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秋野先輩が危機を持ってきたそうです。


「そういえば写真、取れていましたか?」


 部室内にて、パソコン作業をしている秋野先輩にぼくは問いかけた。

 昨日の矢の件とかありますし。もしかすれば、見ていないだけで刻猪が消滅したかもしれませんからね。


「うん! バッチし!」


 グーサインをしているということは大丈夫なんですね。それは良かったです。

 斬ってはいますけど、倒してはいませんからね。これで消えていたら、防衛手段を失うことになりますし。

 あの後は特に何事も無かったんですよね。秋野先輩と一緒にいたためか、特に何も怪我とかもしませんでしたし。

 それから数分後、ようやく編集が終わったのでしょうか。脱力した様子で秋野先輩は席にもたれた。

 天井を見上げるようにして秋野先輩は呟いた。


「私たちに知られず、怪異を討つ者がいる。みたいな?」


「羽江さんのような人達がいるってことですか」


「まぁね」


 間違いなく何人かはいるでしょうね。陰陽師とか過去ありましたし。ひとり居れば百人はいそうです。


「というか本当に氷濃は知らないの?」


「知らないですね。知っていても、もう既にこの世にはいない人です」


 知らないからこそ、先祖に聞いたほどですし。ぼく的には神様を使って何かしているってわけじゃありませんからね。

 それに、神様を使役するなんて恐れ多いにもほどがあります。それこそ巫女でもそうそうできない芸当――


 ――ダンッ!


 部室の扉が叩きつけられるかのように開かれた。犯人の人は入ってくるなり、こう大声で叫ぶ。


「昨日もまた行きましたよね!」


 噂をすれば何とやらですね。神様を使役できる羽江さん。

 羽江さんはズカズカと入り込んでくるなり、妙に怒りを含めた口調で言い放つ。


「怪異と勘違いするので止めてください!」


「ということはあの時の矢ってやっぱり!」


 秋野先輩は元気を取り戻したようで力強く立ち上がり、一瞬にして羽江さんに詰め寄っていく。

 たじたじになっているのを見るに、羽江さんって押されると弱いタイプですね。


「……そうです。カミサマの力です」


 ぶっきらぼうに羽江さんは目線を斜めに逸らした。


「やっぱり! 今度こそ詳しく聞いていい?!」


「……まず最初に訂正を。漢字で書く神様じゃないです。カミサマです」


 神様じゃなく、カミサマ。何か違うんでしょうか?

 別段特に変わったところは無いと思いますが。

 羽江さん、秋野先輩の圧しに負けたようですね。不本意そうにブツブツと喋り出した。


「カミサマとは、神に成りあがる途中の神様といったところです。名前はついていますが、本質的には西洋の妖精に近いですね」


 カミサマは神に成りあがる途中……。神ならざる神。なんかまだ良く分からないですね。

 妖精で例えるということは多くいるのでしょうけど。


「天津神、国津神とは違うのでしょうか?」


 簡単に言えば、東洋に伝わる天の神と地の神の違いですね。カミサマとは違うかもしれませんけども、近しいなんてのは。


「彼らは神様なので全く違いますね。そもそも、そんな高次元の存在、身に降ろせないです」


 羽江さんはそう言って首を振る。

 まぁ、ぼくらからすれば天も地も関係ありませんよね。そりゃそうです。無理なものは無理ですね。


「はいはい。じゃ、カミサマって低次元の存在ってこと?」


「その質問は失礼ですよ。どういえばいいかな。……気づいたら発生していて、名も知らずに消えていく存在っていえば通じますか?」


 信仰でしょうか。それとも小さな流行? そこまで行くとぼくも分からなくなってきますね。

 秋野先輩は……大丈夫そうですね。目を爛々と輝かせているようですし。あれは聞く専門に回った時の顔ですし。


「……わたしたちはそんな彼らから力を借りうけて戦う、神巫(みかみ)……じゃなくて巫女みたいな存在です」


 言い直してももう遅い様な……。

 そんな顔を真っ赤にして「巫女です! 巫女ですからね!」と慌てて強調されると余計に……。


「じゃあ次は怪異についてを――!」


「ともかく! 怪異のいる場所に! 行くのは! 止めていただきたいのです!」


 羽江さんは腕を振り上げてぴしゃりと言い放つ。その目からは、危険なのを伝える意志で塗り固められているような気がした。


「わざわざ怪異に出向く必要は無いでしょう! 気になるのは分かりますが、見ているでしょう! ひとつ間違えたら死ぬんですよ!」


 ……そうでしょうね。ぼくたちは何度も怪異に危険性について目の当たりにしてきた。

 何なら殺されそうになることなんて毎日ですよ。正直言って行く意味なんてないですし。

 これが役に立つことなんて、この先ないでしょう。

 はたから見れば笑いごとで終わりますけど。ハッキリ言ってぼくたちのやっていることは自害も同然です。

 羽江さんの言う通り、今まで通り何も知らないで毎日を過ごす方が色々とこの部の為にもなるでしょう。

 ですけど、


「止めないよ」


 秋野先輩は笑みを浮かべてそう口にする。


「なんでですか」


「だって正体不明や、科学で検証できないの。みんな大好きでしょ!」


 また始まりましたね。秋野先輩の情熱が。羽江さん言葉を失っていますよ。


「現実的なことが書かれているだけじゃハッキリ言って詰まらないでしよ。それならファンタジーのように、何か神秘的な物を書いた方がよっぽどいい」


 これ意味分からないですよね。だってまるで新聞でやる意味ないんですよ。

 新聞ってそもそも楽しませるような物じゃないと思いますし。小説を書けばいいじゃないですかってなりますよね。


「確かに新聞じゃないと言われればそれまでだよ。今でも周りから小説ってよく言われる。けどあたしは思うんだ。それでもみんなは楽しんでくれるし、簡単に捨てられる紙よりかはよっぽどいいって」


 元々秋野先輩の記事って読みやすくて評判は良かった方ですから。怪異路線ってだけでそれ全部ダメにしていますけどね。

 おかげで新聞サークル毎月存続のピンチ。生徒会に何度新聞とは硬いものだと注意されてきたことですか。

 それでも秋野先輩は怪異で書き続けている。


「あたしはこれからも怪異を撮り続ける。日本に轟く怪異新聞社に昇り詰めるために!」


 子どもっぽいですよね。というより子どもそのものですよね。

 ぼくも昔同じこと質問して同じ回答が返ってきましたからね。今も変わらないって並大抵の思いじゃできません。

 それこそ才能、人より何倍もの努力って奴です。


 羽江さんは震える声でぼくの方へと振り向いた。


「氷濃さんは」


「はい?」


「氷濃さんは止めないんですか」


 止めるか止めないかですか。

 羽江さんの目、全てを見据えるような真剣みを帯びた鋭い眼光。

 そこまで本気で訪ねて来られたら、こちらも茶化せないですね。


「一途に頑張れる人って良いですよね」


「……はい?」


 何度かクラスメイトに言われたことがあります。秋野先輩についての噂話に陰口を。この年になってって。

 そう言って、最近のスマホで動画を取るんですよ。それが妙に不思議なんです。

 若い内は挑戦した方がいい。その言葉を実践する同級生たちが馬鹿にするんです。まるで自分の居場所を作るために。

 ともあれ、


「居心地がいいんですよ。この場所は。達観するより、踊る阿呆に見る阿呆です」


 なら、ぼくも一緒になって楽しんだっていいじゃないですか。

 それに秋野先輩って、分野が違うだけで似ているような気がするんですよね。ぼくと。


 羽江さんは完全に言葉を失ってしまったみたいですね。そしたら秋野先輩に「ありがとー!」って抱き着かれた。

 ここまで裏表が無い人もある意味では珍しいんですけどね。


「……分かりました。今度わたしが上に掛け合ってあなた方に依頼をします。どうですか?」


「ほんとに! やった! 聞いた聞いた氷濃!」


「ええ、聞きましたよ。良かったですね」


 怪異ですからね。場所が遠かったらそもそも行くこともできないので、今回はかなり助かりましたね。

 羽江さんは日程等は後日伝えると言うと、扉に後ろ手をかけた。


「無謀なのを自覚してください」


 扉が閉まった。

 たまらず秋野先輩が両肩を振り上げ、喜びの声を上げた。その際、ぼくの背中もバンバンと叩いてきた。少し痛みますけど、今回は許すと致しましょう。


  *  *  *


 そうしてまた後日、今日も今日とて、授業終わりのチャイムが鳴る。

 本当にいつもと変わらない暖かな日差しに、つい眠たくなってしまう。

 というより、講義中に流れる子守歌で寝ていました。失礼なのは分かっているけど、雅子先生の講義って睡眠作用があると思います。

 ぼく以外にも、かなりの人が寝ていることが多かったですし。普段真面目に受けている人も寝ていると考えれば、もうセラピーの領域ですよね。

 ああー、このまま二度寝できそう。いやもう眠い。


「ふわぁ」


「チル!」


 不意に声を掛けられたような気がして振り返る。

 そこにははかま姿で仁王立ちする女性。剣道部の早乙女先輩が立っていた。

 雰囲気としては武士に少し幼さが混ざり合った感じですかね。よく凛々しさから女子の間では人気だって秋野先輩から聞いたことがあります。

 同級生女子も何人か色めき立っているようですしね。あの話は本当なのでしょう。


「助っ人頼みたいんだけどできそう? 練習試合も近いのに熱で何人か寝込んじゃって、頼めるのチルしか」


 早乙女先輩は手を合わせて頼み込んできた。だけどぼくは丁重に頭を下げる。


「誘っていただけるのは嬉しいのですが、お断りします」


 ぼくの剣は剣道には通じませんからね。

 怪異を斬るようになってからというもの、先祖の修業が実践よりに……。


「炎樹はどうでしたか?」


「エンね」


 中学時代、早乙女先輩はまだぼくが先輩をやっていた時の先輩です。

 その時、炎樹も一緒にやっていましたので、早乙女先輩はエンと呼んで可愛がっています。

 炎樹の剣はぼくと違う。

 とある漫画の言葉を借りるならそうですね。誰かを守り、傷つけさせない為の剣ですかね。


「じゃあ妹さんの剣。少し見学してみない?」


 早乙女先輩何か企んでいますね。目が泳いでいると言いますか、何といいますか。

 少し話の進め方も強引のように思えましたし。

 ぼくは剣道から離れた者。もう一度上がるのは失礼でしょう。


「今日も同好会がありますので」


「そう……だよね。うん、すまないね。無理言った」


「炎樹の剣は家で見させてもらいます」


 それでは失礼しますとぼくは頭を下げた。色のある言葉が早乙女先輩へ波のように押し寄せている。

 あっ、もうそろそろ部活が始まる時間じゃないですか。急がないと。


 *  *  *


「そんなことがございまして」


「氷濃ってそんなに強いんだ」


「剣道に関してはそんなですよ」


 ……あれ? 遅刻に関して怒られないですね? 珍しいこともあるものです。


「そんなことより大変なんだよ!」


「何が大変なんですか?」


 いつになく切羽詰まった口調で秋野先輩は切り出した。


「新聞同好会が潰れちゃう!」

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