザワザワが始まった。「もういいんじゃないか」、「付き合ったらいいじゃん」「相手は藤倉さんだぜ!?」「俺なら絶対行く!」とか勝手な声が漏れ聞こえる。
ヤバい、このままではやっぱり俺は四の五の言って、花音を振った男になってしまう。今度は誤解じゃなくて、みんなの目の前で事実として叩きつける形で。
「負けたのは悔しいけど、2学期の中間テストでもう一度勝負するから、私が勝ったら今度こそ付き合ってね!」
そう可愛く言うと、花音は踵を返して行ってしまった。
「はぁ~!?2学期の中間~?!」
俺は、「クラスの空気を何とかする問題」だけに特化して考えていた。今回のテストで頑張ればそれで終わりだと思っていたのだ。さっきの話だと、俺は2学期中間でも花音に勝たないと立場が危うくなってしまうじゃないか!
花音~!!あの美少女クールビューティーめぇ!