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身の程を知れ①

まずは義母と義妹への復讐を。

「お嬢様!いえ…、女公爵様!」


はて、とルナリアは首を傾げる。

まず家族が突入してくるものだとばかり思っていたが、とんでもない勢いで息を切らせ、ルナリアの部屋に入ってきたのは執事長でもあるカイルだった。

ルナリアの記憶にも、『私』の記憶にもきちんとある。

公爵家に仕え、ルナリアの母である先代女公爵の懐刀としても有名だった執事。

執事としても有能ではあるが、護衛としても有能であった彼は、母の遺言もあり静かにルナリアを見守っていたのだ。


『あの子はきっと女公爵になるわ。自分で選んで。だから、お願いねカイル、その日まで見守っていて。手は貸してはダメよ』


凛としたまま、誰にも弱い所を見せずに逝った前女公爵。

その生き様が寂しいものだと言う人もいるが、娘と執事、古くからの使用人たちの前では様々な表情を見せていたのだ。


でも、外で遊び歩いていた父は、そんな母を知らない。


何せ母が死んだ途端に愛人の家に入り浸り、挙句の果てに今現在、家に招き入れて愛人と、その連れ子にとてつもない贅沢をさせているのだから。

政略結婚だから、わざわざ婿に入ってやったのだから、遠慮なんかいらないとでも考えているのだろう。


だが、楽しい遊びの時間はもう終わり。


父はあくまで公爵代理でしかなく、最終的な決裁権は全てルナリアにあった。それを知らず遊び呆ける父親に疲れ果てていた。

執務をこなしながら、学園にも通いながら、何足ものわらじを履きこなして必死に耐え、『いつか目を覚ましてくれる』と無駄に信じてしまっていたルナリア。

でも、もうルナリアは『ルナリア』ではない。

そんな無駄なものを信じる必要も無い。


「カイル…」

「この瞬間を、お待ち申し上げておりました」

「遅くなりました」

「…はい」

「迷っていたの……バカね、私は……いいえ、『わたくし』は。あの父が、母が死んだ途端に後妻をこの家に呼び寄せた悪魔が…家族であるだなんて信じて、今日、この日まで生きてきたわ…」

「………」

「もういい。あんな父はいらない。義母も、義妹も、本来ならばわたくしの味方でいてほしかった兄上も…。あぁ…そういえばわたくしの婚約者とかいう王太子殿下もいらっしゃったわねぇ…?」


言いながら、ルナリアの纏う温度はどんどんと氷点下へと下がっていく。

伝う冷や汗を拭うことはできない。動けない。


「いらないものを…処分していきましょうか」


艶やかな冷笑を浮かべ、専用の使用人を呼ぶためのベルをちりり、と鳴らす。

先程部屋から逃げ出したメイドは義母付きの新人。

今鳴らしたベルで来てくれるのは、母の代からルナリアに仕えてくれている大切なメイドの一人。

ぱたぱたと足音が聞こえ、3回ノックがされ、『どうぞ』と声を掛ければ涙目でこちらに駆け寄るメイドと、それに連なり入ってくる料理人やフットマン。

みんな、母の代から仕え、父や義母ではなく『ソルフェージュ公爵家』に仕えてくれている古くからの使用人たち。


「そのベルが鳴らされる日を…心待ちにしておりました。お嬢様、いいえ…ソルフェージュ女公爵様」

「待たせてしまってごめんなさいね」

「いいえ…いいえ、何をおっしゃいますか!今までどれだけルナリア様が耐え忍んだか!先代女公爵様から仕える我らは、ただ、この日をお待ち申し上げておりました!」

「……これより、わたくしは王城へと向かう準備にとりかかります。けれど……あぁ、うるさいハエどもが喚いているわね…」


ドンドン!と遠慮なく叩かれるドアに、室内の殺気がぶわりと膨れ上がる。


ルナリアはすぅ、と腕を上げて白い指先をぱちん、と鳴らした。

悲鳴が聞こえ、どたんばたんと何やらやかましい音が響く。


「ルナリア様、今のは」

「義母と義妹が新人使用人達にドアを破らせて、わたくしの部屋に入ってきそうだったから結界をはりました。さぁ、わたくしに女公爵としての礼装を着せてちょうだい。カイル、急ぎ国王陛下に伝令の使い魔を飛ばして。たった今、ソルフェージュ女公爵が新たに就任した、と。…四大公爵家筆頭として、ご挨拶に向かいます、と」

「かしこまりました」


恭しく礼をし、カイルに続いて他の使用人たちも頭を下げる。

カイルは慣れた手つきでソルフェージュ公爵家の家紋である薔薇の印が額に付いた使い魔を呼び出す。くるくると指先を動かせば、使い魔に吸い込まれていく伝文の文字たち。

全て吸い込まれると王城へと直通の『ゲート』という魔法を使うための魔法石を懐から取り出し、起動する。

空中に魔法陣が描かれ、ぽっかりと黒い穴が開くと使い魔は迷うことなくそこに飛び込んだ。

これで使いはすぐ様王城へと飛び、国王へと知らされるだろう。


本来、ソルフェージュ公爵家では使用人を大量に必要としない。

少数精鋭とでも言えばいいのか、個人ではなく家族で仕えているものも多いこともあり、言わずもがなで仕事をしてくれる大変有能な人達の集まりだ。

料理が出来るから、掃除ができるから、算術ができるから、ただそれだけではない。ありとあらゆる方面で秀でている面々が集まり、その繋がりで更に人が集まる。

わざわざ使用人募集の呼び掛けをしたことはない、のだが。

義母は『公爵家で働けば将来が安泰だ』とかなんとか言いながら、自分を褒め、賛美の言葉をかけ、気持ちよくしてくれるだけの無能ばかりを集めた。

そのせいで、随分と屋敷の中は風紀が乱れてしまっていた。


もう、それも終わるけれど。


必死に結界を破ろうとしているのだろう、ルナリアの部屋のドアにぱちぱちと火花が散っている。

何て事をしてくれているのだ。

部屋の扉に傷がついてしまうではないか。


「着替えの前に、新参者をどうにかしましょうか…煩くて仕方ないわ」



「人の家に勝手に上がり込んで……タダで済むと思わないでいただきたいわね………いきますわよ」



着替えをする前に指をぱちん、と再度鳴らせばすぐさま解除される結界。

そしてなだれ込んでくる複数人のメイドや新人執事、そして義母や義妹。


「ようこそお越しくださいました、義母様に義妹様、そしてお仕えの方々。…………誰に喧嘩を売ったのかお分かりになるのであれば、早々に退出なさることをオススメいたしますけれど…」

「うるさい!!いい気にならないでちょうだい!!この、偽物女公爵!!!」


濡れ衣もいい所。もはや意味不明でしかない。

こちらの使用人たちの殺気がとんでもなく膨れ上がっているが、ルナリアが片手を上げるだけで落ち着きを取り戻す。

今までルナリアは反論も反撃もしなかった。

でも、もうそんなものは過去の話だ。

ぐっと拳を握ると手にまとわりつく黄金の電撃。


「偽物……?……ねぇ……誰に向かって、そんな事を言っているのかお解りでして?義母様」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


足元スレスレにわざと、黄金の電撃を飛ばすと甲高い悲鳴が上がる。

その場にへたりこんだ義母に寄り添うように義妹がしゃがんだ。


「お姉様酷いわ!!お母様が何をしたというの?!いつもお姉様はそうよ!!選ばれた人みたいに偉そうに!」

「偉いんですもの。というか貴女は黙って下さらない?」


もう一発、スレスレの位置に電撃を放つと義母と義妹は互いに抱き合いガタガタと震えている。


「こんなはずじゃなかった、みたいな顔をなさらないで。もうお遊びは終わりにいたしましょうね…?」


とても艶やかな、そして冷酷な笑みを浮かべてルナリアは2人を見下ろしたのだった。

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