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出発、進行

短いですが、この辺で。

続きを待っていてくださった方々にはお礼申し上げます。

本邸に戻った後すぐ、ルナリアは使用人達に磨きあげられ、当主としての礼装を身に纏う。

騎士礼装にも似たデザインだが、雰囲気として表すのであれば軍服、と言った方が正しいのかもしれない。

かっちりとした詰襟は顎下に来る留め具もきちんと留め、肩には公爵家の紋章が入ったブローチで留められたペリースを羽織っている。

胸元に飾られているのは代々受け継がれている勲章。

ペリースを羽織った反対の肩から掛けられたサッシュ。

単なる謁見ではなく新たな公爵として顔を合わせるため、パンツスタイルで。腰にはソードベルトを着け、宝飾が散りばめられた儀式用のレイピアを刺す。


装飾品は限りなく少なく、だが、当主としての威厳は守らなければならないし、スカーレットローズが示すとおりの緋色(スカーレット)が必要なのである。


身に着ける品はイヤリングと指輪を選択し、念の為にと指輪には防御の陣をこっそりと仕込んだ。


王城へと向かうのだ。

あの王太子に会うことはほぼ間違いないし、嫌味の一つ、最悪のケースとして攻撃魔法の一発でも覚悟しなければならないだろう。彼はそもそも婚約者としてのルナリアを認めていないから。

王城内では阿呆な事はしないだろうが、出た瞬間に何かされてしまう事は、ありえない話ではない。


今、ゲームとしての時間軸がいつ頃なのか必死に考えるが、そもそも己がシナリオ通りではないので正確な予測が出来ない。

恐らくではあるが、ルナリアが家に居たことを考えると学園に復学する少しだけ前。

公爵家の執務のあまりの多さに一時的に休学させてもらっていたのだ。

そして復学すれば、例の聖女様こと男爵令嬢に遭遇する。

復学したところで悪役令嬢としてのルナリアが登場、それまで聖女にとって平和な環境でしかなかった学園の雰囲気は最悪なものとなる。

主人公からすればルナリアは悪役令嬢でしかない。見方を変えれば、貴族としての在り方を教えてくれる素晴らしいお手本でしかないというのに。

だが、今のルナリアは人を殺してはいない。どこまでゲームとしての強制力が働くのか、未知数なのである。


「ルナリア様」

「…………あ」


執事に声を掛けられ、はっと我に返る。


「最後の仕上げをお願い致します」

「えぇ」


頷けば家令達が距離を取り、固唾を呑んで見守り始める。

ルナリアの足元に広がる特殊な形の魔法陣。

彼女を中心に半径1mほどが拡がり、縁の外側部分がしゅるりと持ち上がってルナリアを覆い隠すように半透明のそれは、どんどんと拡がっていった。

純白だった礼装は、名の通り緋色(スカーレット)へと変化していく。

当主の魔力に反応し、その色に染め上げる特殊な魔術礼服。当主のみ、纏う資格のあるものなのだ。


家令達からほぅ、と感嘆の吐息が零れる。


凛とした雰囲気によく似合っている礼服。

長い艶やかな髪はきっちり結い上げられている。

メイクは控えめ。だが、それがかえってルナリアの美貌を際立たせ、今は凛とした雰囲気と共に潔白さも同時に兼ね備えるものとなり、彼女全体を包み込んでいた。


「王城へのゲートの準備はできていて?」

「既に完了しております。空間は繋がり、先には王城の上級騎士が備えております。ゲートの先には、アストリア公爵家ミトス様もおられます」

「ありがとう。ミトスがいるなら大丈夫ね」


国王陛下への謁見が終わる前に、間違いなく父が乱入してくる。

あの役立たずで恩知らずな父をどうにかしてから、次は四大公爵家の三家をソルフェージュ家に呼び集め、今の正確な事情を説明しなければならない。

王太子とやり合うのはそれから。

何せ聖女様や彼女を取り巻く阿呆連中も相手にしなければならないのだ。

やる事が多すぎて、ルナリアが如何にチートとはいえ、ぶっちゃけると面倒くさいことこの上ない。


ゲームではいつの間にかルナリアの味方であった三家だが、今は己自身で説得しなければならない。

揃いも揃って曲者ばかりの彼らを味方にするにはどうするか、考えても結果的に出てくるのは一つしかない。


現状を全て説明して、その上で味方になってもらうしかない。

彼らの方が『ルナリア』との付き合いは長いのだ。

なら、今の自分が取り繕ったところでけんもほろろにされるのは目に見えているのだから。


やらなければいけない事があまりに山積みとなり、少しだけため息を吐いたがそれも瞬きの間のみ。


足元から魔法陣が消え、ゆっくりと歩き出す。

ゲートが設置されている特別な広間へと向かい、扉を開けば、整列した騎士達がゲートの向こうに見えている。


「…行ってくるわ。留守をお願いするわね」

「かしこまりました」


深々とカイルが頭を下げ、家令全員に見送られてからゲートをくぐった。


「お待ち申し上げておりました、ソルフェージュ令嬢。…いえ、新しき公爵様」


王城勤めの老紳士、見慣れたカレの役職は確か宰相だったであろうか。


「ありがとう。それではよろしくお願い致します」

「どうぞ、こちらへ。………皆の者、礼を!」


騎士が一斉に剣を抜き、眼前に掲げる。

そしてその剣を傾け、まるでアーチのようにしたその中をルナリアは堂々と、背筋を伸ばして歩んで行った。

次は無駄に出しゃばってくる親父殿が犠牲になります。

いや犠牲じゃないな。

邪魔な穀潰しを家から追い出すだけですね!

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