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いるもの いらないもの

ざっくりとしたゲームの世界観の説明も有ります。

ピロン♪


【大変!お兄様が義妹の危機と聞いて駆けつけちゃう!今までみたいに説得してみる?】


▶はい

▶いいえ

▶話しても無駄なのでぶちのめす


「三つ目、なんなんですの」


小さくツッコミを入れて選択肢を眺めれば、予想した通り少し光っている『はい』の選択肢。

ルナリアが取っていたであろう行動の選択肢。

きっとあの馬鹿兄にどうしてこのような状況になったかを説明したところでどうせ義妹を庇い、ルナリアを蔑ろにするに決まっているのだ。ならば、もう言葉でわからせる必要は何処にも存在しない。

今まで散々諭してきたのに、結果的にあの義妹に――今目の前で、座り込んで無様にわんわんと泣き喚いて話にならないコイツに体から堕とされ、兄の婚約者に対しても大変ひどい対応をしていると『知っている』。

ゲームでルナリアルートに入ると、話自体は短いけれど相当濃厚な内容の彼女や、彼女の家族のこれまでが語られる。

どうして悪女となってしまったのか、このような膨大な魔力をどうやって制御できたのか。

それを知っていたから、『自分が』初めて使う魔法も、体への力の込め方も、全て知っていたのだ。

電撃付与はうまく使えば所謂スタンガンのような役割も果たしてくれるし、殴る直前まで派手な雷を見せつけておいて、必要以上に体に力を込めさせ、殴るその瞬間に威力を調整して相手に無駄なダメージを与えてやることも出来る。


なお、目の前に表示された選択肢には迷うことなく三つ目を選択した。

選択肢が現れている間は時間が止まっているらしい。

なるほどこれも乙女ゲームならではというやつなのだろうか、と考える。一体どういう仕組みでこうなっているのか考えようともしてみたが、選択肢を選んだあとはすぐに時間が動き出してしまう。目の前の義妹の泣き声があまりに喧しく、思考がまとまりそうにはなかった。


キーキーと猿のように目の前の泣きわめく義妹を慰めようと頑張るメイドはもういない。

ルナリアからの先程の言葉に竦み上がり、給金が支払われる可能性の少なさに今更ながら戦慄しているようだから。そして、慈悲も何も与えられない事をようやく理解して全員座り込んで何やら唸っている。

まさか公爵家に雇われていないとは予想もしていなかったのだろう。というより、あのクソ親父が当主でないことを知らない人がこんなにもいる事実に頭が痛くなる。


兄だった人もきっと同じなのだろう。

聡明で、運動もでき、婚約者との関係性も良好。まるで物語の王子様のようだと評判の兄だった。

もしかしたらルナリアが女公爵にならなければ、いずれソルフェージュ公爵になっていたであろう好青年だったのに、女の体の味をうっかり知ってからはまるで猿のように行為にのめり込んだ。

婚約者を大切に扱う好青年ではなくなり、義妹におねだりされれば何でも買い与えるパトロンに成り下がってしまった。


この国では幼い頃に婚約が決まり、結婚するまで貴族たるもの純潔であれ、と厳しく教えられる。上位貴族であれば尚更に。王族であれば、更に厳しく。

たとえ家同士の繋がりとはいえ幼い頃に顔を合わせ、少しずつ絆を深めていく。時間をかけて愛を育む者もいれば、家同士の付き合いと割り切り、結婚して子を成した後のこと、裏では夫婦揃って側室という名の愛人と過ごし、表向きは大変良好な関係性を保つ夫婦もいる。

結婚後にどのような関係性を築くのか、それはあくまでその人たちの自由だ。貴族であれば愛人がいるのは暗黙の了解のようなところもある。


最初に教えられるその決まりを破る者も勿論いるのは事実であるが、ほとんどが結婚秒読みでついうっかり一線を越えてしまう、という恋人同士ばかりだ。そんな場合は即座に結婚式を挙げてしまう家も多々あるとか何とか。

そうではなく、婚約者ではない令嬢や令息と一線を越えた場合、『いずれ迎えるであろう婚約者との蜜月すら待つことの出来ない卑しい人物』というレッテルを貼られ、社交界で散々笑いものになるのだが、どうやら兄だった人はそれすらも忘れてしまったらしい。

そのような人物は貴族として失格、まして婚約者がいながら他に懸想したとして人としてもどうなのか?とも囁かれるので、その後悲惨な未来を辿るのはお察しである。


ルナリアが自死を選ぶ少し前、兄の婚約者が泣きながらルナリアに相談しに来た事がある。

『どうして』

『なんで』

『ルナリアが悪いわけではないけれど、どうしてあのような者達を由緒正しきソルフェージュ公爵家に迎え入れたの』

と、耳の痛いセリフが記憶を過ぎる。

ルナリアも止めようとしたのだ。

だが、まるで夜逃げをしてきたような凄まじき勢いで荷物が運び込まれ、いつの間にかアイツらのものと化してしまった我が家。

学園に通いながら、王太子の婚約者として振る舞いながら、父がやらなくなってしまった公爵代理の仕事をしながら、家令の管理も行いながら、兄を止めること、父を諌めることは出来なかった。何かをどこかで諦めるしかなかった。

無関心を貫き通せば、向こうもこちらには無関心になった。


だが、『私』がルナリアに入ったことで、本来の乙女ゲームとしての悪役令嬢たるルナリアの存在意義は大きく変更されたに違いない。

まずもってルナリアが自死を選んでしまった時点で内容からは相当外れている。

そして今のこの瞬間も。

ゲーム内ではこの義妹、主人公の取り巻きとして実は出ていたりする。


更に、時間軸。

ルナリアが女公爵として立つ前にゲームは開始され、ルナリアと婚約している王太子は転校生である男爵家令嬢と恋に落ちる。

その男爵家令嬢は異世界からの転生者で聖女、と。何ともまぁ設定つめつめな内容。

なお、ルナリアが忠告する内容を煩わしいと一蹴した王太子は、聖女である男爵家令嬢と共に悪役令嬢を退け、男爵家令嬢はシンデレラのように王太子妃となりハッピーエンドとなる。


自分でゲームをプレイしてエンディングを迎えた時は『聖女としてやってやったぞー!』とガッツポーズをしたものだったが、我に返るとこの聖女はとんでもない事してくれてるんじゃないだろうか?と思ったりした。


王太子は本来の婚約者であるルナリアを蔑ろにしまくった挙句、勝手にルナリアを悪役令嬢として仕立てあげてしまったから彼女はブチ切れ『王太子殿下がそこまでおっしゃるのであれば、ご希望通りわたくしは悪役令嬢とやらになって差し上げますわ!』と断罪の場で宣言、強大な魔力をもってして魔王召喚をしてしまったのだ。


義妹の金切り声のような泣き声をBGMにぼんやりと思い返せば、あのゲームの王太子も何もかも引っ括めて酷い内容だ。

周回を重ねるたびに違和感を覚え、少しだけ見方を変えてゲームをプレイしている内に、すっかりルナリアに惚れ込んでしまった『私』が出来上がるの、だが。


「うっ、ううっ、ぐすっ、おにいさまぁぁぁ…。おにいさまぁ!!!!うわぁぁぁぁあん!!!」


一際大きくなった甲高い泣き声に、はっと我に返った。


「女公爵様…いかがなさいますか?」


執事のカイルは心底めんどくさそうにルナリアに問いかける。


「…驚くほど頭の悪い泣き方をされても正直どうとも思わないし…単なる騒音にしか聞こえないけれど…そろそろ来るでしょう?娼婦にたぶらかされた『()』我が兄が」

「まぁ、その、はい…」

「元兄ごと、どうにかしなくてはならないわ。使用人もどき達も、この娼婦達も追い出して。我が家に必要なのは貴方達。こいつらはいらないわ」


「ルナリアっ!!!!!!!!」


バン!と勢いよく、ノックもなく扉が開かれる。

ぜぇはぁと息を切らし、鬼のような形相の兄。ランドルフ。


「おにいさまぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「あぁ…こんなに泣いてしまって可哀想に…!どうしたんだ、ルナリアに虐められたのか…?」


ちゅ、ちゅ、と音を立てながらあやすように義妹の頬やら額やらに口付けるランドルフを、呆れたように見つめるルナリア達。

それに気付かず自分たちの世界に入る二人。


「この人…、やっぱりいらないし容赦する必要もないわね」


冷えきった眼差しを向けられていることに気付かない2人は、ひっしと抱き合って互いの体温を確かめ合っている。


「現実に引き戻してから、出ていっていただきましょう」


地を這うようなルナリアの声、そして少しずつ温度が下がる室内に、ようやくランドルフと義妹はルナリアを見た。

気丈にも2人して睨んでみようとしたが、それ以上にルナリアの威圧が途轍もなかったせいで即意気消沈した挙げ句、へたりと座り込んだ。


「ごきげんよう、我がお兄様。そしてさようなら」


限りなく冷たい声音で告げられた『さようなら』の意味には気付かないまま、ルナリアの手の甲にあるスカーレットローズに、ランドルフはようやく気が付いた。


もう何もかも遅いとは気付かずに。

己の行動を悔いる暇など、もう、ない。

次回より兄への復讐開始。

なお、泣き喚く義母と義妹は自分たちの使用人からもスルーされております。

義母達側の使用人は何とかしてルナリアに取り入りたいけど、まぁ無理ですよね。

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