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始まり~目覚めて起きたらとても美少女でした

思いつきその2。

長くなりそうな予感しかしないです…。

カーテンから差し込んでくる光。

朝日が目蓋にかかり、眩しさに少し身動ぎをしてから重たい目蓋をゆっくり持ち上げる。


「お嬢様、お目覚めになられましたか?」


はて?と。私は確か一人暮らしだったはず。なので他の人からこんな風に聞かれるのはおかしい。

数回、ぱちぱち、と瞬きをしてからゆっくり体を起こす。

ついでに、目の前の景色も何だかおかしい。

自分の部屋はよくあるワンルームで、こんなに広くはなかったはずだ。

起きてまず視界に入るのは本棚のはずなのに、ない。


「あの…お嬢様…?」

「………………………………だれ?」


ついでに、こんな澄んだ声の持ち主ではなかったはずだ。

そもそもメイドなんかうちにいるわけもない。

色々とおかしい事ばかりだ、と、ベッドから立ち上がり部屋のカーテンを左右に開くと広大な庭園が視界に入る。東京ドーム何個分あるんだろう。

なお、先程自分が『誰』と問いかけたメイドは悲鳴をあげて部屋を出て行ってしまった。

恐らく止めた方が良かったのかもしれないけれど、そんな余裕はなかったし、窓からの景色に思わず見惚れたので止められなかったのもある。

あとは、まず自分の容姿を確認する必要があったからだ。


姿見を発見したのでそちらに歩み、改めて自分の姿をまじまじ見つめる。


プラチナブロンドの美しい髪。

少しくせっ毛なものの、ツヤが半端ない。所謂天使の輪っかだろうか、てっぺんあたりにあるアレ。すごい。しかも髪の毛は絹糸のようにしなやかで触り心地が良い。そして長い。余裕で腰まである。

少しつり目がちだが瞳の色は澄んだサファイアブルー。

前髪が少し目にかかるが、横に流してセットしてしまえば問題は無さそうだ。


しなやかな体、細い腰、だがしかし筋肉も程よく付いている。

所謂パーフェクトボディというやつではなかろうか。

いや、それよりもこの姿は。


「……ルナリア・イル・フォン・ソルフェージュ……?」


自分が大好きだった乙女ゲーム、『天使の加護は貴方と共に』の悪役令嬢。

確か四大公爵家の筆頭公爵家、ソルフェージュ家の第一令嬢という立ち位置だったはず。記憶に間違いがなければ。

というかこの顔は忘れもしないし間違いもしない。ルナリアだ。

自分の推しの顔を間違えてなるものか!と内心絶叫してから改めて鏡をまじまじと見つめ、触れる。ちなみに肌はとんでもなくすべっすべだった。


「どうして…」


確か自分は仕事が終わって、家に帰ってきて、それから件のゲームの続きをやろうと本体の電源を入れた……はず。帰宅してからの記憶が無いのが地味に怖い。

それがどうしてこうなっているのだろう。

考えても分かるはずはない。

だが、鏡に手を触れた瞬間、電流が走ったような衝撃と同時に頭の中に膨大な記憶が入り込んできた。

あまりの情報量の多さに目眩と吐き気も追加されるが、鏡の中の映像に目を見開いた。


『どうして……どうして誰も分かって下さらないの…!』


『私は…間違っていない!!』


『もう、いやよ…つかれたわ…』


『愛されないならもう…誰も愛さない。私なんかこんな世界にいらない!』


泣きじゃくり、部屋を荒らし、そして。


『もう、いいの』


ルナリアの震える手が持つのは華奢な短剣。


『だって、私はもう、必要とされていないのだから』


決意した顔で、思い切り腹部を突き刺す鏡の中のルナリア。

そうかこれは。


「貴女の記憶なんだね、ルナリア…」


鏡の中に映るルナリアは、腹部に短剣を突き刺した。

それを見た侍女が慌てて父と母、兄と妹を呼んでくる。

鏡の中の映像で、家族は心配すらしていなかった。手当はしたもののそれだけ。誰もお見舞いになんか来ない。居るのはルナリアが幼い頃からそばに居てくれたメイドと、母の代から仕えてくれている執事だけ。


「辛かったね……痛かったよね……苦しかったよね…っ…」


自然と涙が出てくる。

ゲームの中でもルナリアの行動は断罪され、そして誰からも気にされず独りぼっちになり、ゲームの世界ではその後が分からないままだったのだ。


こんな思いをしていたのか、彼女は。


ぎり、と拳を作り改めて鏡に視線を向けると、ふわりと、半透明な本物のルナリアが映る。

思わず背後を確認したが、もちろん誰もいない。


『ごめんなさい。…わたし…もう……疲れちゃった……その体…あげるから好きにして…。もう、ね…いいの、何もかも…巻き込んでしまってごめんなさい…!』

「良いよ。ルナリアちゃんよく頑張ったねぇ、偉い偉い」


撫でることは出来ないけれど、出来るだけ寄り添うように。

そっと手のひらを合わせてみる。

ルナリアの顔で微笑みを浮かべていると、鏡の中の彼女は目を丸くした。


『わた、し……私、………頑張れた、の?』

「いーーっぱい、頑張った!」

『誰にも認めてもらえなかったけど、頑張れた、かなぁ』


ぽろり、と鏡の中で彼女は涙を零し、くしゃりと表情を歪めた。きっといつもこうやって、耐えていたんだろう。

誰も彼女を褒めなかっただろうし、認めてあげなかったんだ。

はい泣き顔も美少女ーーーー!!!!ぐうかわーーーー!!!この子を除け者にした罪は万死に値しまーーーす!!!!と、叫びそうになった台詞を、必死に呑み込む。

もうこの体は『私』ではなく『ルナリア』なのだから。


大丈夫、あのゲームはやり込んだ。

何なら攻略本が擦り切れるまで読み込んだし、隠しEDの条件までバッチリ頭に叩き込んである。

ルナリアの隠しルートまでやり込んだ。そして号泣した。

ならば、『私』にやれないことは無い。


恐らく元の世界の『私』は死んでしまっているのだろう。

何せ勤め先は大層なブラック企業。

唯一の救いは残業代だけはもりもり出るところ。本当にそれだけ。

もう何連勤したかなんて覚えてないけれど、そのお陰で、どういう因果律かも分からないけれど、私は此処にいる。


そして確かルナリアが己を刺していた短剣、あれはきっと。


「ルナリア、貴方が自分を刺した短剣。あれは、膨大な魔力を持つ人間が、治癒能力を阻害させて自殺するための短剣だね?」

『知っているの…?』

「知ってる。だって、ルナリアは先代女公爵様譲りの莫大な魔力を引き継いで、この公爵家の跡取りとして育てられ、18歳になる日に女公爵として国王陛下への謁見をする予定だったでしょう?」

『…………』


こく、と頷くルナリア。


そう、彼女はゲームの中ではとんでもないチートキャラだったのだ。


『天使の加護は貴方と共に』の裏ボスにして倒すことの出来ないチートキャラ。

主人公の聖女がどれだけ努力しても一定ターン経過しないと『普通には』倒すことのできない程の強敵にして、四大公爵家筆頭次期女公爵。

それが、自分の愛する推しキャラの『ルナリア・イル・フォン・ソルフェージュ』なのだ。

四大元素を操り体術も完璧、礼儀作法も勉強も何もかも。

それが先代女公爵の血反吐を吐くような教育の賜物にして、譲り受けた魔力の高さからくるということは、設定資料集を隅から隅まで、舐めまわすようにして読み込んだので知っている。


そんなルナリアは普通の方法では死なない。


彼女を殺すためには自動ヒールを解除するための超弩級レアアイテムである短剣が必要になるが、入手は超短期イベントの最中にソルフェージュ家からかっさらってこないといけない代物。

保管しているのはルナリアの部屋。

ルナリアを殺してもEDに変化はないが、やり込み要素の一つとして組み込まれていたがどうやら達成した人は極端に少ないそうで。


『そこまで知っているなら……大丈夫かな……』

「任せて、ルナリアは頑張りすぎくらい頑張った。だからこれからは私が頑張る番よ。……言い方は良くないけど、その…きっと貴女は輪廻転生して、次は普通の女の子になれるはず」

『……うん』

「よく頑張りました、ルナリア・イル・フォン・ソルフェージュ嬢」

『うん…!』


すぅ、と鏡の中の彼女は消えていく。泣きながらも綺麗な笑顔を浮かべ、そして彼女は手を合わせ、何か呪文のような物を唱えている。


「ん?」


優しい桃色の光に包まれ、何かが授けられたような感覚。


『ありがとう』


最後にとっておきの笑顔を浮かべたルナリアは、消えた。

そして、『ルナリア』として残る彼女は氷点下の空気を纏う。


「えぇ、全部任せてルナリア。『私』がルナリアになったからには容赦してなんかやらないわ。………まずは、家族から………」


ピロン♪


「はい?」


【もうすぐ家族がこの部屋にやってきそう!女公爵としての証の鐘を鳴らす?】

▶はい

▶いいえ


「何これ」


ぴこぴこと光るそれはどうやら選択肢のようだが、よくよく見ると『▶いいえ』が微かに光っている。


「まさかこれ、ルナリアが過去に選んだ選択肢…?おいおいおい、何ていうチートを授けて逝ってくれたんだよルナリア様…」


思わず様を付けて、今はもう居ない彼女に最大級の感謝をした。


「変えてやる…………虐げられて退場なんてしてやるもんか……!何もかもひっくり返してやる…!」



その日、先代女公爵が亡くなってから鳴ることの無かった、女公爵専用の魔力鐘が鳴り響いた。

それは、新たなる女公爵の誕生を示し、ルナリアを虐げていた家族への報いの鐘となるのであった。

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