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ツンデレとはこういうことを言うんでしょうね

 練習が終わった7時ごろ。

 ぼくはガラガラと引き戸を開けて家に入る。

 後ろ手で扉と鍵を閉め、ぼくは玄関にばたりと倒れました。

 痛んだ足を擦る。

 ズキズキとした痛みを訴える腕を揉む。

 それからぼくは身体を大の字に伸ばしました。

 先祖から受けた痛みだけはどうしても慣れません。

 治りが遅いというんでしょうか? それとも継続した痛みが襲ってくると言えばいいのでしょうか?

 2時間ほど立てなかった小学生の頃に比べれば、成長していると言えるのかもしれませんが。

 今では1時間経つか経たないかくらいで痛みが引きますからね。

 なんとか復活を果たせたぼくは「ただいまぁー」と言葉を送る。


 昭和な家の見た目に反して、門限とかはありませんからね。

 もう高校生ですし、それに両親はぼくの強さを知っていますから。

 むしろあんまり相手を虐めないでね、とくぎを刺されているくらいです。

 なのでどれほど深夜に帰ってきても、何も言われません。

 新聞同好会に入った時、最初に説明していたというのも一枚噛んでいるでしょう。

 ぼくはトレイを持ち上げ、居間に向かう。


「お帰り」


 とお母さんとお父さんから気ままな感じで言葉を返される。

 ぼくは居間の机にトレイを置きました。

 それからぼくに言葉を返さず、座布団の上で寝転がっている炎樹にそっと忍び寄る。

 炎樹は何時ものようにスマホを弄っては、ぼくの知らない情報をキャッチしている。

 暗転しているテレビを見ればぼくの存在に気づけるだろう。けれど、スマホに夢中になっている炎樹には分かるまい。

 そうしてぼくは忍者のように抜き足差し足で近づいていき、後ろから炎樹の首に腕を回す。


「炎樹ー。ただいまぁー」


 炎樹、完全無視。

 しかめっ面のまま、気にせずスマホを弄り倒している。

 なので気づいてもらえるよう、ぼくは炎樹の頬をプニプニと指で突く。


「ただいまぁー。炎樹ー。お姉ちゃん帰ってきたよー」


「臭い。加齢臭が移る」


「ははは、相変わらず可愛い奴めー」


 眉を尖らせ、可愛く怒る炎樹の頭をぼくは撫でる。

 シャワーにはもう入ってきた後のようで、シャンプーの匂いが鼻孔を擽ってくる。

 炎樹は片手でぼくの頬を押し上げてくる。


「いい加減離れろ、クソ枯れ木! ウザいんだよ!」


 怒鳴られてしまった。

 嫌われたくないので、ここいらで止めておきましょうか。

 ちなみに炎樹はぼくのことを【枯れ木】と呼びます。

 枯れた姉貴で枯れ木だそうです。想像力が豊かですよねぇー。

 ぼくは炎樹から離れ、シャワーを浴びようとして立ち止まる。


「炎樹ー。髪ー」


「剥げろ!」


 洗ってもらおうと声を掛けたけど、断られてしまった。

 しかも見向きもされず。少しショック。


「流すだけなら自分で出来るだろうが。それとぜってぇ髪触んなよ」


 おぉ、これはお風呂の時に洗うから触んないでってことですね。

 分かりました。やっぱり炎樹はツンデレですね。

 嫌々言いながらもやってくれる。

 お姉ちゃん的にはもう少しデレの要素を増やしても良いと思うけどね。

 っと、いつも通り炎樹で遊んでいたら、お母さんから早くシャワー浴びてこいとのお達しが。

 もう少し妹と遊んでいたかったのにー。




 鼻歌混じりにシャワーを浴びてきたぼくは、居間へと戻っていた。

 くだらない話で家族と盛り上がりながら、和食を中心とした食事が始まる。

 焼き魚に大根の漬物、芋の煮つけ等々。バランス良く、味の沁みた料理に箸を伸ばしていき、ご飯と一緒にぼくは掻っ込んでいく。

 やっぱり、修行で疲れた後のご飯は格別ですね。

 ぼくの食べっぷりを炎樹が遠い目をしながら例える。


「……ブラックホール」


 成長の為には食べることも大事なので。

 10杯ほどご飯をお代わりした後、ぼくは両手を合わせた。

 ごちそうさまでしたっと。

 さてとっ、今日はぼくが洗い物の当番ですね。

 ぼくは袖をまくる。

 運ばれてくる洗い物に、洗剤を垂らしたスポンジを這わせていく。

 流れる冷水でぼくの指が悴む。

 どうすることもできないので、ぼくは我慢して食器を洗っては乾していく。

 何が興味をそそるのか。炎樹はテレビをつけて、心霊特集を見ていました。


「炎樹ー。その番組やらせだよー」


「……」


 炎樹はぼくの言葉を無視してテレビに食いついている。

 小学生の頃は「幽霊怖い~」って布団の中に潜り込んできたのに。

 今では驚くことなく、鼻で笑っている。

 ちなみに幽霊の正体は先祖。

 ほんと小学校時代の先祖は、ぼくと炎樹にどう接すればいいのか分からなかったのか、深夜によく脅かしてきましたから。

 そうして驚かされ続けた炎樹も、今や立派に見えない人の仲間入りになって。どこか感慨深いですね。

 ぼくはテレビに熱中している炎樹に、後ろから頬と頬を合わせる。


「大丈夫? 怖くない?」


「黙れババア。くっつくな、鬱陶しい」


「ははは、可愛い奴めー」


 暴言を吐いた炎樹の頭を、ぼくは軽くぐしゃぐしゃと撫でてやる。

 炎樹は腕を振り上げて、ぼくの手を払いのけようとする。


「いてぇんだよ枯れゴリラ!」


「ははは……」


 反抗期の炎樹は可愛いなぁと頭を撫でていると、ふとぼくの視界に奇妙な物体が映る。

 テレビのカメラに映る不自然な白い霧。

 テレビに映っているそれは確かに霧なんです。

 けれど、真っ暗闇に包まれた山林の中、全体へ広がっているわけじゃないんです。

 円形の一部分。

 そうまるで洗面器に入った水のように、広がることなく漂っているんです。

 何かを探すかのように霧全体が移動している様なんて、まるで意志を持った生物のようにも見えます。

 テレビ越しのせいでしょうか。ぼくにはあれが霧にしか見えないんです。


 サァーーーーと木々の葉が擦れあう音が響き渡る。


「炎樹、あそこの霧何かわかる?」


 ぼくはおもむろにテレビに映る霧を指さしました。

 しかし炎樹はぼくに何を言っているのか分からないといった目を向けて言います。


「ついに幻覚まで見始めたか」


 どうやら炎樹には見えていないようですね。

 いえ、テレビに映る芸能人にも見えていない様子。

 それどころか霊媒師の方も見えていないようで、のほほんとした顔立ちで会話に参加しているようでした。

 番組は終盤に差し掛かっているのでしょう。

 山林から出ようとしているので、多分問題はないでしょう。


 カメラは切り変わり、白い霧が映らなくなりました。

 次のシーンでは芸能人たちが誰ひとりとして掛けることなく、番組終了の話しをしているようでした。

 何事も無くて良かったと、ぼくは少し胸を撫でおろしていました。

 そんなぼくを炎樹は嘲笑います。


「ビビりかよ」


 だってあれは仕方ないと思うんです。

 見える人にしか分からないと思うんです。

 あの白い霧に目のようなものなんてありません。

 けれどぼくにはハッキリと分かったことがあるんです。

 あの白い霧はぼくたち、カメラの方をじっと見つめていたような気がするんです。

 芸能人たちを視界に映していたような気がするんです。

 もしこれ以上立ち入ればどうなるか、警告しているようにも見えたんです。

 茂みを踏み鳴らす足は風と同化して聞こえず。一般人には目に映ることのない不定形の何か。


 あれは人間の恐怖、正体不明を具現化したようなものにも思えます。


 この存在に、ぼくはひとつ思い当たる節がありました。

 なるほど、つまりこれが影法師バトル!

 秋野先輩から聞いたことがあります。

 精神力を具現化した、人の目に映らない存在同士を戦わせるバトル漫画を。

 多分あれですね。きっとぼくたちの知らない場所で影法師を出現させて戦わせていたんですね。

 きっとどこかで、不自然に人が吹っ飛んだり血を出していたり、激熱なセリフ回しをしていたりするに違いありません。

 ちょっとワクワクしますね!

 炎樹が半目になってぼくを睨んできます。


「なんか今、全部台無しになった音が聞こえた気がする」


「何がですか?」


「敬語になってるし」


 ほんとだ。

 いつもの癖ですね。

 さて、番組も終わったことですし、お風呂にしましょうか。

 ああいうやばそうな物に自分から関わる必要はありませんからね。秋野先輩から来た時にやると致しましょう。

 膝立ちに変えたぼくは炎樹の肩を揺らします。


「炎樹ー。髪洗ってー」


「クソガっ!」


 今日は後、六時くらいに投稿できればいいなぁと思います。

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