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そして舞台は終幕へと①

いよいよ、卒業パーティーの日がやってきた。


ゲームではルナリアが王太子にくっついて離れないマナに対して苦言を呈したり、男子生徒との付き合い方に物申していたのだが、今はそんなことを一切していない。

してやる必要がないものを、する理由がない。

だから、マナから言われる内容には一切心当たりがないし、言われたところでクラスが違うから物理的に接触もできないから『知らない』としか言えない。

クラスメイトや先生、一般生徒からも最近は特に同情されたりしているし、マナに対しての評価、王太子への評価はもうとっくに地に落ちている。


しかし、飽きもせず、マナはひたすらルナリアを見つけては杜撰すぎる冤罪を被せてきたが、論破すると泣いて走り去り、放課後にデイルに呼び止められ『淑女とは』と説教される始末。

あまりにイラついて『お前に淑女がどのような存在であるのかを説明されるとかアホらしい。それよりも隣のアホをどうにかしろ』と、破れたオブラートに包んで告げてやると、二人揃って盛大に顔を引き攣らせていた。


カフェテリアで騒ぎを起こし、その場にいた生徒からの顰蹙をかい、廊下で遭遇すればわざとらしい被害者劇場を繰り広げてみるものの、特進クラスへと続く回廊に入るには、一般クラスの生徒では無理であり、学園長の許可が必要なこと。特進クラスと一般クラスの時間割がそもそも違うことを告げればまた騒ぎ立て、何故か不公平だとか、『ゲームと違う』と意味のわからない内容を延々騒ぎ立てる人を、どうして淑女と呼べるのか。

それを言うのが情けなくも、(まだ)己の婚約者である事にさすがに我慢の限界は訪れる。

取り巻きの中にはファリトゥスの親戚筋の令息もいる始末なので、最後の大掃除は今まで以上に徹底的にやってやろうと決めた。


『ルナリア』が取ってきた行動がどのようなものであったのかを道標のように教えてくれるウィンドウは、引き続き大変便利に利用させてもらっている。

これまでの彼女と違う行動を取る事が常に予想外な彼らは、いつも慌てふためいており、まるで学芸会の面白い出し物を見ている気持ちになってしまう。


悪役令嬢とでも、何とでも好きなように言えばいい。


一体どこをどう見れば彼女ら曰くの『悪役令嬢』になるのか。

何をしているのかと問われれば、単にこの世界での常識を説いているだけだ。

婚約者、恋人のいる相手に必要以上に近寄るな、距離感を間違えるな。家柄だけで人を判断するな、身分だけでは何も分かりはしない。

その人柄はよく話して初めてわかることが多いのだから。

そして素っ頓狂な行動を繰り広げる彼等と、淡々と常識を説くルナリア、果たしてどちらが『まとも』と称されるのか。


これが一般的な、所謂平民なら特に気にしなかったのだろうが、彼らは貴族。

生まれた時からの婚約者がいる場合もあるし、家同士の契約としての婚姻を結ぶための婚約者がいる場合もあり、人により事情は様々だが。

普通に考えて、婚約者がいるのにベタベタと、しかも女性から声をかけて過度なスキンシップを楽しむなど言語道断。男だからいいというわけでもないのだが。


節度は保たなければいけない。


あくまで学友として、複数人がいる前での極々軽すぎるほどのおふざけならば、もしかしたら、まだどうにかなったはずに違いないのに。

逆ハーレム状態のお姫様のような扱いを受けたいがために色々と画策しているような令嬢に、近付きたいと思うような令息はいないだろう。

知らないのは、もう本人たちばかり。


「お時間です」


身支度を済ませ、静かに目を閉じ時間が過ぎるのを待っていたルナリアは、カイルの声ですっと目を開いた。


「王太子殿下は…」

「来なかったのでしょう?良いわ、別に。どうせ期待なんかしていないもの」

「左様でございましたか」

「えぇ。では、行ってくるわ。帰ってくるまでに色々と準備をしておいてちょうだい。多分…アリシアは来ると思うから」

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」


見送られ、玄関前に控える馬車に乗り込んだ。

もう、学園に行くことはなくなるからこそ、周りの景色をじっと見つめる。


「……ゲームのエンディングイベントをするつもりでしょうけれど………甘く見てもらっては困るわよ、聖女サマ」


断罪からの追放、そして聖女は皆に愛される偉大な王妃に。


そんなもの、()()()()()()()()()


きっとまだあの聖女は己をメインにしたストーリーだと信じているだろうが、もう愛されていない聖女など、単なる子爵令嬢でしかない。

王太子の婚約者に対しての無礼の数々、そして公爵家令嬢ならびにその学友令嬢達への無礼、失言。

数えてみると、そこそことんでもない数の失態が出てくる。


「ふふっ……なんて愉快なのかしら……」


嗚呼、面白い。


ゲームでは唯一の聖女、絶対的なヒロインが、現実になるとこんなに痛々しいだけの女になってしまうとは。

人のものに手を出しさえしなければ、ちょっと痛々しい不思議なぶりっ子、で終われたのに。


「リアルでいたら、関わりたくない代表みたいな女だったわね」


はー、と溜息を吐きつつ外を見ていると、見慣れた学舎が見えてくる。

学園に続く道は魔道具を使い飾り付けが行われ、夕方で薄暗くなりつつある道を色とりどりの明かりで照らしている。

その中を進む馬車や、歩いている生徒たち。景色を楽しむべく設置されたベンチに座る女子生徒。


学園に近付くにつれ、周りは男女パートナーになり歩いている生徒達や、学園に到着して馬車から降りている生徒達の姿が目立つ。


「さて、と。堂々と真正面から向かいましょ」


馬車が学園に到着し、ルナリアは御者に手を借りて降りる。

生徒たちがざわめき、見知った顔の令嬢達が青ざめてこちらに駆け寄ってきた。


「ルナリア様、あの…もしや…」

「大当たりですわ。でもお気になさらないで?」

「でも…!」

「良いのよ、もう。…さぁ皆様、会場に向かいましょう」


少しでも健気に見えるよう、無理をしたような笑顔を貼り付け、堂々と一人歩みを進める。

痛々しげな眼差しを向けてくる生徒が多かったが、あまりにルナリアが堂々としているものだから、次第に向けられる視線が変わりつつあった。


『パートナーがいなくても堂々と振る舞う公爵』として認識でもすればいい。

そうしてくれた方が動きやすくなる。


受付を済ませ、会場内に入ると特進クラスの生徒たちが慌ててルナリアの下に駆け付けてくれた。


「まさか…」

「えぇ、大当たり。わたくし一人で来たの」


ふふ、と笑うとファルマの顔色は蒼白になるが、ルナリアの微笑みを見て少しずつ普通の顔色へと戻っていく。


「何か、考えがあるのね?」

「勿論。…というより、向こうが仕掛けてきて自滅してくれるのを待つだけだけれど…女公爵として動きやすく王家に対して『交渉』しようかな、って思いましたの」

「あら…悪いお顔ですこと」

「だって、わたくしはマナさん曰く『悪役令嬢』?らしいですから。悪役は悪役らしくしてさしあげなければ」


輪の中心になっているルナリアは至極楽しそうで。

復学してこれまでの行動を見ている特進クラスの生徒たちは、ようやくほっとしたように力を抜いた。

彼女がここまで言い切るのだから、間違いなく大丈夫だと思えてしまう。


むしろ、王太子と聖女がどうするのか。


殆どの生徒は到着し、パートナー同士での歓談を楽しむ人もいれば、ルナリア達のようにクラスメイトで集まる人たちもちらほら増えていた。

その矢先、勢いよく会場入口が開くと、勝ち誇った笑みを浮かべるマナをエスコートして、王太子であるデイルが入場してきたのだった。


一気に静まり返る会場。


ルナリアの姿を見つけると真っ直ぐそちらに向かい、デイルは彼女に対してびっ、と指を突きつけてこう叫んだのだった。


「本日、この時をもって貴様との婚約を破棄させてもらうぞ!泣いて詫びるなら今だが、もう許してなどやらん!幻滅させられたぞ、ルナリア・イル・フォン・ソルフェージュよ!」


ニヤリ、と笑みを浮かべるマナだが、ルナリアの表情を見てぎくりと硬直する。


「どうぞ、王太子殿下のお好きなように。わたくしとの婚約は王家が決めたもの、国王陛下の許可をお取りになった上での行動かと思いますので、いち臣下であるソルフェージュはこれに従いましょう」


「え?」


澄み切った声で澱みなく、ハッキリ、その場にいる人に聞こえやすいよう、大きな声で告げたルナリア。


「わたくしに瑕疵があるのであれば、その旨記した書類と証拠を揃え、ご提出なさってくださいませ。その後、婚約破棄の書類に互いにサインをすれば、王太子殿下のお望みは叶いましょう」


にっこり、と擬音がつきそうな良い笑顔で告げると、デイルとマナは真っ青になる。


ギィ、と再び扉が開く音がした。

こつん、こつん、と。複数人の足音が響き、こちらに歩み寄ってくる気配もする。


「改めて、もう一度宣言なさいませ王太子殿下。きちんと、聞こえるように」


「な、ん」


「国王陛下も、もう一度お聞きになりたいでしょう?」


弾かれたように振り返ると、絶対零度の眼差しがデイルとマナを射抜いた。


「聞かせよ、我が愚息。………何を、すると?」


圧倒的な威圧感と迫力。

隣に並ぶ王妃からも、一切の表情は読み取れず、ただ冷えた眼差しが二人に向けられている。



───────さぁ、舞台は整った。

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