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黒霧  作者: よた
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『これが真相でございます。美しき山から出た火山灰を陛下はご覧になられたのでございます。その証拠に、その日に秦の漁師たちが黒霧を目撃しております。よって報告は以上となります。砂嵐に合わなければ、早くて一月後には――宮殿へと戻りますので、ご不明な点がございましたら、そのときお申し付けください。 ――理宇(りう)


 始皇帝は震える手で竹簡を畳むと、しばらく黙ってから机の脇にある竹簡のやまに投げ捨てた。そのあと周囲を何度も見渡して、天子が云々と意味不明なうわごとをぶつぶつと一人で呟いていた。そのあと、従者に竹簡の山を片すように申し付け、そのあとまた別の従者を呼んで、自らを露台に運ばせた。天を見上げ、大きく深呼吸し、大声で叫ぶように言った。


「は、は、は! まんまと騙されたわ! つまり、秦に怖いものなしということだ!」


 後ろに控えていた側近たちは頷いて始皇帝に拍手を送った。その中には丞相じょうしょう李斯りしも交じっており、その表情は無、そのものであった。


 李斯は、《もう先は長くない……》と口が裂けても云わぬが、思わずにはいられなかった。なぜなら、これはもう一目瞭然であったのである。寿命を伸ばすという怪しげな薬を処方されてからというもの、始皇帝は徐々に体力を無くしていき、根拠のない妄想に憑りつかれることもしばしばであった。


 始皇帝の様子を眺めていると、従者の一人がやってきて、李斯を呼んだ。李斯は始皇帝に一礼して席を外すと、廊下へと出て、周りに誰もいないことを確認してから、従者のことを見た。従者は袖にしまっていた、竹簡をすこしだけ見せ、耳打ちするように言った。この竹簡はさきほど始皇帝が読んでいたものである。


「こちらは李斯さまにお返ししたほうがよろしいでしょうか?……」


「うむ、預かっておこう」


「ははあ……」従者は下がった。


 李斯は始皇帝のいる露台へ戻った。始皇帝は戻ってきた李斯を見て、首を傾げてから聞いた。


「どうした、何かあったのか?」


「はい、大変申し上げ難いのでございますが……」李斯は従者から受け取った、竹簡を取り出し、言った。「この理宇という男。海を渡る途中に嵐に見舞われ、船が転覆し、そのまま亡くなったとのことでございます。聞くところによると、海神……が出たそうでございます」


「やはりあれは正夢か! よし、を持ってこい! 朕が直々に相手してやろう!」


 始皇帝は従者に下ろすように命じると、一人で立ち上がり、廊下を歩いていくのであった。


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