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19/21

決別の誓い

遅くなりました…!

先日のアレは、断罪に見せかけた逆転劇とでも言えばいいのだろうか。

いや、一応は断罪劇と言う方が正しいのかもしれない。


聖女マナが無駄に仕掛けた断罪劇は、王太子教育のやり直しの確約と、聖女の役目を果たすこと、マナとデイルの破局を許さないという事ですっきりまとまった。いや、在るべき形へとおさめてやった。

マナの実家は、娘の教育がきちんと出来ていなかった事を諌められたが、『聖女』なのは彼女だけであって、マナの父母は聖なる力とは無縁の存在である事が証明されてしまえば、後は本人の性格、としか言えなかった。


迷惑をかけてしまった、と子爵夫妻に頭を下げられたが、父母が悪いわけではないのだから、と優しく労れば泣いて感謝をされた。


家での騒動、ならびに学園での騒動の報告書は大変分厚くなってしまったが、綺麗にまとめ終え、ルナリアは大きく伸びをする。


「んー……」


あの断罪劇(未遂)が終わって後、ソルフェージュ公爵家でささやかではあるがパーティーを行った。

断罪劇での死亡は逃れた。

もう、ルナリアが怯える必要なんて無いと思いたいが、王家は恐らくルナリアをまだ諦めていない。


「さて、わたくしは王家には嫁ぎたくないから側妃にはならないとあの場で宣言したけれど…念には念を、かしら」


こき、と首を鳴らしてから次の仕事に取り掛かろうと書類に手を伸ばすと、執務室のドアがノックされる。


「はい、どうぞ」

「失礼致します」

「…カイン?」


苦虫を噛み潰したような顔で室内に入ってきた執事を、不思議そうに見つめれば、持っていた手紙を差し出された。


「それは?」

「………王太子殿下からの、文にございます」

「は?」


馬鹿か?!と思わず叫びそうになったのをぐっと堪える。

あれだけ念を押されたのに、どうして図々しくも手紙などを出せたのか。


「心の底から意味が分からない…っ!」

「…心中お察し申し上げます…」

「カイン…四家当主全員に連絡をする準備をなさい」

「かしこまりました」

「あぁそうだ、アストリア家はミトス宛てよ。間違えないでちょうだいね?」

「ミトス卿はもしや…」

「卒業式が終わってからだけど、当主の座を()()()()()そうよ」

「それはまた…」


おやおや、と苦笑いをするカインにつられて、ルナリアも笑う。


「もう少し先になるかと思ったんだけど、『新しい風入れてやる!』って決闘を申し込んだんですって」


家により、当主継承の儀式は異なっている。

ソルフェージュ家は『魔導』だからこそ、己の力を用いてあの鐘を鳴らすこと。

ミッツェガルド家は前当主から出される試験に、全ての条件をクリアした上で合格すること。アリシアの場合は、『新たな交易先を、国に影響が及びすぎない範囲で見つけ出した上でルート確定までさせること』だったそうだ。しかしこれはアリシアの父母に出された課題であった。

だが、たまたまそこに居合わせた幼いアリシアがいともまぁ、あっさりクリアしてしまった事で、親を飛び越して相続してしまったと聞いている。彼女の祖父は目を丸くしたものの、クリアした事実は変わらないから、と。証である『ブルーローズ』を譲り渡した。

アストリア家は単純明快。

武の道の家なればこそ、『武』をもって奪い取れと、そういう事だそうだ。だから、ミトスは卒業式のその日に父親に対して決闘を申し込んだ。それまで一本も取れなかったのに、その日は気迫が全く異なっていたという。

そして、ミトスはぼろぼろになりながらも、証の『ブラックローズ』を手に宿した。


「そろそろ代替わりか、と仰ってはおりましたが…そうですか…ついに」


母の代から仕えてくれていることもあり、多くを語らずとも理解してくれる執事。

ふふ、と小さく笑いを零してから王太子からの文を開けないまま、デスクに置いた。


「カイン。王太子殿下よりの文がわたくしに届いた事を伝えた上で、こう続けなさい」



「四家当主揃い、我らが王にご挨拶を」



いつもの様に身支度を行う。


いつもの様に、魔術礼装へと魔力を流す。


そして、いつもの様に、ゲートをくぐって王宮へと向かう。


四家それぞれ、当主たる証の衣を纏い、手の甲には家の色と意味をもつ証の薔薇の刻印が光る。



ブルーローズ。

不可能。

けれど、それを乗り越える器を有し、全てを以って困難、不可能を可能へと変貌させよ。


スカーレットローズ。

魔を以て魔を退ける。

己の力に溺れることなく、真っ直ぐに、これ以上なく熱き想い持ち、高潔なる己を示せ。


ブラックローズ。

時に威圧を、時には礼儀正しさを。

武を持ちこれを退け、武を持ち民を、国を、己を守れ。

己が信念を貫き通し、真っ直ぐに。


ホワイトローズ。

何者にも染まらぬ強き意志と、気高き理想。

知性を以って信念を守り、道を示し照らす灯りとなれ。



各家に伝えられている信念は、曲げない。曲げさせない。

当主となればこれを守り、己の仕える主に対して信を貫き通せ。


四家が仕えているのはあくまで『今の』王であり、『今の』王家なのである。王太子には仕えていない。

だからこそ、ルナリアの手元に届いた手紙に関しては報告しなければならない。あのパーティーであそこまで突き放したにもかかわらず、(中身は確認しなくともいい物だとは思えないし)こうして、婚約者以外の女性に対して手紙を送ってきている。

あの王太子は、最後までルナリアが己を助けてくれると信じているのかもしれないが、情の欠片も残っていないのだ。


「愚かしいこと…この上ない」


冷たく呟きゲートをくぐり、王の間に入る前に四家当主は互いに顔を合わせた。


怒り心頭のアリシア、呆れ果てた様子のファリトゥス、そして何ともいえない表情のミトスに、ルナリアは届いて封を切っていない手紙を懐から取り出した。


「お姉様、アイツぶっ殺しましょう。えぇ、是非ともそうしましょう」

「アリシア…そんな事を言うものではなくてよ」

「あれだけ愚かしい行為をした上に、まーーーだお姉様を頼る時点でもう見切りをつけて処分するべきですわ!」

「一理あります」

「ファリトゥス様…」

「いや、実際そうだろ」

「ミトスまで…」

「話は聞いています。あれだけの事をやらかした王太子に対し、心機一転王太子教育をやり直すというだけでも顰蹙を買っておりますからね」


王太子教育のやり直し、と聞いて、少しの貴族は『あぁ、正してくれるのか』と思ったのだろう。だが、やり直しなのだ。今まで散々時間をかけてきたもののやり直しを行うことが、どれだけ無駄となってしまうのか。

行う際の費用は民からの血税によるもの。その民の中には勿論貴族も含まれている。

王宮で政治に携わる者として、ファリトゥスもさすがに頭を痛めたようだ。


「すげ替えれば良いだけの話なのですよ。だが、我らが王はそれをしなかった」


はぁ、とため息を吐いて言葉は続けられる。


「この国には他にも王子はおります。…アリシア嬢の婚約者も含め、所謂適齢の王子、もとい王太子候補がね」

「あぁ、第三王子殿下の事ですわね。あの方、あたくしは大変好ましく思っておりますわ」

「それは何より。お二人はこのままであってください」


よしよし、とアリシアの頭を撫でるとファリトゥスは魔術を使い、現王家の王子達の姿絵を空中に投影した。


「アリシア嬢と第三王子殿下、そしてルナリア嬢とデイル殿下を結ばせることで、現王家は己の地位を確たるものにする必要がありました」

「えぇ」

「国王陛下は施政者としては、大変優れておられますが…、デイル殿下への親としての情を捨てきれなかったのでしょうね。例のパーティーの後、王太子教育のやり直しは行われてはおりますが、…まぁ…えぇ。内容は公表しておりませんが…」

「あー…」


普段ならばありえない言葉を濁す様子に、ファリトゥス以外の三人は何かを察し、揃って頭を抱える。


「厳しい事言っときながら、それでも親、かー…」

「最愛の王妃の、それも一人目の御子ですからね。そこが無ければ、我が王は大変に素晴らしき王であられる」


「甘さは捨てていただかなければ。いくら我が子といえども、ね。民に示しがつきませんもの」


冷えきった声音のルナリアの言葉に、三人は頷く。

許してはならない。

筆頭公爵家、それに追ずる公爵家を舐めてもらっては困る。

彼らは、ある意味で貴族の頂点に立っているのだ。見本となるべく動き、そして導き、使命を全うする。


「さ、入りましょうか。手紙の報告をしてから…改めてわたくしの意志をお伝えせねばならないでしょう」

「あたくしも、国王陛下にはお伝えせねばなりませんわ。婚約者の第三王子殿下は、我が家に婿養子としていらっしゃるのですから」

「援護射撃はわたしがいたしましょう」

「ついでにさ、ルナリアが王家に嫁がねぇんなら養子取る手続きもいるだろ。アストリアが保証貴族になって手伝うぜ」

「ありがとうございます、皆様」


ふ、と笑みを浮かべる。

冷たい冷たい笑みを。


王の間の扉をノックすれば、いつかのような聞きなれた威厳のある声が、室内から聞こえてきた。


四家当主は、示し合わせたように開かれた扉の中に吸い込まれていく。

まるで、誰かが音頭を取ったように合わせて歩く四人に、あまりに大きな威圧感、そして威厳と迫力に、王の間に控えている王宮の兵士達は自然と、いつもよりも背筋が伸びていたのであった。

次で終わりそうな気配が見えてきたので、クライマックスへと突き進みます!

多分最後は長くなりそうです…。

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