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【書籍化】電車飛び込みお姉さんと人間不信家出男子と最強元カノ  作者: 猫カレーฅ ^•ω•^ ฅ
第一章:エロ巨乳お姉さんと俺とチート元カノ
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第22話:決戦は金曜日

 花音(かのん)のアドバイス(?)により、最終日の5日目のテストはそれまで以上に用心して臨んだ。当然名前の書き忘れ等ないように注意した。例によってテストが始まる1分前には用紙が配られて、透けて見れる鏡文字からどの問題がどの程度出たのかすぐに分かった。


 一言で言えば勝利宣言。ただ、俺は花音の忠告を軽視しなかった。なにが起こるか分からない。例によってテストは15分で終わったし、ケアレスミスとかなければ、100点取れるだけの十分な出来だった。


 それでも、字が汚くて採点者に間違いと誤解されて減点される可能性などまで考え、汚くなってしまった字は書き直すなどして、用心に用心を重ねた。


 テスト終了のチャイムが鳴り、解答用紙が回収されていった。心配していた「トラブル」は起きなかった。花音のアドバイスにより未然に回避できたのかもしれない。



「ふー、終わったー」



 率直な感想だった。ここまで頑張ってきた。協力してくれた恭子さんに感謝だ。そういえば、花音も色々気にしてくれていたようだし「花音ノート」も作ってくれた。彼女にも感謝しないとな。



将尚(かつひさ)、お疲れー!どうだった?いや、結果は聞くまい。カラオケ行こうぜ!」



 健郎(たけろう)が肩を組んできた。いつも通り気持ちのいいやつだ。



「私もカラオケ久々―!十八番歌うからね!」



 明日香の十八番は「時の流れに身をまかせ」だったか。明日香は親とカラオケに行っていたせいか昭和の歌のレパートリーが多い。俺が言うのもなんだけど、それほど歌がうまい訳ではないので、全然任せられない感じの「時の流れに身をまかせ」は明日香にしか歌えない。ある意味また聞きたくなる味わいのある歌だ。



「楽しみにしてる」



 いや、本気で。明日香の歌を聞くのも久しぶりだ。あれ?健郎&明日香の返事がない。横を向いて二人を見てみると、その視線は俺の後ろに。


 俺は首をできるだけ捻って後ろに視線をやったけれど、その姿が見えるよりも先に誰だか声で分かった。



「三人でカラオケに行くの?私も仲間に入れてもらえないかしら?」



 花音さんでした。花音はカラオケが好きなのか?俺と付き合っていた時に1度だってそんな素振りは見せたことなどなかったし、誰かとカラオケに行っているなんて聞いたことがない。



藤倉(ふじくら)さんも!?ぜひぜひ!いっしょいこー!」



 明日香はビッグウェルカムらしい。花音は普段あまりこういったイベントに参加しないので、テンション爆上がりだった。



「マジかよ、俺なに歌おう!」


「ちょっと待ってね。一応お店に人数増やすよう、連絡するね」



 あ、健郎もOKらしい。明日香にいたっては、教室なのにスマホを取り出し、予約を変更しようとし始めていた。


 俺が身体ごと横を向いて後ろの花音の方に顔を向けたら、花音が俺を見下ろすように立っていた。目が合うとニヤリとした。絶対これは何か企んでいる!逃げるしかないと思った次の瞬間には新しい声が聞こえた。



「藤倉さんどこか行くの!?よかったら私も!」



 意外な人物が参戦してきた。委員長だ。もしかしたら、崇拝する花音が俺にいじめられないように、守る目的があったのかもしれない。彼女の中で俺は花音を泣かせたり、悪口を言ったりしていじめる存在らしいから。



「いいわね。上月(かみつき)さんとも一度ゆっくりお話がしたいと思っていたの」



「上月」さんと聞いて誰かと思ったけど、委員長だった。よく俺に噛みついてくるから「嚙みつき」さんと。確か昔そう覚えていたけど、最近勉強し過ぎて要らない情報から忘れて行ったらしい。再インプット、と。



「ちょっと待って、じゃあ、健郎、将尚くん、藤倉さん、上月さん、あれ?4人?あ、私入れて5人か」



 ちょっと天然なところが明日香も可愛いな。ショートカットでスポーツ少女なので、人気があるのも頷ける。



「え?藤倉さんこれからカラオケ行くの?俺も行きたい!」


「なになに?俺も俺も!」


「え?藤倉さんが行くカラオケ?私も参加希望!」



 あー、なんか俺の苦手な人数になってきた。でも、これだけいっぱいいれば俺がいなくても分からないだろう。静かにフェードアウトしようと、椅子から立ち上がろうとしていたら、ポンと肩に手が置かれた。それだと立ち上がれないし、逃げられない。


 またしても花音さん。何を企んでいるのか。俺がなにをしたのか言ってほしい。すぐに謝るから。何なら聞く前に謝るから、その手を放してほしい。


 明日香の電話で場所がおさえられないことを祈ったけれど、30人用の大部屋があるとのことで、クラスの半数以上の20数名が参加する打ち上げという名の「大カラオケ大会」が決定した。



 ■■■



 テストは無事終わったけれど、気持ちは全然晴れない。何か大変なことが起きる未来しか予想できないカラオケが始まった。


 20数名とか絶対場所が空いてないと思ったけれど、30人用の部屋が空いていたとのことだった。それだけデカければ中々埋まらないだろうよ。無駄に広いし、前方にステージがあってミニライブ会場みたいな感じだし。


 なぜそんな部屋を作ったよカラオケ店。雑居ビルの5階から12階まで全部カラオケ店って家賃大丈夫なのか!?駅前だからサラリーマンとかの需要があるのか?!それとも地下アイドルグループのための部屋なのか!?


 俺は色々なことを考えて、なんとかその部屋の存在を否定したいと思っていたけど、既に予約は取れているし、俺たちは部屋にいるし、もう逃げられない状況になっていた。


 健郎&明日香が事前にお金を集めていた。本当に手際がいい。食べ物は持ち込みOKだったので、お菓子類を大量に持ち込んでいる。食事メニューを頼むときは、都度、健郎OR明日香に支払うことなどのルールが説明され、カラオケ大会はスタートした。


 俺の気持ちは暗かった。そもそもカラオケは苦手だ。しかも、こんな大人数で。歌が1曲5分としたら1時間に歌える歌は12曲程度。2時間予約したら、1人1曲歌ったら終わりだろ!効率悪いから個室に分かれて歌えばいいだろう。話すには曲がうるさいし、他人が歌っている時はスマホを見たらダメとか、トイレ行ったらダメとか暗黙のルールもあるし、窮屈なんだよ。


 俺のテンションの下がり具合に反してクラスメイト達の盛り上がりはすごい。歌自慢が得意な曲を披露したり、数人でハモるヤツがいたりして、実に楽しそうだ。


 ただ、健郎や明日香と話せる雰囲気でもないし、俺は明日香の「時の流れに身をまかせ」を聞いたら抜けて帰ろうと画策していた。お金は既に払ったしね。


 抜けると決めたら少し気が楽になった。こうして学校外でクラスメイトと会うと、教室の中とはまたちょっと違う個性が見えてくる。委員長(上月さん)は、意外に歌がうまくて最初の方で歌っていた。ステージ上でノリノリにフリまで付けて歌っていたから、アイドルグループか何かの曲だと思う。委員長のショートカットの蟀谷(こめかみ)辺りの小さいリボンのついた髪留めが揺れていた。


 男ってなんか揺れるものがあると見てしまう。イヤリングとかそんなの。こんな形でなければ、委員長とももっと違った関係を築けたのかもしれない。それは今となってはあり得ないif(イフ)の世界だけど。


 スタートダッシュの勢いが少し落ち着いた頃、花音がマイクを取った。イントロだけで室内が沸き立った。何というタイトルだったか、有名な定番告白ソングだ。ノリもいいし告白ソングの定番だったので、男子たちの興奮が凄まじい。


 花音はステージに上がって歌い始めた。俺は花音の歌を初めて聞いたけど、うまいと思った。何より声がいい。いつものクールビューティー・モードじゃなくて、可愛い乙女・モードという感じ。マイクを両手で持って、一生懸命歌っている感じも男子たちの心をガッチリ掴んでいた。


 こんな仮面も持っていたのか。教室でいきなり出したら違和感だったろうけど、教室の外だし、さっきの委員長のアイドル曲みたいに意外性として受け入れられている。受け入れられている……というより、めちゃくちゃウケてる。


 やっぱり彼女は万能だ。本人は「有能ではあるけど、万能ではないわ」と返すだろうけど、やっぱりすごい。


 今、部屋の中が一つになり、盛り上がりが最高になったときに曲がピタリと止まった。一瞬何が起こったのか分からず、全員がきょろきょろしている。ステージにはリモコンを持った花音が立っていた。



 曲を止めたのは花音自身らしかった。



 さっきまでの異常な盛り上がりが反転、一気に静かになった。マシントラブルなのか!?それとも花音が意図的に止めたのか!?室内がみんな俺と同じような態度になっている。



武田将尚(たけだかつひさ)くん!」



 花音の声だ。マイクを通して俺の名前を呼んだ。名字まで呼ばれたのはあの告白の時以来。告白の時!?俺の嫌な予感が頭の中で警告音を鳴らしている。



「私から告白して付き合ってもらったのに、中々うまくいかなくて私から振ってしまってごめんなさい!」



 花音がステージ上で俺の方を向いて、90度頭を下げた。室内がしーんと静まり返った。こいつは何を言っているんだ!?



「別れてみて、あなたの良さを実感しました!期末テストの結果で私が勝っていたらもう一度お付き合いしてください!」



 今度は室内が急にザワついた。そりゃあ、そうだろう。みんなのアイドル的クールビューティーが最高に可愛い姿を披露した直後、クラスのモブキャラに告白だし。しかも、なんだよ、期末テストの結果で勝ったらって。取ってつけた感が半端ないだろう。



「藤倉さんが振ったんだ!武田くんがひどい振り方をしたんじゃなかったの?」


「これって告白!?武田って藤倉さんに二度目の告白されてんの?!」


「テストって藤倉さんずっとトップだろ?」


「告白の理由付けだけなんじゃないの?」



 室内はザワザワと本人たちを目の前にして噂し始める。



「返事はテストの結果が出てからでいいの!お願いします!」



 もう一度頭を深々と下げたら、花音はそのままマイクとリモコンをテーブルに置いて部屋を出ていてしまった。俺は椅子に座ったまま呆気に取られていた。



「将尚!藤倉さんを追いかけろ!」


「ここは良いから行ってあげて!」



 健郎&明日香が叫んだ。なんか反射的に俺は立ち上がって走って花音を追いかけた。「前のタクシー追いかけて!」も「ここは任せてお前たちは先に行け」も一度は言ってみたい言葉だったけれど、今はそれどころではない。


 エレベーターは全然違うところにあるし、階段かと思い、下に行こうとしたところで襟の後ろ側を誰かに掴まれた。



「ぐっ」



 そこには花音がいた。花音に連れられて、階段の下ではなく上に向かった。誰か追いかけてきたとしても、無意識に下に行ったと思って下に行くだろう。実際は俺と花音は十分上に上がって、踊り場で話している。つくづく俺たちは踊り場で話すなぁ。

 あと、俺「ぐっ」って言っちゃったんだけど、首締まったし「ぐっ」って。



「どう?私の告白は。また付き合いたいと思ったでしょ?」


「はー、どういうつもりなんだよ」


「そうね。私はどうも説明が足りないみたいだから、今回は反省して事前に説明しておくわ」



 はー、そうですか。そりゃまた、ありがたいことで。帰って恭子さんに通訳してもらわなくていいのならば、その方が楽でいい。



「まずは、将尚が振ったという誤解をクラスの大多数の前で説明したわ。振ったのは私。ここにいない人にもSNSがあるから、この土日でクラス内ほぼ行き渡るわね。月曜日にはまた顔を会わせるから、さらに情報が固まるわ」



 俺への間違った情報を正してくれたという事か。



「そして、今回のテストは勝負だったという事にしたから、私が負けると将尚と私が付き合っていなくても変に思わない。しかも、みんな空気を読んでこの話題を一切しなくなるわ。テストにも負けて、付き合えなくて、私すごく惨めでカッコ悪いもの」



 その通りだ。もしそうなったら、悪い空気を一転させて話せない空気にしてしまっている。本当だ。やりやがったこのクールビューティー。



「そんなこと絶対無理だと思ったのに、さすが万能だな」


「有能ではあるけど、万能ではないわ」



 花音が長い髪を肩の辺りで払った。ちょっと待て。それは俺がテストで学年一位を取ったときの話だ。



「万が一、俺が負けた時は?」



 花音が一瞬、視線だけ横に移してから、またこちらを向いて答えた。



「そりゃあ、私と付き合うことになるわね。付き合わないと今まで以上に酷い人ってことになっちゃうんじゃない?こんな美少女のあんなに心を打つ告白されて、それを断るわけだから」


「ぐっ……」



 どこまで考えて作った作戦なんだ!?花音はやっぱり頭がいい。断れないように退路が断ってあった。



「まあ、その時は、申し訳ないからお詫びとして私の処女を捧げるわ」



 どこまでも頭がいい。ただ、恭子さんを相手にするとなぜIQが2くらいになるんだよ。まあ、多分、概ね花音の作戦通りになるはずだ。ちょっとやそっと俺が策を練ったって勝てる気がしない。でも、学年トップを取る必要がある。そうか、それか。確かに、俺が学年トップを取ることが条件で今までの空気は一転する。


 どこからだ。花音がこんなことを考え始めたのは!?恭子さんの部屋で話した時には、ここまで考えて言っていたのか!?



「じゃあ、帰りましょうか。どうせ駅まで一緒なんでしょ?送って行きなさい」



 はー、恭子さんになんて報告しようかな……

 俺たちは駅まで一緒に行って、そこで分かれた。

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[一言] どうせ全部わかっていての話、なんだろうなあ……
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